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準備は整ったか?いいや、まだだ。

RPGゲームを最初から始めたとしたなら、まずなにをするだろうか。


街の住民全員に話しかけ情報収集をし、街で最も高価な武器や防具を調べ、それらが全て揃うまで雑魚モンスターを狩り、一撃で倒せるくらいまでのレベルになってから減った回復アイテムを上限一杯まで買い込んで次のエリアへ進む。

俺、椎名優樹はそういうタイプのゲーマーである。


つまり、なにが言いたいかというと…



右手で握った杖を高々と掲げる。

びっしりと文字らしきものが刻まれ淡く光る杖は俺の身長よりも丈が長い。

だが重さはほとんど感じず、逆に握っているだけで力がみなぎる---ような気がする。


【慈愛の杖】


偽りの塔3層のレアドロップ品であり、現時点で光術師装備出来る最強の武器だ。

運よくこいつを手に入れることが出来たからこそ、最難関の4層がクリアできたと言っても過言ではない。


「ウォーターボール!」


杖の先端にバスケットボールサイズの水球が作り出される。

俺はそれの目標を3m程先に設置してある藁人形に定めた。


すると、ビュン!と重い音と共に水の塊は発射され見事藁人形へと直撃する。

ベキッと藁人形は斜めに傾き、辺り一面水浸しだ。


「なるほどな。ゲームではターゲットサークルで目標を決めてたが、こっちじゃ目視確認だけで狙うことが出来るのか。」



異世界生活二日目。


俺、椎名優樹が何をしているのかというと、見ての通り魔法実験だ。


こっちの世界で生活するにしても、自分が何をどこまで出来るのかきっちり把握しておく必要があるからな。


俺のキャラであるユキはほぼ全ての職業レベルをカンスト状態。

装備も光術師まではいかないが、そこそこ良いもので揃えている。

この辺りに出てくる魔物が昨日の熊クラスが一般的であるのなら負ける要素はない。


だがイレギュラーは必ずある。

俺が読んできた異世界転生系ラノベには特にその傾向があった。

勿論、窮地に追い込まれると凄いパワーが覚醒し状況を打破するというのがテンプレなんだが、

俺にそれが出来るとは考えにくい。というかそんな状況に出会いたくない。


であれば、事前準備は必須。

石橋を叩いて叩いて叩き壊して、鉄製の橋で通り直すのが俺の信条だ。


「さてと、それじゃもう少し試してみますか。」


先程までボロボロだった藁人形はいつの間にか新品同様の状態に戻っている。

が、それは別段驚くようなことではない。


あの藁人形は通称【サンドバッグ】と呼ばれる物で、スキル回しの練習が出来る庭具の一つだ。

どれだけダメージを与えても、ある一定時間が経過するか耐久値が0になると元に戻るといった仕様である。


「ウィンドカッター!」


次の魔法を口にする。

すると一瞬で薄緑色の刃が形成され、目標に向かって飛んでいく。


魔法には詠唱時間か必要となるタイプと無詠唱で発動するタイプの2種類がある。

一般的に魔法とは詠唱が長いものほど効果が高く、短ければ効果は低い。勿論当てはまらない魔法も多くあるのだけど。


今使った【ウィンドカッター】は魔法職が最初に覚える攻撃魔法だ。

【ウォーターボール】は【ウィンドカッター】よりも威力は下だが、追加効果として相手を後退(ノックバック)させることが出来る。


「ウィンドカッター!ウィンドカッター!ウィンドカッター!」


立て続けに呪文を唱える。

風の刃は次々と形成され藁人形を切り刻む。一見無駄な行為に見えるかもしれないが、これにもちゃんと理由がある。それは…


「ウィンドカ…!?」


突然の眩暈。

だが、少しフラッとしただけで倒れるほどではない。

杖を地面に付け態勢を整える。空いている左手で目の前の何もない空間をサッと払うと、

ゲームでよく見慣れた自身のステータスウィンドウが表示される。

そこには満タンのHPバーと半分まで減ったMPバーが映っていた。


「MPを消費し続けるとこうなるわけか。」


半分消費してこれだ。もしも0になったらどうなる?

