第二話 契約
「はぁ」
静かになった雑貨屋でステラは一人黄昏ていた。まだ朝方だというのに、気分は沈みっぱなしである。
うっかり男を一人殺してしまった。勢いでさっくりと。彼にも何か面白いものがあったかもしれない。殺してしまえば、それを確かめる術はない。人間として成長していく上で、色々と勉強しなければならない。
彼らも同じ人間である。屑には屑の考えや生き方があるのだろうから聞いてみても良かった。
『ご主人、なにをへこんでいるじゃん ほらほら、もっと元気だそうじゃん! 俺っち寂しいじゃん』
「それはどうでもいいとして」
『良くないじゃん』
「人間らしく生きるのは難しいってことよ。とはいえ、この身体じゃあまり余裕でもいられないのだけれど。難儀ねぇ」
人間は脆い。ステラの元に魔水晶がある今、警戒していれば簡単に殺されることはない。だが、不意を撃たれて心臓、或いは脳を破壊されたら一撃で死んでしまう。それどころか、この肉体ではどんな一撃でも致命傷につながる。気をつけなければならない。
『でもでも俺っちがいるじゃん』
「ふふ、頼もしいわねぇ。ただ甘えてばかりもいられないわ」
『それよりさ、死体の処理あいつに任せちゃっていいじゃん? あれ馬鹿っぽいからどこに放り投げられるか分かったもんじゃないじゃん』
「人間、死ねば肉塊でしょう。父と母は、私の心のなかに生き続けるから。――ふふっ、詩人になった気分ね。いつか素敵な詩を作りたいわ。人間としての無常観がいまなら出せそうじゃない?」
多分、悲しいという感情はあるのだろうが、それ以上特に思うことはない。彼らは死に、自分は生きている。死体と部屋の片付けはあのごろつき、ベックに処理を任せた。ストック商会には全員自殺したと届け出るそうだ。衛兵にはその必要はないらしい。領主の私兵であり、法や秩序をもとに彼らが動く事はない。みかじめ料やら税金を取り立てるのは縄張りを管理する組織。そこから領主のもとへと入っていく。だから、縄張りを管理する組織の意に背かなければ、特に大事になることはない。背いた場合は当然ながら制裁が加えられるだろう。ステラの父グレンは、逃げる道さえ封じられてしまったために死を選んだ。
『ウケケ、よく言うじゃん! そういう意味のないものが一番嫌いだったじゃん』
「分かるようになりたいのよ。こういう感情は鳥には分からないのかしら」
『分かりたくもないじゃん。俺っち、当分はまともでいたいじゃん』
「あっそう。それより、これからどうしようかしらね。お金はない、食べ物はあまりない、逃げようにも行く場所はない。放っておけば、借金取りは何度でもやってくる。肉壁のごろつきはあまり役に立ちそうにないし。変な鳥はうるさいし」
『ひどいじゃん!』
クレバーが喧しく飛び回る。
「ひどくないわ。事実でしょう」
ステラはそう言い切った後、冷めた珈琲に口をつける。売れ残っていた商品を勝手に頂いている。現在のこの店の持ち主は自分なので、特に問題はない。ちなみに服は当然着替え済みだ。身体も洗い流している。
「まずいわねぇ」
苦々しい顔を浮かべ、カップを置く。本当に不味かった。イライラする。舌がまだ慣れていないこともあるようだ。最優先で改善しなければなるまい。ステラは珈琲にはうるさい。昔から。
『冷めてるから仕方ないじゃん』
「そうね」
『本当にこれからどうするじゃん、ご主人? 逃げるなら先導するじゃん』
クレバーが真剣な顔つきで提案してくる。鳥の表情を見抜くのは意外と難しいが。ステラにはなんとなく分かる。
「歩き回れるほど今の私に体力はないわ。……借金を何とかして店を続けるのが最善なのだろうけど、信用も売る物もないわね。ふぅ、考えなくちゃねぇ」
