057.ミューの決断
俺達は、屋敷の一番大きな部屋にいる。
右隣にはリラ。
アムは左隣だ。
ミューとアルパは、少し離れた席。
リナさんに付添っている。
人数分の飲み物が供されていた。
その為、喉の渇きはいつでも癒す事が可能だ。
他にはアラル、テテチさんにリリラさん、ライサさん。
また違う席にはハンドルさんやフランメリカさん。
その他、見た事のない鬼小鬼もいた。
主要な人物がほとんどここにいる形だ。
「ライサ、それじゃタイガルはバイダ・ベンガーナ一族の手に落ちたという事でいいのだね?」
カルティエールさんの問い掛け。
彼女は悔しげに頷いていた。
彼女の説明によれば、ベンガーナ一族は、瞬く間に軍を展開。
抵抗する暇を与えず、王都シルバーニャを占領。
その後、重要な町や村、砦のみを占領下に置いたとの事だ。
「私が捕らえられた時点でのお話しですので、現在どうなってるかまではわかりません」
「そうだな。だが、そこまで一気に行ったのであれば、食料の供給や物資の補給などが必要になっているだろう。早急に更に何かを行うのは難しいと私は考える。しかし、この近隣では最大の軍事力を持つからな。楽観的には考えない方がいいのかもしれないが」
少しだけ話しには聞いていた。
けど、タイガル王国か。
それよりも、気になる事があった。
アラルのリリラさんを見る目が厳しい気がする。
当然と言えば当然なのかもしれないけどさ。
「青炎様、まずはそれぞれが出来る事をするべきだと考えます。体調が回復してからにはなりますが、私は残りの戦士団と交渉するつもりでおります。もちろん、一度滅んだ王国を再建するつもりはありませんが」
「それではどうするつもりなんだい?」
「協力体制を構築と言えばいいのでしょうか? 八つに別れたのですから、統合して混乱を招くよりも、それぞれを国として独立を維持させた方がいいと思います。しかし、現状それぞれがどのような関係なのかは不明なので」
「その関係を見極め、衝突しているようならば調停をすると?」
「はい。そうですね」
「なるほど、確かにその方がいいのかもしれないな」
「その前段階としまして、八人の代表と私での、話す場を設けたいと考えております。かつての戦士団が、今現在どのように考えているかもわかりますでしょうし」
リナさんの今後の為の提案。
その後も話し合いは続けられた。
結果的には、現状情報が余りにも少なすぎる。
そんな結論に至った。
各々の状況も鑑みて、いくつかに別れて行動する事になる。
反対意見は出なかった。
ハンドルさん達鬼小鬼の一団。
彼等は一連の騒動で、迷惑をかけた村へのお詫び行脚予定。
平行して、彼の姉弟他生存者の捜索。
そして、他の場所にいる残存部隊。
元八戦士団肆隊への合流と経緯説明の予定だ。
リナさんはアルパを伴って行動予定。
元八戦士団伍隊戦士長シャルルアン・フランベリカ。
彼女の元へ向かう予定だ。
実際の行動開始は、まだ先。
彼女自身とシェリイナさんが回復した後にはなる。
テテチさん他元八戦士団壱隊。
バルルリ村の人達はここに残りリナさんの護衛。
また行動開始時には、一部が用心棒として付き従う。
その予定となっている。
俺はタイガル王国へ向かうつもりだ。
共に向かうのは、リラ、アム、ミュー、ライサさんの四人。
目的は、現在のタイガル王国の情勢の確認だ。
バルルケンさんは、ポラミスちゃん、ポルミサちゃんと屋敷に残る。
リナさんが行動開始時に、同行するかはまだ決めていないそうだ。
俺達の出発予定は三日後。
しかし、今日この後、予定がある。
修羅場の一つに同席しなければならない。
避けては通れない事なのはわかる。
だけど正直、同席したくないのが本音だったりした。
-----------------------------------------
俺は椅子に座っている。
目の前には、柑橘水。
飲料用の水に、取れたての柑橘を絞ったものだ。
左隣にはリラとアム。
右隣には、ミューが座している。
