タンデム
―――…
「きょーへー!!」
部屋の窓を開けると、隣の家の窓がある。
名前を呼ぶとカーテンが開く。
なんでこんなに家が近いのに、こんなところに窓を作ったんだろう、って今は思う。
「…朝からうるせえなブス」
「今日乗せて!」
「なんでだよ」
「昨日バイト先にバイク置いてきた!」
「はあ?」
「私もう出れるから!準備出来たら呼んで!」
じゃあよろしく!と有無を言わさず窓を閉める。
要だったらいいよ乗りなよとすぐ言ってくれるんだけど、生憎要はもう学校に行っている。
1限に教養科目を取ったみたい。
私の家の隣が恭平の家、私の家の向かい側が要の家だから、恭平と要は小さい頃からの幼馴染で、保育園、小学校、中学校、高校も同じ。今では同じ大学の薬学部にいる。
別に同じところに行きたいからって薬学部を選んだわけではなく、私たちは根っからの理系人間なのだ。
家から学校までは電車で20分くらいでつくけどバイクで行くことがほとんど。
交通手段としてあっても困らないだろうと思って高校の夏休みに3人で中免を取って、みんなバイト人間だから自費でバイクも買った。
3人で見に行って、一緒にドライブしたりもした。
そのうちに車の免許もそれぞれで取ったけど、さすがに車は親のを借りている。
バイクに乗りたくて免許を取ったというよりは、交通手段のために取ったから、バイクの種類とかはよくわからない。
そうそう、バイトではお酒を飲むからバイクで行くことはないんだけど、昨日は時間がなくて帰りは送ってもらったんだよね。
今日はバイトはないけど、バイク取りにいかなきゃいけないから恭平にバイト先まで連れてってもらおーっと。
あ、なんとなく今日は車で行くと思うんだけど。
『バイク』
恭平からLINEが来たので、部屋の電気を消した。
てか車じゃなかった。
「遅え」
「朝からうるさいなー」
「降ろすぞ」
「てか帰りバイト先寄ってくんない?」
「図々しい」
「いいから早く出発しなさいよ」
「いいから黙って掴まれ」
てか本当にコイツのバイク乗りづらいな。
恭平は信号が赤になる度に私を振り返ってきた。
私はエンジン音に掻き消されないように叫んだ。
「ねー!」
「うるせえ!」
「バイク変えてよ!」
「うるせえ!」
クソだ…
恭平は性格が鬼すぎる。
安全運転なところだけは認めてやる。
それ以外はダメ。全部ダメ。
―――…
「早く降りろ」
「はいはい」
「帰りバイク持って帰って」
「はあ?」
「俺今日お前のバイト先の近くに用あるから持ってきてやる」
「え、あ、そうなの?」
「鍵」
ああ、はい…と私のキーケースを渡すと、恭平は自分の鍵を私に渡した。
意味不明な男だなと思いながらロッカーに向かう。
同じ学部だし授業はほぼ同じ。
不真面目にもロッカーに全部教科書を置いているから、荷物はペンと財布と携帯と化粧道具だけ。
軽い軽い。
「てか今日バー行くの?」
「バイク運転するのに行くわけねえだろ」
「だよね」
バイト先のロッカーに店長から貰った大量のお菓子忘れてきたから取ってきてほしいと思ったけど、まあいいや。
化粧崩れてる?と恭平に聞くと、別に、と目を逸らされた。
恭平は化粧が崩れてるときは絶対に崩れてるという。
髪は?と聞くと、グチャグチャだよって言われた。
思わず髪を触る。
「…」
無言で違う方向に行ってた髪を戻してくれた。
…ときめかない。
「なんで嬉しくないんだろう…」
「ぶっ飛ばすぞ」
これが少女漫画なら何か起こるポイントだったんだろうけど、やはり相手を選ぶんだな。
あ、1限終わった。チャイム鳴った。
やばい。今日は15階。ロッカーは3階。間に合わないのではないか。
「恭平!ピしといて!」
「あー…、」
私は恭平に学生証を預けると、ロッカー室に急いだ。
うちの大学は学生証でピッてやって出席を取るシステムだから1秒でも遅れたら遅刻扱いになってしまう。
恭平は基本的に遅刻とか気にしないから、遅れそうでもロッカーに寄る。
私は絶対に遅刻したくないから、遅れそうになったらロッカーには寄らない。
だからここは役割分担!
私はピに行った方がいい気がするけど、今日は乗せてもらったし、ロッカーに寄ると遠回りだから、恭平がテキスト取りに行ったら間違いなく恭平は授業開始に間に合わない。
よって私がピに行ったら授業開始時にテキストが手元にない状態になる。
はあ…
てか恭平なんか言いかけてたな。ま、いっか。