店を見渡しても、特にこれといったものはない。客は本当にいなかったらしく、埃を被った日用雑貨と食料品がまばらにあるだけ。仕入れるにも金はない。前借したくてもこんな小娘のいう事を信じてくれる人間などいない。
(なら、新しい商品でも売ろうかしら。私にしかできないようなものを。この街の人間に相応しいものを――)
そんなことを考えていると、青褪めた顔をしたごろつき――ベックが帰ってきた。
「おかえりなさい」
「た、ただいま戻りました」
「ふふっ、そんなに緊張しなくてもいいのよ。私は10の小娘、貴方は20にもなる大人の男。もっとしっかりしてくれないと困るじゃない。頼りにしてるのよ?」
ニヤリと笑いかけると、背筋を伸ばすベック。嫌と言うほど恐怖を植えつけたので、反抗心は完全に萎えているようだ。雑用は当分の間この男に任せれば良いだろう。満足にこなせるかは分からない。
『あーあ、可愛そうに。ついてないねぇ、色男! ご主人に関わったのが運の尽きじゃん』
「と、鳥が、喋った?」
ずっと喋っていたのだが、それどころではなかったようだ。ベックは目を見開き現実を疑っている。
『世の中、そういうこともあるって! ささ、人生楽しもうじゃん! お前の人生、もう終わってるかもしれないけど! ウケケッ!』
「……もう、どうにでもなりやがれってんだ畜生!」
ベックはへなへなと座り込んでしまった。自慢のツンツンした茶髪も幾分萎れている。
「ねぇ、ベック」
「……な、なんだよ」
「貴方の元飼い主のこと、もっと教えてくれる?」
「し、知らねぇよ。俺はただの下っ端で詳しいことなんか」
手を振るベック。命令を理解していないようだ。
「知っていることを全部吐けばいいのよ。口ごたえしろとは命令してないの。いくら貴方がベックでも、分かるでしょう?」
ステラが額を指で突くと、ベックは慌てて立ち上がり話し始める。
ステラの父を嵌めたストック商会、率いるのはルロイ・ストック。ピーベリー西区でパルプド組合と覇権争いを繰り広げる組織である。他の勢力同様私兵団を抱え、金貸し、人買い、麻薬の密売、酒場、賭博、娼館経営、武器の売買から傭兵の派遣まで幅広く手がけている。ピーベリー五地区の纏め役であるジョージア家には大量の賄賂を渡し、便宜を図ってもらっている。いわゆるろくでもない連中というわけだ。
「なるほどねぇ」
「……悪い事は言わねぇ。ここからとっとと逃げるこった。それに、俺を殺したって借金は消えねぇぞ。アンタがいくら魔術を使えるからって、ストック商会の権力に勝てる訳がねぇ」
「別に勝つ必要はないのよ。話が纏まればいいだけだものねぇ。それじゃあ、新製品を売り込みにいきましょうか。ベック、そこまで案内をお願いね」
「おい、俺の話を聞いていたのか! 行ったら俺もてめぇも殺されるぞ!」
組織は裏切りを許さない。そして、舐めた真似をした人間も。ベックとステラは制裁を受けると言っているのだ。
『相方、ご主人に逆らっても無駄だぜ。基本的に人の話を聞かないからな! ウケケ!』
「そういうことねぇ。それじゃあ、さっさといきましょう。人間の人生は短いからね。無駄遣いしたらいけないわ」
嫌がるベックを先導させ、ピーベリーでも更に治安が悪い区画へと向かう。ストック商会の息が掛かったごろつきどもがたむろし、こちらへと不審気な視線を向けてくる。ベックがいなければ、確実に拉致か暴行されていることだろう。やはり生かしておいて正解であった。
そして、ようやく商会本部へとたどり着く。貴族でも住んでいるのかというような豪奢な館だ。門には護衛が10人、隠れているのが10人程度だろうか。かなりの警護体制だ。中には更に武装した傭兵たちがいるのだろう。それだけの権力を持っているということだ。
