番外編 永く待ち輝き焦がれて涙する
まえがき
これの時系列はあまり気にしないでください。
一応”頭の中では”時系列的に噛み合うようにしてありますが、細かい描写入れると酷いネタバレになるのでご了承ください。まぁその時期になってから読んでも『うーん?』みたいな感じになるでしょうし、とりあえず完全孤立した番外編だと思ってくれて問題ありません。一話完結。
あ、でも一応8話までを読み終わってからを推奨しますね。
特別な行事が近くて、それに気付いて、暇と気分が合えばこういうのを投稿すると思います。…まぁ、大体急造品なので、話のクオリティはちょっと勘弁して欲しいですが…
そして何より、作者は適当です。その行事本来の意味より、その行事によって生まれた自分の感想と感傷と感覚を主に話を進めるので、本来の行事とあれ?それ原理的に違うよ??意味知ってる???みたいなツッコミは通じません。ツッコんでも、異世界を盾にして全力で言い逃れます。
まぁ多分大体シオンとナディエがいちゃいちゃする感じだと思うので、読み飛ばしてもらっても良いですね。
読んでくれた人は…ありがとうございます。七夕の夜に空を見上げましょう。もしかしたら紅と蒼が見えるかもしれません。ロマンチック!
ではでは。
あそこから少し歩くと、少し開けた広場のような場所を見つけた。
そしてその広場の中央に薄めの岩石が三つ重ねて置いてあった。その岩石を見ると岩と岩の間がちゃんと噛み合うように平たく削られているし、一番上に重ねられた岩の表面は丁寧に慣らされて、椅子にも机にも使える様になっている。
ここまでの加工技術なら岩窟族か無種族のどちらかだろうが何にせよ削られた形跡も大分昔の物。真新しい、警戒するような足跡や形跡も無かった。
そして何より……上を見あげると青空が鮮明に見えた。
ナディエに今日残りの一日過ごすと伝えると、微笑んで、快く承諾してくれた。
まず、森を走り回って適当に『笹っぽい植物』を引っこ抜いて岩の両脇に、挟むように差し立てる。ナディエは抜いて来た事に少し怒ったが…今日ばかりは、これを許して貰うしか無い。
内ポケットから青い短冊をナディエが、赤い短冊を自分自身が願い事を書く。長い事使わなかったから少し折れていたがそんなに問題があるわけじゃない。……それにナディエも、楽しそうに書いていた。
『シオンがいっぱい幸せになりますように』と柔らかい、優しい筆跡で書かれた青い短冊が、左の笹(暫定)に結ばれ風に揺られる。
『守る』とひたすら単純に、消せない程強い筆跡で書かれた赤い短冊が、右の笹(暫定)にきつく結ばれて、風も当たらないので文字をこちらに向けて静止する。
色々な事をナディエとやって、半日過ごして……遂に夜が来た。
「わぁ…!シオン、すごい!空が凄いよ!!」
「…確かに、綺麗だな。」
今は積まれた岩の上、手を繋いでナディエと座っている。
見上げた空にはか細い光を何度も瞬かせる星々が、規則性も無く無数に広がって漆黒を覆う。
そしてひたすら明るく輝く大きい星が点々と散りばめられて星空を鮮やかに彩る。
……それだけで圧倒される物があり、一人で過ごしていた時は何度も心の支えにしていた。
だが今日は違う。それだけじゃない。
「あの!あの…白い川!?凄いよね…ね!?」
「あぁ。あれが何なのかは…良く分からないんだが。」
「良いの!こういうのは、見て、綺麗って感じたら!それで良いの!全く…」
あの『川』。宇宙の星々の放つ魔力が滞った結果だ、とか星の光が年に一度魔方陣を描いて発動する長規模魔術、とか色々言われているのが気になり躍起になって探し回った時期があった。だが遂に正しい説を見つける事は出来なかった。
元より、自分の中に一つある、不確かで大きい事をハッキリさせる為にやった事だった。さほど問題じゃない。
手を繋いで、少し離れた場所にいるナディエは、俺の答えにすこし拗ねて空を見上げていた。
何時もは漆黒の中に白の砂、青や赤、黄色の輝く石と砂をばら撒いたような無規則な輝きが無数に無限に広がっているだけなのが、あの川によってばら撒かれた砂浜そのものが色を得ている。
鮮やかな紺色にも見えて、よるなのに空のような色合いの場所もあって、何より星空の中砂だけが放っていた白色が川のように流れている。それが……目尻に涙が滲む程美しく、眩しい。
星空の逸話は幾つもあるし、知っていれば一つ一つの星を指して教える事もできたが……一つしか、覚えてなかった。
『七夕の双星』。これだけは、俺を救った旅人が教えてくれたから鮮明に覚えてる。
教えて貰って…家族と大好きな人にしか教えちゃ駄目だ、と最後に言われて、冗談をでっち上げてからかわれたと思った。それが不満で…でも、アイツは。
――星空を見ていると、どうにも昔の事や今居ない誰かの事を考えてしまう。
そんな事を想っていたからか自然と、口から言葉が零れ落ちた。
「……七夕の、双星。」
「七夕の…双星……」
「ん、あぁ。…昔、教えてもらったんだ。七夕の双星って話。……教えてやろうか?」
「あ……えへへ…うん、知らないから…教えて欲しい、かな。」
ナディエが、少しはにかんだように微笑んだのが声で分かった。
少しだけ、ほんの少しだけナディエが此方に近づいてきているのが、分かった。
「…あの、川があるだろ。」
「うん…!」
