第4話 竜の夢(3)
目前の兵士を斬り伏せ、返す刃で左右を撫で斬り、後方の殺気を迎え撃ち、再び前に進む。
時には一歩引いて前方の兵士を誘い込み、胴を薙ぐ。
天位魔法に目覚めた10歳頃から成長の止まってしまった私のウエイトでは攻撃を受け止めるのは悪手であり、攻撃を受け止められるのも危険。
だから私の剣には構えも振りかぶりもない。
それらの事前動作は剣の威力を高めるが、同時に相手に心構えを与えてしまい、僅かにでも心構えをもった相手は5回に1回程度とはいえ、偶然剣を受け止められるから。
私としてはただ剣を振っているだけのつもりだけど、いつ頃からか、私のこれは即撃と呼ばれるようになり、それと同時期頃から私には剣の竜姫の通り名がついた。
単騎にて敵陣を斬り裂きながらまともに返り血さえ浴びぬ、剣に愛された姫君と。
そう恐れられていた私が今回の戦いでは幾度となく返り血を浴び、お母様譲りで密かな自慢の銀髪も『不変化』の魔術をかけられたオーダーメイドの軍服もいたるところに赤黒い染みをつくっている。
とは言え、私が不調な訳でも相手の練度が高い訳でもない。
原因は敵の異常さにある。
普通なら自殺行為に等しいタイミングでも前に出てくる。
手足を断たれても躊躇しないとまるで狂戦士を相手にしている気分になってくる。
……いえ、むしろそちらの方が遥かに楽かもしれない。
『暴走』を掛けられた人間は自身の生死を省みない為に防御は疎かになり、攻撃も大振りで単調になってくる。
なのに、この相手にはその傾向が見られない。
生死を度外視しながら、戦闘技術は平時のままと言うのは反則でしょ!
こんな利用価値の高い魔術が開発されていたとは聴いていない。
それも含めてバーゼンには問い質す必要がありそう。
「我が名は…」
久しぶりに掛け声以外の声を聞いた気もするけど、生憎時間が惜しいの。
他のものと違って飾り羽が付いた兜が中身ごと宙へ舞う。
……やっと本陣までたどり着いたみたいね。
簡単ながら天幕も張ってある陣地へと足を踏み入れる。
「久しぶりですね。セルドック卿。
いえ、反逆者バーゼン・セルドックの方が妥当でしょうか?」
陣の中央に立つ男は何故か若干やつれた印象があるものの先月会った時と変わらない実直そうな顔付きをして私へ剣を向ける。
この期に及んで!!。