「あ、なんだてめぇら?」
門番が疑わしそうに声を掛けてくる。剣は直ぐにでも抜ける態勢だ。直ぐにかかってこないのは、こちらがベックと小娘の自分だけだからであろう。
「あの、俺は、取立て班のベックって者で。その、借金のことについて、この方、いや、この人がどうしてもルロイ様と話をしたいと」
「ああ? 何言ってんだお前。……頭おかしいんじゃねぇか? ルロイ会長は忙しいんだ。てめぇら下っ端や、糞餓鬼と話してる暇なんてねぇんだよ。おら、とっとと帰らねぇとぶち殺すぞ!」
威嚇してくる門番。仕方がないと、ステラは前に歩み出る。
「ねぇ、お兄さん。これをあげるから、ちょっとだけ私の話を聞いてくれない? 直ぐに終わるから」
「ん、なんだこりゃ。おいおい、もしかして値打ちもんか? ふへへ、こういう手土産があるならさっさと出せってんだ。言伝ぐらいは――」
魔水晶を門番に手渡してやり、一歩下がる。そして。
「――な、なんだこりゃ!?」
魔水晶が黒い光を放ち始め、門番から何か湯気のようなものを吸い取っていく。驚いた門番はそれを手放そうとするが、しっかりと掌にくっついてしまっている。必死に剥がそうとするが無駄なことだ。
「大変ねぇ、お兄さん。それはね、貴方の生命力とかを吸い取っているのよ。早く手放さないと、寿命がどんどん縮まっていっちゃうわ」
「ふ、ふざけんな! お、おい、お前ら、なんとかしてくれ!! あと、その餓鬼を殺せ!」
動転しながら周りの仲間を呼びつける。得物を抜き放ち距離を狭めてくる警護たち。
「それに近づくと、その人と同じ目に遭うわ。ちなみに、私を殺した場合、それが暴走してこの一帯全ての命を吸い取っちゃうかも。だから、私の扱いには気をつけてね? 嘘だと思うなら試してみるといいけれど」
ステラが薄ら笑いを浮かべる。門番たちは完全に動揺し、魔水晶を持った男から慌てて離れる。ステラの言葉通り、近づいた瞬間全身が脱力したのを感じたからだ。何か、良くないと直感で分かってしまった。本能が近づくべきでないと警鐘を鳴らしているのだ。人間というものは、そういったものを感じる能力があるようだ。
「お、おい!! 何とかしてくれ!!」
「後一分ぐらいで、死んじゃうわ。ね、貴方がただ一言“うん”と言えば、吸い取った生命力も返してあげる。それで、貴方の答えを聞きたいのだけれど」
「分かった、分かったからとっとと放してくれ! 頼むからもう勘弁してくれぇ!!」
泣きそうになりながら跪いたので、ステラは魔水晶を取ってやった。黒い光は収まり、白い湯気のようなものが男の身体へと戻っていく。
「ふふっ、話が分かる人で良かったわ。さ、私も忙しいからとっとと案内してね」
「……な、なんだったんだ、一体?」
「もう一度やる必要があるかしら?」
「い、いや、わ、分かった。約束通り案内する。だが、先に用件だけは聞かせてくれ」
「二度話すのは面倒だから絶対に嫌よ。時間の無駄でしょう」
ステラは笑いながら断ると、先をいくように促した。クレバーが慰めるように男の頭を羽で撫でている。
哀れな門番に連れられ、ステラとベックは会長室まで案内された。表の騒ぎは既に聞きつけていたらしく、武装した傭兵たちが周囲を取り囲んでいる。中央の豪華な椅子に座り、若い女を侍らしている男がいた。これがルロイ・ストックだろう。隆々とした筋肉を持ち、頭が少々禿げ上がっている。まさに盗賊の首領といった様相だ。力だけではなく、商才もあるようだ。でなければ商会をここまで大きくすることはできないだろう。そんなことを考えながら、ステラはてくてくとルロイの前まで歩いていった。
