寝耳に水の拉致監禁、からの強制サバイバルで火すら起こせない俺の冒険の書1はここまでだ!
かち、と俺は河原で拾った石をぶつける作業を繰り返す。
かちかちかちかち。
むなしく音だけが響いて──
「あ、割れた」
俺は奇麗に割れた石を放り投げた。
普通の高校生だった俺は、ある日神様に拉致されて"島"に連れてこられた。そこにはトラック転生やバナナの皮、なんてフラグもなかった。
フラグがあったら、華麗に回避したのに。現代ファンタジー読者をなめんなよ、と毒付くが、一人ぽっちなのでかなりさびしい。
しかも、こういう時にお約束のアイテムチートも物理最強もなしである。ヒントやお助けキャラも、最強ヒロインもかわいいマスコットすらいない。これでどうしろと言うんだ。
だが、まあ。さんざんパニックになった後は、不思議と冷静になれるもので。
どんな最低な状況でも生きるしかない。だからこそ、今もこうやって火を起こそうと四苦八苦しているのだった。
かちかちと石を打ち合わせるのは、火を起こそうとしているのだ。
たしか、こうやって火花をちらして、枯れ草に火をつける方法があったはずである。
石を変えて、一時間近く格闘しているというのに、火はもちろんいぶし煙も火花さえ出てこなかった。
がっくりと肩を落として、はっと思い直して先ほど放り投げた石を探すことにした。
あの割れ方は、もしかしなくてもナイフ代わりに丁度いいんじゃないだろうか。
石の中で石を探す作業。
なんという先の見えない行いだろうかと、自分の短慮を後悔して──ようやく見つけた石は、衝撃で四つにわれていた。
もう少し丁寧にあつかっておけばと、自分の行動に後悔しきりである。
「はあ……」
溜息も出る。
俺は割れた石を一応手元に置くことにして、新しい石を選びだした。
頑丈そうな石が良い、気がする。
かちかちかち……俺は火を起こす作業に戻った。
夜は寒い。
服の隙間から冷気が忍び寄ってくる感じがする。
着の身着のまま攫われてきた俺は、もちろん布団や余替えの服など持っていないわけで。
「くしゅん!」
ニラかレモングラスみたいな雑草をまとめて作った布団モドキに潜り込んで、暖を……とれないから、風から身を守っていた。
この状況である。虫は同居人のようなものだ。刺さなきゃいいんだよ、刺さなきゃ。
幸いにももっさり生えていたハーブ──多分ローズマリー──を布団に混ぜている為、そこまで虫は寄ってきていない。
雑草の名前が分かるなんて、家でガーデニングしていた母に感謝する事があるとは思わなかった。
あ、もちろん草は例の割れた石で切ったよ。いやぁ、やっぱ捨てるもんじゃないね。とっとくもんだね。
ついでに、なんでも切れるエクスカリバーと命名しておいたから、いろいろ活躍してもらいたい。
しかし、お腹がすいてしかたがない。
幸いにもポケットに入れていたカ○リーメイトに命を救われたが、明日はどうなるんだろうか。
誰か他の人も来ているのかな?
原住民とか、いるのかな?
会えたらいいなぁ……ぐぅ。
翌朝、早々に俺のエクスカリバーが火を噴いた。
いや、嘘だよ。火が出てくれたらいいけど、そんなわけないよね。
木の枝をエクスカリバーで切りながら、俺のテンションは上がっていた。狙うはアケビである。
某T○KI○の冒険番組を見ていた俺は、アレがアケビという食べれる食材だと知っているのだ!
はっはっはっは──アケビを両手いっぱいに集めて、俺は上機嫌だった。
これで火がおこせたら、最高なんだけどな。
は! そういえば、木の枝を擦り合わせて火を起こす方法もあったっけ。
丁度良さそうな木の枝もあるし、いっちょやってみるか!
だめでした。
煙も出ないよ。え、ちょっと、本当にこれで火が起こせるの? マジ? 誰か検証した?
異世界召喚ファンタジー物では、軽々と火を起こしていたのに。
やぶれかぶれになった俺は、一縷の望みをかけてファンタジで知った全ての呪文を呟いた!
だめでしたー。
いや、これはアレだ。逆に考えればいいんだ。
火なんかいらない。俺は、脱・火文化だと!
「世の中はエコ! だったら、究極のエコ生活を! 脱文明を!」
俺はエクスカリバーを掲げた。
はい。だめでしたー。
そうだよ、火が無いってことは、生モノしか食べれないってことじゃん。
飲み水も生ってことじゃん。
だめだわ。俺、サバイバル無理──
山のように集めたドングリの皮をむいて潰しながら、俺は溜息をついた。
せっかくドングリを集めても、焼けないならダメダメじゃん。
蔓で編んだ袋にドングリを詰め、川に落とす。
「アクよさらばだー。HAHAHAHAHA──はぁ」
もうね、本気で溜息しかでてこない。
火が、火が欲しい。誰か、火をプリーズ。ドングリって生で食べれるの?
草を餌にして釣れた、あほなアメリカザリガニを見ながら、俺は──
- Game Over -
side.???
「あれ? 落ちてる? ゲームオーバー?」
「だから言いましたよね。都会っ子をサバイバルに連れだしても、ムリムリだって」
「えええ~。だって、あの子は"異世界召喚オッケー"で"誰よりも上手くサバイバルできる"って考えてる子だったんだよ? あれくらいのレベルのサバイバルはこなしてくれると思ったのに~、のに~」
「まあ、ねぇ。食べ物はある。植物も水も問題ない。サバイバルとしてはイージーですけど。
そもそも、"科学世界"の子を身一つで呼びだすなんてひどすぎますって。魔法世界の子を、魔力なしで呼びだすようなもんですよ?
次はその辺、考慮してあげてくださいね」
「むーう。"第二回 今が青春! 十七歳だけのチキチキサバイバルゲーム ─異世界混同選手権─"は予選落ちか……くーやーしーいー」
「異世界行きたいっていう人達は、同時に"最強の能力付与"があることが前提ですからね」
「君の生まれた世界だから期待したのに」
「そう思うなら、出身者のアドバイスは受け入れて下さい」
火をおこすのは大変です。