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オロチの子種  作者: 雛鳥めっせ
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第二十話「痛々女」

 たおやかに頭を下げる様は見本にしたいほどの完璧なお辞儀であった。

 異様な雰囲気をまといながら丁寧な所作で俺たちを出迎えてくれる姿勢に若干引け目を感じる。

「皆様の中で私『痛々女』をご存じあげない方はいらっしゃいますか」

 クラスメイトは誰一人として声を上げない……過去の血力鑑査で何度も会っているからだ。

 痛々女とはその身に痛みを感じることで自分の存在意義を認識するという変わった性質を持つ妖怪だ。

 全ての生き物が食べ物から栄養を摂取しなければ生きていけないのと同じように、痛々女も痛みを体に刻み込まなければこの世に存在すらできない。

 もし痛々女に長い間痛みを与えなかった場合、次第に姿が薄れていきやがては完全に消失してしまう……その期間は一ヶ月から三ヶ月ほどとされている。

 日々傷つけられるという特性上、痛々女の肉体は非常に頑強で再生能力もかなり高い。

 仮に人でいう致命傷を負ったとしても平然として生き続けるし、そもそも痛々女は妖怪であるため死という概念がない。

 妖怪とは人間の創造物の結晶、ゆえに人間が地球に存在している限り痛々女たちも滅びることがないというわけだ。

 痛々女に限らず、この世界にはまだたくさんの妖たちが現存している。

 敵対する者、味方する者など色んな種類があるが、痛々女は人間に協力的な妖怪であるといえる。

 とりあえず俺たちは、これから、発動させた血力で、躊躇なくこの痛々女を攻撃する。

 受けた血力の威力や精度、燃費(コスト)、範囲を算出し記録として残す。

 先ほど痛々女の言っていた『鑑査員兼被検体』とはそういうことだ。

「では順番に参りましょう。名簿は頂いております。始めは赤霧みとせ様からですね」

 痛々女の黒い目がみとせに向けられる。

 何度も痛々女に会ったことがある人でも、慣れていない人は痛々女に見つめられるだけで思わず後ずさりしてしまうものだが、みとせはむしろ真っ向から視線を受け止めていた。

 昔から感じていたことだが、あの奥手なみとせがこういう強気な態度でいられるのはすごい。

 俺なんか初めて血力鑑査を受けた時、思わずビクッて体を揺らしてた。

 でも、みとせは初めてでもそれがなかった。

 たまたま妖怪には抵抗がなかったと考えるのが普通だけど、理由はそれだけじゃない気もする……何故だろう?

「悪いけど、私は最後にさせてもらえるかしら」

 みとせはいつも通りのおどおどとした言動を全くとらず、泰然自若とした姿勢で痛々女を見下ろしていた。

 みとせの普段の言動を知るクラスメイトは彼女の態度の変化に違和感を覚えてその場に立ち尽くす。

 事情を知っている俺だけはあらかじめこうなることを知っていたので驚かない。

「特別な理由が御座いませんと順番の変更はお受け致しかねます。理由を教えて頂けますでしょうか」

 痛々女は表情を変えぬまま、淡々と業務口上を述べる。

 みとせの態度の変化によるクラスメイトの動揺など意に介していなかった。

 そんな中、みとせはみんなにも聞こえるほどの声量でハッキリと告げた。

「私が最初にあなたを攻撃したら、後の人が鑑査をできないからよ」

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