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black ogre  作者: zephy1024
第二章 虎国侵入編
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061.青い紐状の何か

 屋敷から旅立って、今日で五日目。

 特に大きな問題が起きる事もなく進めている。

 予定していた道程の半分ほどを消化した形だ。


 アムが俺と一緒に寝ようとしたり。

 リラも便乗しようとしたりという珍事はあったけど。

 まあ、些細と言えるレベルだろう。


「何か不自然だな?」


 俺達は今、森の中を行軍していた。

 木と木の間隔があるので、適度に日差しが入ってくる。

 ある程度視界が確保されているから、割と歩きやすい。


 俺が見ているのは倒れている木々。

 途中から圧し折れているのは、とりあえず無視しよう。

 圧し折れている点を無視したとしても不自然だ。

 倒れている方向がバラバラだった。

 台風的な何かが通過した後。

 もしそうなら、ある程度方向が偏ると思う。


「アキト、不自然理由問」


「いや、それは俺が聞きたいよ」


 アムも不思議に思うのはもっともだが、俺にもこれは答えられない。


「何かが木にぶつかりながら通過したのかなぁ?」


「それにしては、方向が統一されてないと思う」


 リラとライサさんも、目の前の状況に首を傾げている。


「気のせいか? 声が聞こえるような?」


「ン? 叫声」


 アムさん、確かにそうなんだけど、何で棒読みなのさ。


「アキトさん、行って見よう」


「そうだな」


 俺達四人は、声の聞こえる方へ走り出した。

 直ぐに湖らしきところに辿り着く。

 妙に水が濁っているのが気になった。

 だが、今は後回しだ。


「あ、あそこ。馬車なのかな?」


 リラが走りながら指差した先。

 木に少し隠れているが、木で出来た箱型の何かが見えた。

 その側で、群青色の蔓のようなものに絡まれている人が二人。

 どうやら、徐々に湖の方へ引き摺られているようだ。


 自分の置かれている立場。

 リラやライサさん、アム達の素性の事もある。

 二人を助けるべきなのか、瞬時に判断出来なかった。


「助けないとだよ! アキトさん!」


 俺の瞳をじっと見つめるリラ。


「アキトさん、助けようよ?」


 即座に反応出来なかった俺。

 まるでその心を見透かしたかのような言葉。

 そうだな、ここで見捨てたら寝覚めが悪すぎるよな。


「俺が蔓みたいなのを斬る。リラは万が一の為、何か別のが来たら援護を。アムとライサさんは、蔓を斬った後、あの二人を湖とは反対側へ」


 俺の言葉に、三人が力強く返事をした。

 距離にして、およそ十メートル。

 俺は、両足に力を込めると、一気に加速した。


 蔓の上を飛び越える。

 同時に、黒牙梓(クロキバアズサ)を一閃。

 二人に群がっている群青色の蔓のようなもの。

 全て断ち切った。


 着地し振り返る。

 アムとライサさんが、二人を抱えて湖とは反対側へ飛んだ。

 その後のようだった。


 少々怪我はしているようだ。

 でも、命に別状はなさそうに見える。

 良く見ると、箱型の側にはもう一人、少女がいた。

 怯えた表情になってはいる。

 だけど、何処か安堵したようにも見えた。


氷杭(アイスパイル)