そして、テーブルを挟んだ反対側。
ハンドルさんとフランメリカさん。
他二人の鬼小鬼。
ハンドルさんが、元八戦士団肆隊のリーダー的立場になっている。
その為、その護衛の意味合いが強いだろう。
「ミューよ。父に何をしたのか説明をしてもらいたいのだが、教えてはくれぬか?」
「簡潔に言えば、闇気を流し込んだはずよ。エジソリンガの言葉が正しければだけど」
俺が、この場にいるせいもあるかもしれない。
だが、ハンドル達四人は怒りを抑えてるように見える。
「闇気? それを流すとどうなるのだ?」
「耐え切れなければ死亡。耐え切れても、徐々に理性が本能に上書きされていくようね」
「それではアキトさんが、最後を看取ったという兄は?」
俺はここに来る前にハンドルさんに伝えた事がある。
リンガンと呟く相手と戦った事を包み隠さず話した。
止めも自分がさしたという事も含めてだ。
彼は神妙に静かに聞いているだけだった。
だけども、たぶん心の中は穏やかではいられなかっただろう。
「それでは、兄は、リンガンは何をされたのだ?」
真っ直ぐにミューを見ているハンドルさん。
「残念ながら、彼については、私はわからないわ。エジソリンガが独断で行った事みたいでね」
ミューは、少しだけ俯いた。
「そうか。ドウダルとレルナはどうなった?」
「サウザンの三男と長女で合ってる?」
ミューの質問に、ハンドルは頷く。
「トルリエンに、少数を引き連れて向かわせたわ。無事到着出来たかまではわからないけど」
トルリエン?
町か村の名前なのかな?
「トルリエン? 何故? ふむ。そうか」
「ギュシュタンにも行って見るといいわ」
この世界の地理について、良く考えたら何も知らないな。
後で誰かに聞いてみよう。
「ふむ。わかった」
俯いた顔を上げるミュー。
ハンドルと視線が交錯しているのが、俺にもわかった。
状況が状況だけに、リラもアムも非常に静かだ。
「ミュー、正直に言えば怒りもある。殺してやりたいと思う部分もある。だが、殺しても父も兄も、死んだ仲間達も戻っては来ぬ。だがもし、罪を償うつもりがあるならば、行動で示せ。それだけだ」
彼の言葉に、フランメリカさん。
そして鬼小鬼達も何も言わない。
「わかったわ。ありがとう」
「最後に、何故私を殺さなかった?」
「あの時の立場で言えば、実験体に出来るからと答えるわ」
「ふむ。わかった。二つの事については感謝を申し上げる。ありがとう。正直許せるかと問われればわからぬがな」
「そうでしょうね。でも、それでいいと思う」
誰も口を開かない。
無言の空間だ。
とりあえず、いますぐ殺し合い何て事にはならなさそうだ。
それだけは安心したけど。
「自分の指示でトルリエンに送ったわけだし、結果を確認したいから。ハンドル、あなた方と行動を共にしようと思うけど、どうかしらね?」
予想もしない彼女の提案。
俺ももちろん驚いている。
ハンドルさんやフランメリカさんも驚愕の表情になった。
「ミュー、私達は少なくとも、あなたに好意を持っていない。いや、敵意を持っていると言えるだろう。それも覚悟の上での言葉か?」
「もちろん、覚悟の上よ。アキト、構わないわよね?」
まさか、振られるとは思わなかった。
即座に俺は答えられない。
「俺に聞いてはいるけど、もう決めているんだろ? なら、何も言わない。確かにミューは敵だった。けど、今の俺はミューを敵だとは思っていない。だから無事に戻って来い。わかったな」
「あら? 嬉しい事言ってくれるのね。もちろん、無事に戻ってくるつもりだから安心して」
妖艶に微笑むミュー。
果たして俺の返答はこれで良かったのか?
一抹の不安を感じる。
「アキト殿がそうおっしゃるのであれば、従う所存」
「リンガンさん、いろいろと迷惑かけるかもしれませんが、よろしくお願いします」
「承りました。必ず、我々共々無事に連れ戻します」
旅路でおそらく、いろいろな問題に直面するだろう。
不安な面ももちろんある。
しかし、俺はハンドルさん達とミューを信じる事にした。




