異世界転生部
声劇用の台本です。
男女比は、1:3となります。
遠慮なく使ってもらえたら嬉しいです。
秋山/男……異世界転生部の部長。異世界に転生する以外のことは、基本頭にない。趣味はファンタジー系のRPGを周回プレイすること。
今村/女……秋山の幼なじみ。異世界の知識はないものの、幼なじみのよしみで入部することに。秋山に対してのみ、やや攻撃的な口調になりがち。
遠藤/女……今村のクラスメート。異世界転生部には仮入部中。異世界にもゲームにも疎い感じの、いわゆる普通の女子。
神里/女……数多の運動部から勧誘を受けるほど運動神経抜群であるにもかかわらず、ゲームが好きという理由で異世界転生部に入部した。
放課後の部室。秋山と今村と遠藤が真剣な面持ちで何やら話している。
今村 「あのさ」
秋山 「なんだよ」
今村 「素朴な疑問なんだけど、異世界転生部って実際、何をする部活なの?」
秋山 「異世界に転生するためにはどうしたらいいかってことを考えたり、実践したりする部活に決まってるだろ。それ以外に何があるっていうんだよ」
今村 「それ真面目に言ってる?」
秋山 「大真面目だよ」
今村 「(ため息)遠藤さん、どう思う?」
遠藤 「え……どうって?」
今村 「こいつの言ってること」
秋山 「こいつってなんだよ。ちゃんと名前で呼べよ。それか部長か」
今村 「バッカじゃないの? 何が部長よ」
秋山 「だって事実なんだからしょうがないだろうが」
今村 「もしかして、部長って呼んでほしいの?」
秋山 「そらそうだろ、現に部長なんだから。俺にはそう呼ばれる権利があるわけだし、お前らには俺のことをそう呼ぶ義務があるともいえるんだぞ」
今村 「権利とか義務とか意味わかんないから」
秋山 「はっはーん。さてはお前のなかで、俺のことを部長と呼びづらい複雑な事情が何かあったりするんだろ。なんなんだそれは? 部長の俺に話してみろよ。今なら特別に、部長の俺が相談に乗ってやらなくもないぞ?」
今村 「(無視して)……で、どうなの? 遠藤さんは」
秋山 「無視すんなよ!」
遠藤 「えっと……」
今村 「(気にせず遠藤に)真顔で異世界とやらに転生するだのどうだのと公言するやつってどう思う?」
秋山 「(今村を睨む)」
遠藤 「ああ……うーん、どうなんだろ、私にはちょっと……」
今村 「私にはちょっと?」
遠藤 「まだよくわかんないというか……」
秋山 「まあ、そのへんは気持ちの問題も大きいだろうな」
遠藤 「気持ちの問題?」
秋山 「遠藤が本気で異世界に行きたいかどうかって気持ちだよ」
遠藤 「はあ……」
秋山 「どうだ、遠藤、行きたいか? 己の魂に誓って、本気で行ってみたいと思えるか?」
遠藤 「行ってみたいってどこに?」
秋山 「(呆れて)お前、話聞いてたか? 異世界に決まってるだろ」
遠藤 「ああ……いや、私はどうだろ……」
秋山 「まさか、この期に及んで行きたくないとか言いだすつもりじゃないだろうな」
遠藤 「うーん……そんな急に言われても、そもそも異世界がどういうところなのか、私にはまだよくわかってないっていうか、正直ちんぷんかんぷんっていうか……」
秋山 「この前、本貸してやっただろ、異世界ものの。ひょっとして、まだ読んでないのか?」
遠藤 「だって、もうすぐテスト期間に入っちゃうから」
秋山 「早速言い訳かよ。お前、異世界転生部の部員としての自覚とかまるでないだろ」
遠藤 「自覚と言われても、私はただ人数あわせで入ってほしいって頼まれただけだから。それにまだ仮入部の段階だし……」
秋山 「(今村に)そうなのか?」
今村 「まあ暇そうだったし、入りたいクラブも特にないってことだったから、とりあえずね」
秋山 「そっか……まあ、そのへんは部の存続を優先的に考えたら致し方ないところでもあるが、それにしてももうちょっとな……」
遠藤 「なんかごめんなさい。うまく期待にそえられなくて」
今村 「別に謝ることじゃないわよ。ていうか、私も実際のところよくわかってないしね、異世界がどうとかって。ただ、幼なじみのよしみで仕方なくここにいるってのも大きいから」
