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21話「失敗作は事実を受け入れたくなかった」

「……は」


 喉の奥から息が漏れる。


「……はは」


 それはだんだんと言葉の形を取り始める。


「……ははは」


 気が付けば、乾いた笑みを浮かべていた。

 

「ははは。メルが、転生者? 冗談を言うならもうすこし面白いのにしてくれ」

 

 それこそほんとうにつまらない冗談を笑い飛ばすように。エルサも同じような反応をしてくれればどんなに良かったことか。憐みのような、馬鹿にしたような、呆れたような、慈悲深いような。

そんな視線を俺に向けている。

 それがエルサの口にしたことが事実と何より物語っていて。

奥歯を強くかみしめ、ギリと鳴った。


「ふざけるなよ……! 言っていいことと悪いことがある。神様だろうが何だろうが、そういうことを言うなら――」

「なぜ違うと思うのかしら?」

「――は?」


 エルサは割り込んできた。出鼻をくじくようで、勢いが幾分かそがれてしまう。


「なんでって……そりゃ……」


 改めて言われると言葉に詰まる。メルが失敗作というのは俺の中で当たり前のことだった。その理由を説明しろと言われても、困る。

 待て待て。落ち着け。ここで黙ってしまったら、認めてしまったと同然だ。


「……そうだ。メルは女だ。能力を使えて女なら、それは失敗作だろ」

「なんで?」

「なんでって……女は魔力が多いから、神の力が阻害されて精神の植え付けに失敗するから――っ!」


 そこまで口にして、息に詰まった。

 気づいてしまった。この理論の欠点に。それを察したのか、エルサはいやらしく笑みを深めた。


「気づいた? そう、この子は生まれつき魔力が少ないのよ。それこそ、男並み(・・・)にね」


 また奥歯が鳴った。

 確かに、そうかもしれない。だが、まだだ。まだメルが失敗作じゃないときまったわけじゃない。


「それだけじゃない。メルの能力には、きちんと欠陥がある。それこそがメルが失敗作である――」

「欠陥が本当に欠陥とは限らない。あなたはユーマの時にそう学ばなかったのかしら?」

「それ、は……」


 語尻がしぼんでいく。確かにそうだ。あのときだって欠陥があるからユーマは失敗作と思い込んでいた。だが実際には、欠陥なんて存在せず彼は転生者だった。


 ならメルもそうだというのか? たしかにメルは人の傷を治した時、自分に移っていた。あれが欠陥といわずになんだというんだ。


 ――いや、待て。本当にメルの能力は治癒なのか?

 

 ふとそんな可能性が頭に浮かんだ。


 エルサはメルの体を使って、精神を乗っ取っただけだ。ならさっきまでの能力もすべてメルの能力じゃないのか?

 エルサがさっきまでしていたのは二つ。傷を相手に与えるのと、相手の能力を手に入れること。

 後者の能力をもし傷にも使えたら?

 もし相手の傷を奪うことができるとしたら?


 パズルのピースがどんどんはまっていくような感覚。だがその完成した回答は、むしろ俺にとって悪いことでしかない。


「……メルの欠陥は存在しない。欠陥だと思っていたのもメルの能力の一部……?」


 うかがうようにエルサに視線を向けた。

 お願いだ。首を振ってくれ。憐みの目線を向けてくれ。違うと笑ってくれ。

 そんなことばかり考えながら。


 だが彼女は――


「正解」


 エルサは先ほどと同じようにパチパチと手をたたく。


 言葉が出ない。乾いた喉が異様に気になった。

 嘘だ。エルサが俺を馬鹿にするために嘘をついているんだ。

 必死にそう考えようとしても、エルサがそんなことする理由もないと、他でもない俺自身が否定する。


 だがそう考えればいくつかの違和感がなくなる。


 

