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オロチの子種  作者: 雛鳥めっせ
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第十一話「みとせの過去」

「でもどうしていきなりペットの話? 飼おうと思ってるの?」

 ほどよく水分を吸った白米を一口分ほおばり、咀嚼しながらお母さんの話を聞く。

「ほら~暗い話題になっちゃったじゃない? 明るいお話しないとだめでしょう。せっかくのご飯の時間なんだし」

 買い物から帰ってきた時にリンゴの件に関して俺が言葉を濁したことで、良くないことがあったと咄嗟に判断したはずだ。

 一人で悩まずみんなに打ち明ける場を用意してくれ、なおかつ場の空気も整えるアフターケアまでこなしてくれたお母さん。

 いつもぽや~っとのんびりしてるけど、家族絡みのことになると頭の回転が速い。

 家族の中にはもちろん、みとせも入っている。

「みとせちゃんも何か困ったことがあったらおばさんに言ってね? 遠慮しなくていいから。私たちは家族も同然なんだから」

「っ……はい、ありがとうございます……」

 小さく会釈するみとせ。

 お母さんの言葉に合わせて、お父さんもうんうんと頷いていた。

 みとせの家庭事情は厄介なことになっていて、お父さんは死去、同時期にお母さんが尊属殺人で逮捕されて今も刑務所に服役中だ。

 現在、みとせの家には彼女一人しかいない。

 忌まわしい事件の現場に住みたくないことと、一軒家に独りぼっちでいることに耐えられなかったことから、みとせはすぐ隣にあった俺の家――瀧真家――に居候する運びとなった。

「ねぇ尊」

 事件から十年経ったが、みとせは自分の家に一度も帰っていない。

 誰一人出入りしていないため、家の中は恐らく埃まみれだろう。

 みとせは自分の家はなかったことにしたい、接点をなくしたいからと、持ち物全てを家に置き去りにして瀧真家にやってきた。

 新しい服を買った後は、それまで着ていた服も燃やしていた。

 灰になっていく自分の服を見つめるみとせの瞳には、激しい憎悪と、哀しみの念が含まれていた……その光景は今でも忘れられない。

「あの、尊……?」

 みとせの家が家庭内不和だったことは、当時子供だった俺でも気づいていた。

 父からは毎日性的な視線で見られ、母には邪魔だと疎まれ……愛情を注いでもらえず、家の中ではいつも孤独を感じていたらしい。

 だけど、俺は何もしなかった。

 自分には何もできないからと、誰かが何とかするだろうと、時間があれば何かが変わるだろうと……何もしなかった。

 その結果……みとせのお父さんは亡くなって、お母さんは警察に連れていかれて、みとせは独りになった。

 泣きじゃくる彼女を見た俺は、怒りを覚えた。

 何もしなかった自分に。

 女の子につらい思いをさせながら、見て見ぬふりで自分は安全なところでのうのうと暮らしていたことに。

 ああもう、いま思い出しただけでも腹立たしい。

 なんで俺はあの時、みとせを助けてやれなかったんだ!

「尊」

 声をかけられて視線を上げると、目の前にはお父さんがいた。

 お母さんとみとせも、俺のことを見ている。

「あ……ごめん。なに?」

「何か考え事? 暗い顔してたけど」

 みとせが不安そうに顔を覗き込んでくる。

 ダメだ俺……みとせにこんな顔をさせるなんて。

 彼女にはずっと笑顔でいてもらわないと。

 俺は彼女に幸せになってもらうために、この人生を使うんだ。

「いや、何でもないよ。さっきのリンゴの件と、最近の事件についてちょっと考え込んでただけ」

「そうなんだ……」

「安心して。万が一みとせが事件に巻き込まれても、俺が絶ッ対に助けるから! 約束する!」

 俺の言葉を聞いてみとせはきょとんとしていたが、一瞬遅れて顔を真っ赤にさせ、視線を落とした。

「……うん……っ、ありがと……」

 そしてそのまま手元にあったみそ汁をちゅるると小さく口にした。

「いいな~うらやましいな~私も誰かにカッコいいこと言ってもらいたいな~」

「美智恵、お前が事件に巻き込まれても必ず俺が助けてやる」

「きゃ~っ!」

 お母さんもみとせと同じように顔を真っ赤にさせ、手元でシャカシャカと山芋をおろしていた。

 お父さんも律儀だなあ。

 感心していると、こほんと一つ咳をついたみとせに話しかけられる。

「で、本当に聞きたかったことなんだけど……今度の身体測定のお話ね」

「ああ、うん」

 俺が考え事してた時に聞きたかったのはそれか。

 ……………………。

 それからは重い話題が出ることもなく、平穏な時間が過ぎていった。

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