遠藤 「あ、そうなんだ? それ聞いて、私もちょっと安心したかも」
秋山 「お前らなあ……もう少し嘘でもいいからやる気を見せてくれよ、やる気を」
今村 「(苦笑まじりに)やる気っていわれてもねえ」
遠藤 「うーん(笑ってごまかす)」
不意に部室のドアが開放されたかと思うと、神里が勢いよく部室に入ってきて、
神里 「やっほー、おまたせー。みんな元気にしてたかー」
遠藤 「あ、神里さん、おはよー」
今村 「おはよー」
秋山 「やっほーじゃねえよ、遅いんだよお前。4時から大事な会議があるって、ちゃんとラインで伝えてただろ。読んでなかったのかよ」
神里 「いやあ、ちょっとクラスのほうでゴタゴタがあってだなあ、正義感の塊でもある私としては、そのゴタゴタを放っておくわけにもいかず、それで少しばかり到着が遅れてしまったのだ」
秋山 「なんだよ、その意味不明の言い訳は」
神里 「といったわけで部長、お詫びの印と言っちゃなんだが、今ここで全裸になるから許してくれ(と制服を脱ぎだす)」
今村 「えっ!?」
秋山 「(動揺して)ちょ、ちょっと待て! おい脱ぐな、脱ぐなよ?」
神里 「(脱ぎかけのまま静止して)どうしてだ? 私の全裸が見たくないのか?」
秋山 「(動揺を引きずりながら)見たい見たくないとかって次元の話じゃなくて、全裸はともかく、お前がたとえ服をひときれでもこの場で脱いぢまった時点でいろいろ問題になって挙げ句、部の存続どころの話じゃなくなるから」
神里 「じゃあ、部長はこの不実な私を、なんらご奉仕することも手酷いおしおきを受けることもなしに許してくれるというのか?」
秋山 「許す。許すから、とにかく脱がないでくれ」
神里 「そうか……(笑)さすがは部長だな。心が広い。私としては全裸になるだけでなく、それなり以上のちちくりあいを要求されたとしても、部長が相手であれば最悪構わないどころか、むしろ歓迎すべき羞恥プレイかもしれぬといった覚悟でここまでやってきて、どうせならってことでみずから脱ぎだし、すでに気持ちよくなっていたところだったのだが」
秋山 「どんな覚悟だよ。つーかお前、俺のことをいったいなんだと思ってるんだ?」
今村 「(動転して)ちちちちち、ちちくりあい……しゅしゅしゅしゅ羞恥で、ききききき、気持ちよく……?」
遠藤 「今村さん……大丈夫?」
今村 「あ、あ……あなたたちって、ま、まさか、そそそ、そういう関係だったの!?」
秋山 「アホか、そんなわけ……」
神里 「(遮って)そうだぞ、知らなかったのか? 今村。私と部長はすでにズブズブでズボズボの関係ってやつだぞ?」
今村 「ズブズブ……でズボズボ……(と気を失う)」
遠藤 「あ、今村さんがまた落ちた」
秋山 「はあ……」
神里 「(今村を抱きかかえ)おーい、今村ー、戻ってこーい」
今村 「(目を覚まし)……ごめん、ちょっとぼーっとしちゃってた……えっと、何の話してたんだっけ?」
神里 「全裸の私を全裸の部長が天井に吊るして、血みどろになりながらも互いを貪りあっての最終的には『失楽園』の役所広司と黒木瞳みたいな」
今村 「(再び気を失う)」
遠藤 「あ、また……」
秋山 「神里、お前、わざとやってるだろ」
神里 「(笑)ん、なんのことだ?」
秋山 「はあ……」
少しの間。
遠藤 「今村さん大丈夫? もう少し休んでたほうがいいんじゃない?」
今村 「平気よ、炭酸水の飲みすぎでちょっと頭に血がのぼっただけだから」
秋山 「お前が炭酸水を飲んでるとこなんて見たことないけどな」
今村 「うるさいわね、いいでしょ、別にそこは(神里に)……で、クラスで何があったのよ」
神里 「へ?」
遠藤 「あ、私もそれ、ちょっと気になるかも」
神里 「ああ、私が遅刻した理由のことか。いや、まあ、じつは大きな声じゃ言えないんだが……」
今村 「え、なになに?」
神里 「……おっと、すまん、だめだ。この話は他のクラスのやつらには絶対に他言しないようにと口止めされているんだった。危ない危ない」
今村 「ちょっと、そんなふうに焦らされたらよけい気になるじゃない」