知る必要はあるが今日はこの辺りでやめておこう。決してビビってるわけじゃない。勘違いしないでよね。


「ご主人様。」


後ろを振り返る。そこには口の悪い美少女エルフメイドが。

両手を前で組み、ピンッと背筋を伸ばし綺麗な姿で立っていた。


「なんですか、シンシアさん。」


「昼食の準備が整いました。とっとと食べてくださいませ。」


「ちなみにメニューはなんですか。」


「…ラーメンと炒飯、そして餃子です。」


なんだかんだで俺の要望に応えてくれるエルフメイド。

もしや、真摯な気持ちでお願いすれば夜の世話もしてくれるのだろうか。

いやね、そんなことをお願いするつもりはないよ?ほんとだよ?


「変態的な妄想は自室でなさりやがって下さいませ。」


ゴミでも見るかのような視線を向けるシンシア。うん、だいぶ慣れてきたぞ。


…このままでいいのか、椎名優樹。


◆◆◆◆◆◆◆


ずずずっ…


「…」


ハフッハフッ…


「…」


こってりなのにあっさりとした細麺の豚骨醤油ラーメン。

分厚いチャーシューはホロホロと簡単に口の中でほぐれ溶けていく。

ニンニクの効いた炒飯は胃袋を刺激し、パリパリの餃子がカロリーを更に加速させる。


美味い。美味いのだが…


「シンシアさん。」


「なんでしょうか、ご主人様。」


「その、なんといいますか。ずっと後ろに立っていられるとですね。」


「?。……いえ、分かりました。そういうことですか。」


何かを察したシンシア。

流石は俺がキャラメイクした美少女エルフメイ---あれ?デジャブ??


「食べさせてほしいのですね、気持ち悪い。しかしご命令とあれば致しかたありません。」


レンゲを手に持ち炒飯を軽くすくう。

自身の口元まで持ってくるとフーフーと息をかけ熱を冷ます。

そして、空いた手で耳元の髪をかき上げながらレンゲを俺の口元へと差し出た。


ばかな!

これが夢にまで見た、『はい、あーん』なのか!?


「って違う!そうじゃない!!」


「しっかり食べていらっしゃいますが。」


それはそれ。これはこれ。


「なんていうか、監視されてるみたいで気になるんだよ。」


「…申し訳ございません。では私は隣の部屋におりますので、御用があれば御申しつけ下さい。」


そう言うとシンシアは一礼をし俺の傍から離れていこうとする。


「いや、違う!邪魔とかそうじゃなくて!」


「ではなんでしょう?」


「一緒に食べないか?一人で飯食っても味気ないし。」


「私は使用人ですので、後程いただきます。どうぞお気になさら---」


「なら命令だ。飯はこれから一緒に食べる。いいな?」


「ですが……かしこまりました。命令でメイドを意のままにする。ご主人様はそういうプレイがお好きなのですね。」


どうして人の好意をそう捉えるんだ、このメイドは。

嫌いじゃないけどもさ!どっちの意味でも!!


「では少々お待ちください。私の分を持ってまいりますので。」


シンシアは台所へと向かう。

後ろ姿がなんだが嬉しそうに見えるのは俺の願望なのだろう。


……

………


「あの、シンシアさん。」


「今度はなんですか、ご主人様。」


シンシアは俺の命令通り、一緒のテーブルでサンドイッチを食べている。

食べているけども!


「どうして隣に座っているのですか。」


しかも近い。女の子特有と噂の良い香りがする。24歳童貞の俺には効果が抜群だ。

これならさっきのほうが緊張しなかったじゃないか!!


「何か問題ございますか。」


相変わらずの無表情。俺は見逃さなかった。

一瞬、フフンッて顔してたぞこいつ!


「ご主人様。せっかくの料理が冷めてしまいます。さっさと召し上がって下さい。」


「ぐぬぬっ…。」


結局、終始緊張しっぱなしだった俺はしっかりと味わうことなく昼飯を終えたのだった。

畜生め!!



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