川を指差して教えようとすると、ナディエは宇宙を見上げた。
「川を挟むように、紅と蒼の強い光を放つ星は見えるか。」
「あ…! うん、分かるよ。」
二箇所の、紅と蒼の輝星をゆっくりと指す。
…また、ナディエが少し寄って来て、俺の指の先を探す。
「その二つの星が、七夕の双星なんだ。」
「…うん。」
…ナディエの顔は宇宙を向いたまま、星明りを眺めている。
その横顔が、初めて見る程儚くて……今までの惚れる、惚れない関係無く、恋する可憐な少女の様だった。
いつの間にか、激しく鳴っている心臓を無視して、自然に熱くなる顔を気にせず、空を眺めて続ける。
「……青が天女、赤が天皇。青い天女は、天皇を好き過ぎた。赤い天皇も、天女を好き過ぎた。
見かねた星神とやらが、その二人を遠ざけた。……お互い余りに愛し過ぎて、駄目になると考えたらしい。
そして、二人は年に一度、川の岸同士でしか顔も合わせられなくなってしまった。」
「うん。ちょっと、哀しいよね…」
少し声を哀しくしたナディエが、手を握るのを強めたのが分かる。
……いつの間にか、肩と肩がくっつきそうな距離まで近づいているナディエ。
まだ、話は終わらない。あの『旅人』は、更に想ったんだ。
ナディエが、一瞬少し不思議そうに俺を見たが、話は続く。
「あぁ。哀しい。……だが、あの宇宙を超えた恋人同士は一年間、互いに別の時間を過ごす。
美味しいご飯を食べる。ひたすら楽しい祭りもある。ただ辛い仕事もある。多分、何でもアリだ。」
「……うん。」
ナディエは、再び宇宙を仰いで、相槌を打つ。
俺も宇宙を見上げ、旅人の言葉を借りながら、また俺の言葉を混ぜて、『旅人と俺の話』だった事を、『シオンとナディエの話』に書き換える。
また、星が瞬いた。
「そして、その過ごした何でもをこの川越しに、全部詰め込んで一夜で語り合うんだ。
辛かった、楽しかった、美味しかった、恋しかった、大好きだ、愛してる。全部…一年間を全部使って考える。
――溢れそうな想いを全部その年、一夜限りの言葉に詰める。そんなの、俺は…耐えられないな。きっと、泣く。」
「……うん。私も。そうだと想うよ。」
頬が微かに、熱い。
昔と現在を重ねて、自然と流れたんだろう。
「…それで、伝え切れなかった想いは光になる。
あの双星は青く…蒼く光って、赤く…紅く光って、詰め切れなかった想いを表す。
光は、川を越える、どんな距離も越える、どこまでも、際限無く、無限に超える。
しかも……今夜、想い伝える晩だけなんだ。あの双星があれ程まで輝くのは。毎年毎年、この一日だけ。
遠い遠い此処まで強く届く程光る。」
「………うん。」
彼女も、泣いていた。
「…川もな、夜が更けると段々大きく、綺麗になるんだ。……涙がそうさせる、らしい。
その川は、他の星も包んでいく。それがどこまでも綺麗に見える。今夜だけ、想いに当てられて……」
「……そう、だね。」
「ああ、なりたい……。離れてなくても、ああできるようになりたかった。ずっと、輝かせたかったんだ。」
泣いて、見失って、死んで、捨てて、歩いて、殺して、失くしていた。
本当に、良かった。
今、目の前で涙をぽろぽろ零す彼女は、輝いているから。
俺は、旅路を、振り返れる。
「だから。……ありがとう。ナディエ。」
「うん。シオン、私も……出会えて良かった。ありがとう。」
抱きついてきたナディエの体温を、全身で受け止める。
本当に、良かった。俺は……
――その晩の、双星が放つ赤と青の極光は……決して瞬けど弱まる事は無かった。
「…ふふっ……あ、そうだ。ごめんねシオン。…私このお話知ってたんだ。」
「あ…そうだったか。」
「え、えへへ……でも天皇と天女の心とか、考えた事も聞いた事も無かったし…本当に良かったと思ってるよ。
そ、それで……七夕の双星を、教えて良いのは…家族と恋人だけ…って事も知ってたよ?」
「…は?」
「…シオン、結構大胆な事出来る、よね………嬉しかったよ。そういう所、も…大好きだ、よ?」
「い、いや待ていや俺も大好き…え、あぁそれ冗談だといや待てえ、そんな、何だえぇじゃああの時もくぅっ…」
「…シオン。 」
輝く双星と川の元、過去と現在の二つに真実を叩きつけられて、頭を抱える少年が居たらしい。
少女は抱きついたのを離れて、身を引き手を握り微笑みかけて、幸せそうに小さく何かを呟いたそうな。
――そして、それを笑いながら、祝福するように双星は輝き瞬いた。
「すげぇ、な……いつか、俺もそんな風になれるかな?」
「なろうと思うんじゃねぇ。させるんだよ!輝かせる。それが男ってモンだろ!?」
「はぁ……そか。」
「……あーあ。マジくっだらねぇ事話したなー。…そだ、知ってるか?これなー…家族と大好きな人にしか話さない御伽噺なんだぜ?」
「はぁ!?マジかよ…お前……………いや、まっさっかぁ!!…もしかして今までの全部からかってたのか!?」
「ふははっ…いやいや違うぜー?――でも…オレは、さ……家族だとも、大好きだとも思ってるぜ?……頑張れよ。ユミト。…これから、さ。」
「……ふん。ろ、ろくでなしのクズめ…何…気取ってんだよ。言われなくても、やるやれる。頑張って行けんだよ!」
「その不器用さ…ふっ…それでこそ、オレの弟子だぁ!!」「弟子じゃねぇよッ!!!!」
――不器用な誰かが遠い涙と思い出す、暖かい記憶。