第3話 竜の夢(2)
まず、目前の兵士の右脇腹へと剣を打ち込み、腕を引き込むようにして刀身を抜く。
そのまま右側に立つ兵士を切り上げ、左手の兵士を切り伏せる。
最初と最後に斬った兵士の間を抜け様に前面の兵士の喉へ刺突を打ち、戻す力で左側の兵士の腕をはねる。
僅かに上に体が伸びた私へと3本の槍が迫る。
身を屈めつつ前に進み2人の兵士の足を斬りつける。
…おかしい。
対処が異常に早い。
私とて無意味に名乗りを上げた訳ではない。
捕獲対象の1人である事を喧伝し、攻撃に躊躇を生ませ、その状況を利用してバーゼンの本陣へ斬り込む予定だったのに。
普通なら指揮官が捕獲と討伐を秤にかけ、部隊指揮が停滞する。
その為に一般兵は手緩い攻撃に終始し、天秤が完全に討伐へ傾く頃には充分本陣まで斬り込める手はずだったし、その状況を誘発する目的で単騎駆けを始めたのに。
勿論、突出して優秀な指揮官なら、もっと早い段階で討伐指示を出し軍を治めるが、それを考慮しても早すぎる。
これはまるで1兵卒が独自判断で迎撃しているような雰囲気。
だけどそんな事はありえないはず。そのような状況ならそれは軍として機能していない証拠となる。
聞いた事もない無名兵士団なら、ともかく我がルートセイム侯爵領の玄関口となる交易都市セトを守る精鋭とその指揮官がそんな無能のはずない。
では最初から私を倒す方向でこの反乱は計画されていた? それも考えにくいでしょうね。
いくら執政代行官の私兵とは言え、元はルートセイム領の領民である1兵士が主君筋の直系に躊躇なく攻撃出来るとなるとかなり昔から準備を進めていたとなる。
けれど、それほどの準備を一切外部へ漏らさないなんて不可能としか言えない。
…考察は諦めました。
不可解な情勢ではあるものの今成すべきはバーゼンを斬り伏せてこの敵軍を瓦解させるしかないのだし、交戦に集中し少しでも早くお母様達と合流するのみ。
『剣華繚乱-創剣成』
設定は200本分を1本に、形状は片手半剣。
これが精霊に疎まれ、初級魔術すら使えない私の持つたった1つの武器-天位魔法。
右手に私の身長より頭1つ分長い剣が顕れる。
さらに、
『剣華繚乱-刻剣成』
ソード・ダンスの3つの能力の2つ目を使用して剣に特性を与える。
今回、刀身に刻まれたのは【我が前に鉄鋼も意味無し】の創世文字。斬鉄属性を意味する文字配列となる。
「さあ、踊りましょう」
先ほどに数倍する速さと苛烈さを纏い、縦横無尽に敵陣を斬り裂いていく。
目指すはバーゼンただ1人!。