ルロイは女をどけると葉巻を吸いながら見下してくる。荒々しい手には巨大な宝石がついた指輪がギラギラと輝いている。悪趣味だとステラは思った。
「これはこれは、確か、グレン雑貨店の娘さんでしたかな。わざわざおいで下されなくても、うちの者がお伺いしたでしょうに。今日は借金返済の件でしょうか? どうにも滞っているようですがねぇ」
「ええ、確かに来てくれたのだけど。でも、ないものは返せないでしょう。だから、こうして交渉にきたの。不幸な事故で、両親が死んじゃったから。今日の朝方ね」
「それはお気の毒に。実はうちの者も今朝方一人やられたようなんですよ。今さっき連絡がありましてねぇ。何かあったのですか?」
丁寧な言葉だが、殺意を向けてこちらを睨みつけて来るルロイ。なんとなく嫌な気配を感じているのだろう。ステラの持つ魔水晶に視線が向けられている。ステラが死ぬと、暴走して周囲を道連れにするという脅しは耳に入っているらしい。それでもステラの面会に応じたのは面子があるからだろう。子供に舐められてはこの商売は勤まらない。
「ええ、ちょっとした不幸な事故でね」
「そうですか。まぁこの街では、よくあることですな」
ルロイが、召使に合図すると、椅子をステラの背後にもってこさせる。まずは座れということだろう。遠慮なくステラは座ると、差し出されたグラスに口を付ける。毒は入っていないようだ。
「ああ、これは美味しいジュースねぇ」
「喜んでいただければ幸いですな。貴族のお嬢様方にも好評のものでしてね。……ところで、今日はお貸しした金の返済ではなく、私に話があるとのこと。お互い忙しい身です、早速本題に入りましょうか」
「そうね。さっきも言ったけれど、両親が死んでしまって私にはあの店以外に財産がないの。お金を返したくても返せる状況じゃない。だから、ある物と引き換えにチャラにしてもらおうと思って、こうしてお願いにきたの」
「……ほう、それは随分ムシの良い話ですなぁ。一体、何を見せていただけるのやら」
ルロイは顎で先を促す。
「貴方、人間を廃人にするいけない物を売っているわよねぇ。教会禁制のいけない物を。えっとね、ベックから聞いちゃったの」
「…………チッ。てめぇ、こんな餓鬼相手に喋りやがったのか!」
周囲の傭兵が舌打ちし、剣に手を掛ける。公然の秘密ではあるが、正面からそれを認めることはできない。この大陸の主教、星教会は禁止している。それを堂々と認めることは教会に喧嘩を売る行為であり、問答無用の異端審問官が押しかけてくる。
「ひ、ひいっ! か、勘弁してください! 会長、俺は脅されて」
泣き叫びながらステラの近くへと逃げてくるベック。肉壁にもなれない男である。流石はベックだ。クレバーが警戒態勢に入る。
「やめておけ。そんな屑、殺すのはいつでもできる。……小娘、先を聞かせろ」
「私は、廃人にした人間の治療薬を作る事ができるの。これがどういう意味か、商才豊かな貴方なら分かるわよねぇ?」
ステラはジュースを飲み干すと、グラスを指で叩きお代わりを要求する。召使の女は躊躇しながらもグラスを紫の液体で満たし始める。ステラは魔水晶を見せ付けるようにして掲げる。紫の光が怪しく発せられる。
「この水晶を使って、ただの水を治療薬に変える事ができる。それが本当かはすぐに実証できるわ。ふふっ、これを貴方の商会だけに売ってあげる。その代わり、借金は帳消し、私の店への嫌がらせも止める事。それが条件よ」
「……ふん、とてもじゃないが信じられん。今すぐ実証してみせてもらわないとな。俺を舐めてもらっては困る」
「もちろん見せてあげるわ。材料はあるのかしら?」
「……おい、適当な屑を連れて来い。始末する予定だった奴だ」