遠藤 「うんうん、途中で話やめちゃうのはなしだよ」
神里 「って言われてもなあ、ああ、どうしよっかなあ、言っちゃおうかなあ、いやでもなあ、うーん……」
今村 「大丈夫だって。私たち、絶対に誰にも言わないから。約束する。ここだけの話にしとくから」
神里 「ほんとか? 信じていいのか、その言葉? そうとくれば私はすべてをここにぶちまけて」
秋山 「(遮って)気をつけたほうがいいぞ、神里。こいつの特技は、すぐ気絶することと自分に都合のいいことを言って相手をたぶらかすことだから」
神里 「そうなのか?」
今村 「(前のセリフとかぶせる勢いで)私がいつどこで誰をたぶらかしたっていうのよ!」
秋山 「あのなあ、小中高と何年間、お前のことを見続けてきてると思ってんだよ。幼なじみ舐めんな」
今村 「(照れながらもどこか嬉しそうに)べ、別にたぶらかしたとかじゃないし……あと、気絶云々の話は今関係ないでしょ」
神里 「いやいや、危うく今村の口車に乗せられて、私のクラスに関することだけでなく私の性癖といったところまで、あることないこと含めそのすべてを暴露してしまいそうになるほどの勢いだったぞ」
秋山 「性癖ってお前な……」
神里 「ハッハッハッ、そっかそっか。そのへんはさすが今村だな、ただでは起きぬといったところか」
今村 「何よ、私はただ神里さんのクラスで何があったか知りたかっただけじゃない。ていうか、あんたもいいかげん異世界の話ばっかりしてないで、たまには学校生活や他のクラスの動向なんかも気にしたほうがいいと思うけど」
秋山 「他のクラスのゴタゴタなんかどうでもいいんだよ。言っとくが、俺は異世界転生の話しかする気もないし聞く気もない」
今村 「はあ?」
秋山 「なぜならここは異世界転生部の部室で、今は会議中だからだ」
今村 「異世界とか転生とか言われても非現実的すぎて、あんた以外はみんなピンと来てないと思うんだけど」
秋山 「みんなって、それはお前と遠藤にかぎったことだろ。自主的にこの部に入ってきた神里と一緒にするなよ。ほら見てみろよ、あいつの目を」
一同、神里を一斉に見る。
秋山 「異世界が好きでたまらない、転生したくてしょうがないって目をしてるだろ」
神里 「……え、異世界とか転生とかって何の話?」
秋山 「(ため息)お前もかよ」
遠藤 「そういや、神里さんはどうしてこのクラブに入ろうと思ったの?」
今村 「そうそう。そこ、たしかにちょっと違和感あった。神里さんならたとえば運動部からとか他にいくらでも勧誘ありそうなのに」
神里 「いや、私はただ『我が部ならゲームやり放題』って部活勧誘のポスターに書いてあったから、それにつられてきただけなんだが」
秋山 「お前、そんな不純な動機で……」
神里 「不純なのか?」
今村 「よく言うわよ。その不純な動機とやらを与えてしまう宣伝文句を考えたのは、他の誰でもないあんたでしょうが」
秋山 「…………」
今村 「もうさ、この際、クラブの名前もかえちゃったら? ゲーム部とかさ」
秋山 「ゲーム部?」
神里 「おお、それは存外、妙案だと思うぞ」
今村 「異世界転生部なんて意味不明のクラブが認可されるような学校なんだから、今からゲーム部に名称変更したとしてもまったく問題ないでしょ」
遠藤 「たしかにそのほうが部員は増えるかもしれないね」
神里 「そしたら私は休日もここに押しかけて、一日中ゲームしまくるぞ。うん、それがいい。そしてみんなでeスポーツの大会に出場するために連日連夜特訓しよう!」
秋山 「しねえよ。ゲームはあくまでいつ異世界に転生してもいいように、ファンタジーの世界観に慣れ親しんどくためのものとして用意してるだけだからな。オマケなんだよ、ゲームは」
神里 「それはもったいない。宝の持ち腐れってやつだぞ。PS4もスイッチも大画面モニタもあるこの環境下で、それらを致命的に野放しにするなんて……よし、これを機にみんなで格闘ゲームをやりながら思いっきり汗をかこう!」
秋山 「格闘ゲームもやらないし汗もかかねえよ。何がこれを機にだ。そんなに汗をかきたいんなら、とっとと運動部にでも入れ」