 なぜ彼女は子供のころやけに大人びていたのか。

 ――転生して精神年齢がずっと高かったから。


 なぜ神なんてろくでもないといったのか。

 ――転生時エルサと会っていたから。


 なぜ俺たちには訳が分からなかったユーマの言葉にメルだけは反応できていたのか。

 ――それはおそらく異世界の言葉で、メルもそこの住人だったから。


 なぜユーマはメルだけを引き込もうとしていたのか。

 ――ユーマの能力でメルが転生者と知ったから。


 なぜユーマ含め六人の同じ位置に傷があり、メルの服がその位置が破れていたのか。

 ――メルが自分を傷つけ、それを他の人に移したから。


 なぜ先ほど剣が何本も刺さった時、あんなに懸命に能力を発動しようとしたのか。

 ――それこそ本当に能力を使えば、傷を消してケジルを倒すことができるから。


 なぜエルサが精神を乗っ取ったのがメルなのか。

 ――メルこそが他でもない転生者だから。


 そもそもそんなことを考えている時点でメルが転生者と認めたようなものだ。

 でも感情は認めたくなくて。

 でも理性は認めていて。

 自分の中で二つが葛藤する。

 悩んで、葛藤して、頭の中がぐちゃぐちゃになって。

 そして俺は――


「ふざけるなぁぁあああ!!!」


死剣を取り出し、エルサに向かって振り下ろした。

 その姿がメルだとか、もう俺の頭にそんなこと考えてなかった。今はただ。ただこのぐちゃぐちゃな感情をどこかにぶつけたかった。ぶつけて、安心したかった。


 エルサは剣が迫ってきても避けようとも防ごうともしなかった。

 ただ呆れたような視線を俺に向けながら、死剣を受け止める。俺はエルサを、メルの体を切り裂いた。

 切り裂いた、はずなのに――


「ぐっ……がっ!」


 その傷は俺に移っていた。感情に任せて思いっきり剣を振った分、傷は深い。そしてそのしわ寄せはすべて俺に跳ね返ってきた。

 何の前触れもなく襲ってきた激痛に立っていられない。そのまま地面に倒れこんだ。ジクジクと傷が焼ける痛む。傷と土がこすれて痛い。


「馬鹿ねえ。この子には能力があるのに」


 呆れたような声が頭上から降りかかる、顔を上げれば目の前に彼女の足がある。


「く、そ……」


 唸りながらトリガーを引く。そしていつも通り気を失い、数瞬後に目覚めた。ザワリと全身をなでるように悪寒が走る。その悪寒に慣れていないからか、精神的なダメージが大きいのか、いつもより体がだるく、鉛のように重い。

 剣を杖代わりに地面に突き立て、それを支えにして何とか起き上がった。顔を上げ、目線の高さが同じになる。エルサは意外そうに眼を少し見開いていた。

 だがすぐに納得したように小さく息を吐く。


「ああ、そういえばあなたの能力は不死だったわね。ふむ、厄介ね」


 ずいと彼女は顔を近づける。それこそ目と鼻の位置。少し前に進めばくっついてしまうほどに。エルサが浮かべる、メルの童顔に似合わない妖艶な笑みがさらに深まった。そして人差し指を俺の額にトンと当てる。ひんやりとした温度がそこから伝わってきた。


「あなたのも、もらうわね(・・・・・)


 ぽそり、と。しずくを落としたような声だった。


「――っ!!??」


 全身を訳の分からない違和感が包み込む。自分の何かが失われたような、自分の中心の何かが引っこ抜かれたような。そんな感覚が気持ち悪くて、声にならない叫びをあげ倒れこむ。俺の精神が激しく乱れ死剣も消えさった。


 ――なんだ、これ……!


 気持ち悪い。気持ち悪い。

 全身に虫が這っているような感覚。必死に前進を掻きむしった。

 ガチガチと歯が細かくなり、背筋に嫌な汗が伝う。

 フフと頭上でエルサが笑うが、そんなの気にしている余裕もなかった。


「あまり、私の邪魔をしないでね」


 そう告げるとともに、ざっざっざと土が踏まれる音が耳に届いた。

 その瞬間、メルがどこかに行ってしまうという恐怖感俺を支配する。


「待て……待ってくれ、メル……!」


 気持ち悪さに身をさいなまれながらも、彼女の背中に手を伸ばした。ただ一生懸命に。ただただ、メルに行ってほしくなくて。だが俺の手は宙をつかむだけ。

 次第に視界がにじんできた。メルの背中がにじむ。それが、彼女がそのまま消えて行ってしまうような気がして。どんどん心をむしばんでいく。


「メル……メル……」


 ただ茫然とその名を口ずさんでいた。もうにじんだ視界は彼女を映し出してはいない。

 瞼は自然と下がっていく。もう俺に、それに対抗する力は残っていなかった。

 そして俺の意識は闇に沈んでいく。


 意識が消えるその瞬間まで、俺は彼女の名をつぶやいていた。


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