ルロイが命令すると、意識が朦朧とした人間が連れ込まれてくる。いけない薬を常用し続けた末路である。ここに至るまでに至福を得られたのだから文句もないだろう。助けてやる必要は全くないが、ステラの生活のためである。地獄へと戻ってきてもらおう。
ステラがグラスに入った水を、変化させる。それをルロイに渡すと、部下が早速服用させる。廃人だった男は苦しみながらも、やがて意識を取り戻した。今は地獄のような状況だろう。服用を続ける事で改善されていく。薬への欲求も。
「……なるほど。確かに、効果はあるらしいが。こいつはもう処分するしかない屑だったからな。だが、本当に治るのか?」
「長期的にこれを摂取すれば、完全に治すことができるわ。一週間程度摂取を続けなさい。誰かさんに売りつける値段は、貴方たちが勝手に決めなさい。品物の受け渡しは、このベックが担当するわ」
ここのいけない薬は、当然上流階級にも流れているだろう。この街だけではなく、大陸中にか。彼らはいずれ後遺症に苦しむことになる。そこにこの治療薬を高値で提供する。彼らはとびついてくる。そして、完治すれば、愚か者は再び薬物に手を染める。快楽から逃れられないものは必ずいる。その輪を操る事で、ルロイは莫大な利益を得る事ができるだろう。
ルロイもこの旨みに気付いたようだ。顔つきが変わっている。
「この技術を独占するために、お前を監禁するという手もあるぞ」
「できるかしら?」
「できない理由が――」
ルロイの言葉を遮り、ステラは魔水晶を掲げる。ルロイは顔色を変えると、冷や汗を流し始める。不吉な何かを嗅ぎ取ったのだろう。生存本能だけは高いらしい。
もちろん、これを使って皆殺しにするような魔術を行使すれば、ステラは反動で死ぬ。だから、こうやって譲歩してやっている。
「その場合は、これを暴走させるだけのこと。私は、人間らしい生活を送りたいの。それができないのなら、生きている意味はないわ。道連れにしてあげる」
ステラは言い切る。が、実際にはそのつもりはない。これは脅しだ。実際は混乱状態に陥れ、クレバーを使って逃げ切る算段だ。当然ベックは肉壁として役立ってもらう。
ルロイはしばらく考えた後、やがて深く頷いた。
「いいだろう。お前は俺の商会にだけこれを卸す。俺はお前の借金を帳消しにして、二度と嫌がらせを行なわない。ルロイ・ストックの名に賭けて約束しよう」
「ふふっ、人間は話が分かるから本当にいいわね」
「ただし、あの店は俺の縄張りの中にある。みかじめ料は払わなくてもいいが、ストック商会の所属なんだ。それを絶対に忘れるな。裏切りには死を持って償わせる」
「ふふっ、素敵な顔ねぇ。勿論いいわ。こういうとき、人間は契約書を交わすのでしょう。あれ、私もやってみたいの」
ステラはおねだりをした。子供のように目を輝かせて。その口元が歪んでいなければ、歳相応に見えていたかもしれない。
「分かった。……おい」
ルロイが契約書を持ってこさせると、お互いにサインを行なう。契約は無事に結ばれた。
「これで完成ね。お互いに、一枚ずつ大事に持つのでしょう? 本当に素敵なやり方。話し合いで血を流さずに済むのだから」
ステラが小柄な身体を揺らしながら笑うと、ルロイは僅かに怯えを見せる。そして、小声で呟く。
「……お前、本当に、10歳なのか? 魔女でも化けているんじゃないだろうな?」
「冗談はやめてくれるかしら。私はグレンの娘のステラ。たった一人生き残ってしまった、いたいけで哀れな10の小娘。だから、あまり乱暴なことはしないでね? とっても傷つきやすいから。壊れたりしたら、大変でしょう?」
魔女の如く妖艶に笑うと、ステラはゆっくりと立ち上がった。もうここに用はない。