告げられる事実
玄関からリビングへと移動した俺は、長いソファーに腰を掛け自分がおかれている状況をシンシアに説明する。
話を聞いている間、彼女は表情一つ変えず手慣れた感じでお茶の準備をしていた。
「つまりユキ様は女性ではなく男性であり、加えてユグドラシル(ここ)とは異なる世界の住民である---と。」
「簡単に言うとそうなるな。」
「なるほど、理解いたしました。」
小さな物音一つ立てず出来上がった紅茶を俺の目の前に置くシンシア。
まさにメイドとして完璧な姿だ。
「前々からそうではないかと思っておりましたが、やはり…ですか。」
シンシアが口にしたのは予想外の言葉。
相変わらず無表情なので何を考えているのか読み取れないが、言葉の節々に自信のようなものを感じる。
うんうん。流石は俺が一日かけてキャラメイクしたメイドだ。
こんな突拍子のない話を素直に理解するとは!
「やはりご主人様は残念な方だったのですね。私の目に狂いはありませんでした。」
…
……
カップを手に取り紅茶を口に含む。
うん、美味い。
「シンシアさん、これは一体なんの茶葉を---」
「残念な方だったのですね。」
「誰がもう一回言ってくれと頼んだ。」
「メイドとは常に主人が何を望んでいるか察するものです。たとえそれが残念な主人であったとしても。」
「だから残念残念連呼するんじゃねぇ!!」
「そんなに褒めないでください、照れてしまいます。」
銀のお盆で口元を隠し若干頬を染めるシンシア。
ちくしょう、作っていると分かっていても可愛いじゃねーか!!
「しかしご主人様。3年もお戻りにならず、一体どこで何をしていらっしゃったのですか。いえ、興味は全くないのですが。」
唐突にシンシアは爆弾を投下させる。
「今…なんて?」
「興味は全くないのですが。」
「そこじゃない!もうちょっと前だ!」
「3年もお戻りにならず、どこでグダグダと油を売っていらっしゃったのですか。」
余計な言葉が追加されているがあえて無視をしよう。
「3年…だと?」
「はい。」
「いやいや、そんなわけないだろ。最後に俺がここへ帰ったのは偽りの塔に向かう前だぞ!」
俺がユグドラシル(こっち)に来てまだ半日も経っていない。偽りの塔最終階へ挑んでた時間を考慮しても24時間経っていないのは明白だ。
「おっしゃる通りです。それが今より3年前。厳密には3年と68日前のことでございます。」
どうかされたのですか?と言いたげな表情をするシンシア。
出会ってからずっと無表情だった彼女が表情を曇らせる。だがそれ以上に俺は衝撃を受けていた。
3年が経ってる?
つまり現実世界から異世界に飛ばされた際、時間軸がズレた?
それが本当だとするなら、現実世界でも同様に3年…いや、下手すりゃそれ以上に時間が過ぎている可能性があるってこと…だよな……。
「ご主人様。」
「へ?」
「お代わりを。」
知らず知らずのうちに飲んでいたらしく、カップはいつの間にか空となっていた。
最初の一口は美味しかったはずなのにそれ以降の味を覚えていない。
「長旅でお疲れなのです。しばらくお休みになられたほうがよろしいかと。」
「あ、あぁ…そう……だな。」
シンシアはそれ以上何も言わず、黙って俺の横に立っていた。
◆◆◆◆◆◆◆
「3年か…。てことは俺27のオッサンじゃんか。笑えねぇ…。」
ベッドへ勢いよく体を預ける。
スプリング効いているおかげで背中が痛むことはなく、柔らかな布団が体を包んだ。
二階の自室はゲーム同様にきちんと整理されており、3年経っているというのに埃一つ落ちていない。
シンシアがこまめに掃除をしてくれているからだろうか。
「実感ないことばかだな、ほんと。」
突然ラノベよろしく異世界に飛ばされる。
外見はそのままなのにゲームキャラと同じ服を着て、しかも魔法まで使える。
豪邸に帰ってみれば、口は悪いが綺麗なエルフメイドがいる。
それで---3年も時が経っている。
「眠って目が覚めたら現実に戻ってるってオチなら笑い話なんだけどな。」
だがその可能性はほぼ0に近い、そんな気がする。
確証はない。だけど、昔からどういうわけか悪い予感だけは的中してるんだよな。
「もう向こうには帰れないってことなのかね…。」
正直、『帰らなくてもいいんじゃ?』て気持ちはある。
別段、現実の世界に未練があるわけでもないし。両親は…まぁ心配してるかもしれないが。
それ以上のことは特にない。友達も少ないし、彼女もいないし、金が有り余ってたわけでもない---悲しくなってくるからこれ以上はやめよう。
であれば、こっちの世界で第二の人生を送ってもいいかもしれない。
なんといっても異世界ファンタジーだ。
剣と魔法と美少女がいる。うん。そうだな。
「前向きに考えよう。なるようにしかならんのだし。」
ポジティブだ。ポジティブに考えろ椎名優樹。
毎朝通勤ラッシュ、上司の顔色窺い、無駄に多い飲み会。その他もろもろがなくなるのだ。
そう!
俺はがんじがらめの鎖から解放され、本当の自由を手に入れた!!
「手に入れたのだ!!」
「左様ですか。」
…
……
「…いつ入ってきたのですか。」
「あぁどうしよう。あんな綺麗なメイドさんがいたら毎晩ドキドキして眠れないよ、辺りからです。」
「一言も口にした記憶がないんだが。」
「安心してくださいご主人様。たとえ痴呆症になられてもこのシンシア、簡単に見捨てるような真似はいたしません。」
「つまり見捨てる可能性はあると。」
「ご想像にお任せします。」
よし、想像してみよう。
「ご主人様。私の淫らな姿を想像していらっしゃる中、大変申し訳ないのですが。」
このメイドに優しさや思いやりという文字はないのだろうか。
メイドってのはこう、もうちょっと母性に満ち溢れているだろ?
いやね、無表情で毒舌系ツンツンメイドなんて設定にした俺がいけないんだけどもさ。
…実際、悪くはない。
「夕食の準備が整いました。いい加減服を着替えてちゃっちゃと降りてきて下さいませ。」
そう言うと、シンシアは一礼をして部屋を出ていく。
言われてみればずっとフル装備のままだったな。
せっかくだし外見重視で防具性能皆無のオシャレ衣装を着てみるか。
「いや、ちょっと待て…。ユキは女キャラだったから持ってる衣装は全部……!!」
ベッドから飛び起き一目散にクローゼットへ駆け寄り、バァーン!と効果音が付きそうな勢いで開く。
中にはそれはそれは色とりどりの女性服。
続いてタンスの引き出。
勿論そこには、まるで宝石箱のような女性用下着の数々がズラリと並べられている。
「あーーーー!!!やっぱりかぁぁぁぁ!!」
「……お元気そうでよかった。」