 いくつもの氷の杭。

 俺に殺到する蔓のようなもの。

 根こそぎ凍結させ壊していく。

 それだけではなく、湖の方にも放たれていた。


 湖の表面を凍結させながら、水の中に消えて行く。

 蔓のようなものの持ち主が何者かは不明だ。

 だが、牽制ぐらいにはなるだろう。


 既に湖からの、蔓らしきものの発生は途絶えている。

 それでも、幾度も氷の杭を放つリラ。

 徐々にこちらに歩いてくる。

 俺は即座に彼女に合流。

 前衛を務める事にした。


「何かわからないけど、二人に合流しよう」


「うん」


 俺は、湖から注意を逸らさないように注意。

 リラを先に歩かせる。

 結局、アムとライサさんに合流するまで追撃はなかった。


「ノガさん!? ネルさんとナギまで!?」


「おお、リラちゃんじゃないか」


 いつの間にか、箱型の側にいた少女も助けていたようだ。

 それよりも驚いたのは、リラの反応。

 この三人とどうやら顔見知りのようだ。

 どうやら、彼等三人は見た感じ人間らしい。


 カルティエールさんは、自分はヒューマンではない。

 そう言っていた。

 なので、この世界で始めて会う人間という事になる。

 もし見た目通りならの話しだけども。


「リラちゃんとお仲間の皆様。助けて頂きありがとうございます。私はノガ・アマレロ。彼女が娘のネル、隣が娘のナギです」


 ノガさん、ネルさん、ナギさんの三人。

 俺達は何度も感謝を述べられた。

 そして一通り落ち着いた所だ。

 こちらも自己紹介をした。

 襲撃から逃れたかはまだわかんないけど。


 彼等三人は行商の途中らしい。

 アンギム村に向かっていたそうだ。

 その後にバルルリ村に向かう予定だった。


 たぶん、過去にシャルドナと縁があったのだろう。

 若干はしゃぎ気味のリラ。

 アムとライサさんにナギさんを混ぜて少し盛り上がっている。


「過去十五年はここを通っているんですけど、襲われたのは始めてなんですよね」


 俺に事情を説明してくれるノガさん。

 薄い金髪で髭を生やしている。

 渋い白人という感じで四十歳手前だろう。

 俺よりも少し背がある。

 それと、革の防具のせいもあるだろう。

 商人というよりは戦士に見える。


「突然何かが住み着いたって事なのかな? 何か気になるような事はありますか?」


 ネルさんは、濃い金髪に青い瞳で二十歳位に見える。

 服装も相まって清楚な美少女って感じだ。

 逆にナギさんは活発そうな感じ。

 濃い金髪に緑の瞳、十五歳位だろうな。


「気になった事。思い出してみれば、以前はほとんど生物の存在を感じなかったのですが。今回は森に入る前から、小型の生物を何度か目撃しました」


「生物の存在を感じない方がおかしいんじゃ? いや、ここって城跡に近いですか?」


「城跡とはシャルドナの王城跡の事ですか?」


「はい、その王城跡です」


「歩いて行こうと思えば行ける距離ではありますね」


「そうですか」


 推測でしかないけど、思いつく事がある。

 地下にあった闇鬼(ヤミオニ)(ツチ)の影響かもな。


「アキト、上何か存在」


 アムの言葉に身構える俺達。

 確かに何かがいるようだ。

 かなりの速度で位置を変えている。

 湖のとは別口何だろうか?


 いやそれよりも、箱型の馬車を運んできた。

 あのでかい蜥蜴みたいなの。

 何故襲わないんだろう?


 アルマジロっぽい鎧みたいな姿をしてるからか?

 湖の中まで引き摺れば関係ないと思うんだけどな。

 それに、何で大人しいんだろうか?

 暴れたりしそうなものだけど。


「くそ、考えている余裕はないか」


 俺目掛けて飛んで来た何か。

 刀を振ろうとした。

 その瞬間、頭の中にいつぞやの声が聞こえて来る。

 従った方がいいと咄嗟に判断。

 体を右に捻った。


 俺がいたはずの場所を突き抜ける。

 眼前を通過していった何かは、太くて青い紐にも見えた。

 そのまま足元の落ち葉を貫通する。


「何かやばい。全員あのでかいのまで走れ! アムとライサさんは前方を、俺とリラが殿だ」


 俺の言葉に走り出す中、首を傾げるリラ。


「殿って何?」


 おいおい、リラさんまじかよ?


「後方守備」


「くそ、動きが早い」


 位置を頻繁に変えている何か。

 その合間に頭上から次々射出される青い紐状の何か。

 俺を集中的に狙ってくれて好都合ではある。

 だけど、後ろがどうなっているかわからない。


「リラ、先に行け。どうやら俺がお好みのようだし。それに先に行ったアム達が心配でもある」


「うん、わかった」


 あぁ、くそ。

 絶妙な感じで射出してくるな。

 飛び上がろうとした瞬間。

 攻撃しようとしたタイミングで狙ってくる。


 銃で撃ち落そうにも、足場が凸凹している。

 その上に、動きが早くて照準が間に合わない。

 何か視界が少しおかしい。

 体の反応も何だか重い気がする。

 くそ、このままじゃジリ貧だ。


「え? なにこれ?」


「はなしてよー!?」


「ネルぅぅぅぅ? ナギぃぃぃぃ?」


 くそ、背後で何が起きている?


「いかせない。え? なにこれ? ネバネバして離れない?」


「ライサ!?」


「駄目!? アムもくっ付いちゃう!!」


氷刃(アイスブレード)


「え? 切断出来ない!?」


 くそ、これでも喰らえ!

 鬼の力でも切断出来ない?

 射線を変更出来ただけでも充分か?

 即座に反転し、走り出そうとする。


 しかし、俺の考えは甘かった。

 背後を向いた瞬間に体に走った衝撃。

 衝撃を受けた部分に視線を向ける。

 そして俺は、驚愕した。


 射出された後、そのまま放置されていた紐状の何か。

 複数本が一つの纏まりになっていた。

 それで俺をぶん殴ったのだ。

 時に単体で、時に複数本で俺に殺到する。


 最初の一撃目で、体勢を崩してた俺。

 抗う術もなく、時に木に叩きつけられる。

 天地の区別さえつかなくなりながら、玩ばれ続けた。

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