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オロチの子種  作者: 雛鳥めっせ
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第二十一話「頑強」

 その一言に周りがざわついた。

 態度の急変と突然の申し出に戸惑っているようだ。

 しかし痛々女が動じている様子は一切なく、泰然たる態度で自分に与えられた仕事をこなす。

「私が赤霧みとせ様の血力を受けると不能になる、と仰せでしょうか」

「そうよ。今のうちに聞き届けてほしいのだけれど」

「…………」

 痛々女は何を考えているのか読めない深い黒色の瞳でみとせをじっと観察した。

 やがて得心したようにこくりとうなずく。

「承知致しました。では最後にお相手をさせて頂きます」

 その言葉を聞いたみとせはくるりと踵を返し、俺の隣に並んだ。

「言うことを聞いてもらえてよかったね」

「ええ、私のせいで他のみんなに迷惑をかけるわけにはいかないもの」

 恐らく今回も最後まで“この調子”が続くんだろうな。

「な、なあ、みとせちゃん、だよな」

 恐る恐る、怖いものへ触れるようにクラスメイトが声をかけて来た。

「ごめんなさい、私、血力を使おうとすると体が滾って性格が変わっちゃうの。終わったら元通りになるから、とりあえず私を抜いて先に始めておいてくれる?」

「あ、うん……」

 俺もついでにフォローしておこう。

「今のみとせは何というか……運動後の高揚みたいなもんだよ。体を動かした後は気分が明るくなるでしょ。それと同じで血力を使おうとすると気分がハイになっちゃうんだ……わかるかな」

「あーなるほど……そういうことね、何となくわかったよ」

 態度は変わっても中身はいつもの優しいみとせであるとわかってもらえたようで、クラスメイトはおとなしく元の位置に戻っていった。

「赤霧みとせ様の鑑査を最後に回させて頂き、続きから順番に執り行って参ります。では始めに伊丹信介(いたみしんすけ)様」

「はいっ!」

 出席番号順に一人一人クラスメイトが呼ばれていく。

「説明は不要ですね。では始めて下さい」

 痛々女は全身の力を抜き、両腕を体側にそっと当てて直立の姿勢をとる。

 誰の目から見ても無防備であり、戦う意思すらも感じられない。

 内外ともに戦意ゼロ、完全なるサンドバッグ、生きた訓練人形と化していた。

「はぁぁぁぁ……ッ」

 伊丹君が腰を落とし、引いた右腕に力を溜めていた。

 体中に流れている魔力が一部位に収斂され、力が高まっていく。

「岩山衝ォォォッ!!」

 ゴヅッ、と鈍い音を立てて地面を思いきり殴りつける。

 すると痛々女の足元がもぐらの移動跡のようにかすかに盛り上がり、直後、地中から飛び出した石の塊が痛々女の華奢な体を勢いよく宙へと突き上げた。

「…………ッ」

 耳を澄ませていなければ聞こえないほどの小さな呻き声をあげる痛々女。

 岩を高速でぶつけられたのだ……即気絶してもおかしくない衝撃だ。

 しかし痛々女は血力をまともに受けたにも関わらず、意識をしっかり保ったまま、重力を感じさせない軽い着地音を立てて地面に降り立った。

「只今の血力は自分の狙った場所に出せますか?」

「まぁ、ある程度は」

「では今から私が合図を出して指を差します。すぐに今の血力を発動させてください。出来なかった場合は失格です。はい、ここ」

「うわあっ、いっ、いきなり!?」

 失格などないのだが、言葉に踊らされて慌てて血力を発動させる伊丹君。

 しかし心の準備ができていなかったためか、痛々女の指示した場所から五メートルほど離れたところで岩が突き出ていた。

「成程、精度は四ですか。では次は発動不可に陥るまで血力を連発してください。場所はどこでも構いません。もっと大きい岩を出せるのであれば必ず出してください。はい、始め」

「ッ、うあああぁぁぁ!!」

 伊丹君の血力が発動するたびにガコンッガコンッと硬く、重い音が辺りに響き渡った。

 一〇発ほど打ったあたりから彼は汗をかき、肩で息をし始めた。

「お辛いですか?」

「はぁっ、はっ、はいぃ……もう、打てません……ッ」

「承知致しました。燃費は良くなさそうですが単発の威力も大きいですし、二といったところですか」

 痛々女が手元の用紙にサラサラと何かを書き足していく。

「お疲れ様で御座いました。伊丹信介様の血力鑑査はこれにて終わりです。他の方がお済みになるまでお休み下さいませ」

「はあ、あ……ありがとう、ございました……っ」

 伊丹君はマラソンを全力で走り終えた後のようなフラフラとした足取りで、隅に用意してあった椅子に腰掛けた。

「では続けて参りましょう」

 その後も名前を呼ばれた者は痛々女の指示通りに血力を発動させ、その能力を採点されていった。

 どのような血力を受けても痛々女は痛がる素振りを見せないうえ、怪我もしていない。

 次、次……と何事もなかったかのように鑑査員としての仕事をこなしていく。

 そして次はいよいよ、俺の出番となった。

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