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未定  作者: 橋本 凛子
1/3

カウンターレディ

変わる・変わらない

自分がどっちを望んでるのかわからないけど、私は何も変わっていない。





―――…


「コウくん、今日長いけど明日学校平気なの?」


いつもオープンの20持から来て、大体22時には帰るのに、また1時間追加した。

医学部生のコウくん。一個上の4年。

来たときは大体指名入れてくれるし、頼まなくても同伴してくれる。

このガールズバーはノルマも何もないから楽。

私も学生だしそこまで本気でこの仕事しってるわけじゃないから、ラッキーて感じ。


「午前暇になったの」

「へえ、珍しいね」


医学部のくせに金髪で、顔も綺麗。

読者モデルとかにいそうな感じ。

いや別に医学部にイケメンがいなさそうなイメージを抱いてるわけではなくて。

見た目がアホそうだから医学部に見えないっていうことね。


「テスト範囲終わったからじゃないかな」

「あーね」

「リカはテスト平気なの?」

「勿論」


いつもよりタバコのペースが速い。

灰皿を交換すると、よく見てるね、とコウくんは言う。

コウくんとはただの客とカウンターレディの関係だけど、たまに揺れることがある。

綺麗な眼で、新しい灰皿を見る。

長い睫が白い肌に影を落としていて、なんてゆうか、人間じゃないみたいに見える。

私は多分、この人の顔が好きなんだと思う。


「コウくん、なんか飲む?」

「んー…、じゃあね、烏龍ハイ」

「はあい」

「リカは美人で頭もよくて良いよねえ」

「ははっ、いきなりどうしたの」

「なんかいいなあーと思って(笑)」


グラスをカウンターに出すと、コウくんはタバコを咥えた。

タバコに火をつけようとすると、いいよ、と言った。

金髪で話を聞く限りチャラいはずなんだけど、こういうとこあるんだよね。

客の中じゃマシな方どころか、全然いい人だから、私はこの人のときはちゃんとお酒を飲んでいる。

この人と厳しい人以外は、大体水だけどね。


「今度デートしてよ」

「同伴ならいいよ」

「まあそれでもいいけど」


子犬みたいな人だ。可愛い顔して笑っている。

お酒が入ったから少し顔も赤い。

今日は何時までいるの?と聞かれ、24持、と答えると、じゃあ他のお客さんにも分けてあげた方がいいかな、と言う。

自惚れエピソードだけど、たまに、コウくんは本気で私のことを好きなんじゃないかと思うことがある。

確信を持つような具体的な何かがあったわけではないんだけど、直感的にそう感じてしまうことがある。

だからと言って私がコウくんを好きなのかというと、そういうわけではない。

ただ、この人が日常生活にポンと現れて、毎日その辺の道でおはようと言ったりするような関係になったら、私はこの人を放っておけないと思うかもしれない。

見た目とは裏腹に、この人はなんだか悲しそうにすることがある。

もしもそれが、私を騙そうとする演技だとしたら、私は本当に見る目がない。

コウくんには確か、彼女がいる。


「なんか今日、変じゃない?」

「そうかな」

「彼女と喧嘩でもした?」

「んー、アイツとは何もないよ」


アイツとは、ということは彼女以外で何かあったのか。

それ以上コウくんは何も言おうとしないので、無理には聞かない。

今は、そうゆう立場にいない。


「そんなことよりリカは明日早いの?」

「明日は2限からかな」

「ふうん」

「どうして?」

「仕事終わったら飲みに行かないかなーって」

「んー、今日はダメ」

「もう俺指名してあげないかもよ?」


アフターはしなくてもいいお店だけど、コウくんは連絡先も教えてる。

だけど、なんとなく客とは近付きすぎない方がいいような気がする。

コウくんには彼女もいるし。

てゆうか、


「そんなことしなくてもコウくんはまた来るよ」


コウくんはまた来る。

この人にとってここにいる時間は現実逃避なんだと思う。


「リカのそういうとこ、嫌いじゃないよ」


やっぱりコイツ、私のこと好きだな。

そう思うとなんだか笑えた。

ここまで素に近い私で話せる客はそういない。

このカウンター越しの距離が、私たちには調度いい。


「もうすぐ時間だけど、どうする?」

「今日はもう帰るよ、少し飲みすぎたし」


コウくんは23時で帰った。

安心したような気もした。

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