第2話 竜の夢(1)
ドゴンッと言う音と振動。
その音に恐怖を感じて強く抱き付いて来る少女。
私はその震える頭をそっと撫でる。
群雄割拠するこの世界の侯爵令嬢とも有ろう者が情けないと嘆くのは簡単だろうけどそれを口にするわけにはいかない。
この腹違いの妹を温室で育ててしまった責任の一端は間違えなく私にあるのだし。
とは言え、この程度のことで足がすくむようでは落ち延びるのも難しい。
せめて山賊狩りくらいは経験させておくべきだった。
「アリス。よくお聞きなさい。
いくら王族竜のお母様がおられるとは言え、相手はこの世界最強に限り無く近いと畏れられるあの暗き夜の神です。
お父様とて後方に憂いを抱えたままでは勝利は難しいでしょう。
ですから私は打って出ます。
混乱に乗じて城を囲む謀反者を根絶やし、後顧の憂いを絶った後、対ルディオンの戦列に加わります」
「そんな」
いよいよアリスの顔色が悪くなる。…当然か。
城を囲むセルドックの私兵団はともかく、上級神格を持つ邪神に挑むなど無謀を通り越して、自殺に等しいと思うだろう。
ただでさえ私は魔術も精霊術も使えない。剣術バカの姉なのだから。
「私とてむざむざ死ぬ気はありません。
民を逃す時間を稼いだ後は、皆を連れて速やかに離脱します。
アリスは私達が少しでも早く逃げ始めれるように私の親衛隊を指揮して民を逃がしなさい」
アリスとて戦世に生まれた公女。
軍略論くらいは習っている。
従軍経験もないのにいきなり撤退戦をさせるのに不安がないと言えば嘘になるが。
「…分かりました。アリスティア・ルートセイム。
慎んで指揮権をお預かりします」
数旬迷ったもののしっかり頷く妹に頷き返す。
「シーファン。
副長として我が妹を支えなさい」
私の命令に八ッと敬礼する騎士に後事を託して城門へと向かおうとして。
謁見の間から城壁へ飛び出す。城壁を走る私へ飛んでくる矢を剣で払いつつ、街の様子を見る。…何軒か、壁が壊されている家も見えるが、民の骸は見当たらない。
当然か。
この戦いのセルドック側の勝利条件はどちらかの姫を手中に収め、ルディオンがこちらへたどり着く前に逃げ切るなのだから、非戦闘員への攻撃をする余裕などないに決まっている。
城門前へ到着すると同時に飛び降りる。家の2階に匹敵する高さだが、王族竜の中でも桁外れに膨大な魔力を身体強化にまわしている私には関係ない。
空中の人間と言う格好の的にも関わらず魔術はおろか矢すら飛んでこない。
予想通り練度は下の下と判断して周りを見回す。
「ルートセイム侯爵第1公女、アナスタシア・ルートセイム。
火事場に乗じて、主に弓引く謀反者バーゼン・セルドックとそれに与する者を尽く誅する。
剣の竜姫の名を恐れぬ者からかかってきなさい」
私の大切な宝物を守る戦い。まず、宣戦布告はこんなものでしょう。