神里 「もー冗談じゃないか。本気にするなよ、部長。私はもちろん、他のみんなも異世界が大好きだし、転生できる可能性がわずかでもあるというのなら本気でそこにかけてみたいと思っているはずだぞ。な、そうだろ?」
今村 「そうだろって、そんな爽やかに問いかけられてもねえ」
遠藤 「(困惑)う、うーん」
秋山 「神里、だからこいつらは俺らと違って、異世界にはちーっとも興味を示さない連中なんだよ」
神里 「そうなのか?」
今村 「別に興味ないなんて一言も言ってないじゃない。勝手に決めつけないでよね。非現実的すぎて、ちょっとついてけないって話ならしたかもしれないけど」
神里 「非現実的だから楽しいんじゃないのか?」
今村 「え?」
神里 「なあ? 部長」
秋山 「いや、俺は十分現実的に可能だと思ってるんだけど」
神里 「えっと……まあ、部長の話はひとまず置いとくとしてだな」
秋山 「置いとくのかよ」
神里 「なんだろう……たとえば、最初のうちは荒唐無稽であり得ないって思っていたものにそれでも全力で向き合って、試行錯誤を重ねていくなかで、ちょっとずつ自分たちの手の届く距離にまで近づく感覚っていうか、そういったものをみんなで体験するのって単純に楽しいと思うのだが、どうだろうか?」
遠藤 「試行錯誤かあ」
今村 「まあ、たしかにそれは一理あるかもね」
神里 「というわけで部長。鉄は熱いうちに打てとばかりに、我が部で合宿を行うことを提案したいのだが」
秋山 「合宿?」
神里 「合宿行って、ともに汗をかこうじゃないか!」
秋山 「かかねえよ。お前さっきからそればっかじゃねえかよ。だいたいなんで、このタイミングでいきなり合宿って言葉がでてくるんだ」
遠藤 「でも、みんなでどこかに泊まりに行くのは楽しそう」
秋山 「どこかに泊まりに行くって、旅行じゃあるまいし」
今村 「たしかに行き詰まってるときに、気晴らしでパーッとどこかに遠出するのはありかも」
秋山 「行き詰まってるって、まだ発足したばかりの部なんだが……」
神里 「部長はどこに行きたいとかって希望はあるか?」
秋山 「希望?」
今村 「私、ハワイに行きたい!」
遠藤 「あ、いいかも」
秋山 「いきなり海外かよ」
神里 「よし、思い立ったが吉日ってやつだ。来週の定期テストが終わり次第、みんなでパスポートを取りに行こう!」
今村・遠藤 「おおーー!」
秋山 「行かねえよ。つーか、なんでさっきからお前が仕切ってんだ」
神里 「でも部長、異世界を知る前にまずは私たちの住むこの世界を知ることも大事なんじゃないのか? ヨーロッパの街並みとか、南米の遺跡群とか、異世界っぽくて参照しがいがあると思うのだが」
秋山 「お前らが今、勝手に盛り上がってるのはハワイだろ。異世界とかぜんぜん関係じゃないじゃん」
神里 「海がキレイだぞ」
秋山 「だからなんなんだよ」
神里 「部長はハワイに行きたくないのか?」
秋山 「俺が行きたいのは異世界だけだ……俺はただ、お前らと一緒に異世界に行きたいだけだよ。それ以上でもそれ以下でもない」
一同 「…………」
秋山 「おい、どうして黙るんだ? 俺、今、何かおかしなこと言ったか?」
神里 「いや、部長はほんとに異世界のことしか頭にないんだなあと思って」
秋山 「悪いかよ」
神里 「(笑)まったく」
遠藤 「……行けるといいね、異世界」
秋山 「なに他人事みたいに言ってんだよ、遠藤。俺らが行くんだろうが」
遠藤 「俺らって……ここにいる、みんなでってこと?」
秋山 「そうだよ。当たり前だろ」
神里 「(笑)当たり前か」
今村 「仮に異世界というものが本当にあるとして、いったいどうやって行くつもりなのよ」
秋山 「それをこれから考えていくんだろ。みんなで一緒に」
神里 「(笑)みんなで一緒にな」
秋山 「ああ、そうだ。あっちの世界は楽しいぞ、絶対。俺が保証してやるよ。マジで確実に楽しいから」
一同 「(悪くない笑顔を浮かべ)……」
秋山 「といったわけで、そろそろ本題に入るとするか……遠藤」
遠藤 「ん?」
秋山 「書紀頼む」
遠藤 「はーい」