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black ogre  作者: zephy1024
第二章 虎国侵入編
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057.ミューの決断

 俺達は、屋敷の一番大きな部屋にいる。

 右隣にはリラ。

 アムは左隣だ。


 ミューとアルパは、少し離れた席。

 リナさんに付添っている。

 人数分の飲み物が供されていた。

 その為、喉の渇きはいつでも癒す事が可能だ。


 他にはアラル、テテチさんにリリラさん、ライサさん。

 また違う席にはハンドルさんやフランメリカさん。

 その他、見た事のない鬼小鬼(オーガゴブリン)もいた。

 主要な人物がほとんどここにいる形だ。


「ライサ、それじゃタイガルはバイダ・ベンガーナ一族の手に落ちたという事でいいのだね?」


 カルティエールさんの問い掛け。

 彼女は悔しげに頷いていた。

 彼女の説明によれば、ベンガーナ一族は、瞬く間に軍を展開。

 抵抗する暇を与えず、王都シルバーニャを占領。

 その後、重要な町や村、砦のみを占領下に置いたとの事だ。


「私が捕らえられた時点でのお話しですので、現在どうなってるかまではわかりません」


「そうだな。だが、そこまで一気に行ったのであれば、食料の供給や物資の補給などが必要になっているだろう。早急に更に何かを行うのは難しいと私は考える。しかし、この近隣では最大の軍事力を持つからな。楽観的には考えない方がいいのかもしれないが」


 少しだけ話しには聞いていた。

 けど、タイガル王国か。

 それよりも、気になる事があった。

 アラルのリリラさんを見る目が厳しい気がする。

 当然と言えば当然なのかもしれないけどさ。


「青炎様、まずはそれぞれが出来る事をするべきだと考えます。体調が回復してからにはなりますが、私は残りの戦士団と交渉するつもりでおります。もちろん、一度滅んだ王国を再建するつもりはありませんが」


「それではどうするつもりなんだい?」


「協力体制を構築と言えばいいのでしょうか? 八つに別れたのですから、統合して混乱を招くよりも、それぞれを国として独立を維持させた方がいいと思います。しかし、現状それぞれがどのような関係なのかは不明なので」


「その関係を見極め、衝突しているようならば調停をすると?」


「はい。そうですね」


「なるほど、確かにその方がいいのかもしれないな」


「その前段階としまして、八人の代表と私での、話す場を設けたいと考えております。かつての戦士団が、今現在どのように考えているかもわかりますでしょうし」


 リナさんの今後の為の提案。

 その後も話し合いは続けられた。

 結果的には、現状情報が余りにも少なすぎる。

 そんな結論に至った。

 各々の状況も鑑みて、いくつかに別れて行動する事になる。

 反対意見は出なかった。


 ハンドルさん達鬼小鬼(オーガゴブリン)の一団。

 彼等は一連の騒動で、迷惑をかけた村へのお詫び行脚予定。

 平行して、彼の姉弟他生存者の捜索。

 そして、他の場所にいる残存部隊。

 元八戦士団肆隊への合流と経緯説明の予定だ。


 リナさんはアルパを伴って行動予定。

 元八戦士団伍隊戦士長シャルルアン・フランベリカ。

 彼女の元へ向かう予定だ。


 実際の行動開始は、まだ先。

 彼女自身とシェリイナさんが回復した後にはなる。


 テテチさん他元八戦士団壱隊。

 バルルリ村の人達はここに残りリナさんの護衛。

 また行動開始時には、一部が用心棒として付き従う。

 その予定となっている。


 俺はタイガル王国へ向かうつもりだ。

 共に向かうのは、リラ、アム、ミュー、ライサさんの四人。

 目的は、現在のタイガル王国の情勢の確認だ。


 バルルケンさんは、ポラミスちゃん、ポルミサちゃんと屋敷に残る。

 リナさんが行動開始時に、同行するかはまだ決めていないそうだ。


 俺達の出発予定は三日後。

 しかし、今日この後、予定がある。

 修羅場の一つに同席しなければならない。

 避けては通れない事なのはわかる。

 だけど正直、同席したくないのが本音だったりした。


-----------------------------------------


 俺は椅子に座っている。

 目の前には、柑橘水。

 飲料用の水に、取れたての柑橘を絞ったものだ。


 左隣にはリラとアム。

 右隣には、ミューが座している。

 そして、テーブルを挟んだ反対側。

 ハンドルさんとフランメリカさん。


 他二人の鬼小鬼(オーガゴブリン)

 ハンドルさんが、元八戦士団肆隊のリーダー的立場になっている。

 その為、その護衛の意味合いが強いだろう。


「ミューよ。父に何をしたのか説明をしてもらいたいのだが、教えてはくれぬか?」


「簡潔に言えば、闇気を流し込んだはずよ。エジソリンガの言葉が正しければだけど」


 俺が、この場にいるせいもあるかもしれない。

 だが、ハンドル達四人は怒りを抑えてるように見える。


「闇気? それを流すとどうなるのだ?」


「耐え切れなければ死亡。耐え切れても、徐々に理性が本能に上書きされていくようね」


「それではアキトさんが、最後を看取ったという兄は?」


 俺はここに来る前にハンドルさんに伝えた事がある。

 リンガンと呟く相手と戦った事を包み隠さず話した。

 止めも自分がさしたという事も含めてだ。

 彼は神妙に静かに聞いているだけだった。

 だけども、たぶん心の中は穏やかではいられなかっただろう。


「それでは、兄は、リンガンは何をされたのだ?」


 真っ直ぐにミューを見ているハンドルさん。


「残念ながら、彼については、私はわからないわ。エジソリンガが独断で行った事みたいでね」


 ミューは、少しだけ俯いた。


「そうか。ドウダルとレルナはどうなった?」


「サウザンの三男と長女で合ってる?」


 ミューの質問に、ハンドルは頷く。


「トルリエンに、少数を引き連れて向かわせたわ。無事到着出来たかまではわからないけど」


 トルリエン?

 町か村の名前なのかな?


「トルリエン? 何故? ふむ。そうか」


「ギュシュタンにも行って見るといいわ」


 この世界の地理について、良く考えたら何も知らないな。

 後で誰かに聞いてみよう。


「ふむ。わかった」


 俯いた顔を上げるミュー。

 ハンドルと視線が交錯しているのが、俺にもわかった。

 状況が状況だけに、リラもアムも非常に静かだ。


「ミュー、正直に言えば怒りもある。殺してやりたいと思う部分もある。だが、殺しても父も兄も、死んだ仲間達も戻っては来ぬ。だがもし、罪を償うつもりがあるならば、行動で示せ。それだけだ」


 彼の言葉に、フランメリカさん。

 そして鬼小鬼(オーガゴブリン)達も何も言わない。


「わかったわ。ありがとう」


「最後に、何故私を殺さなかった?」


「あの時の立場で言えば、実験体に出来るからと答えるわ」


「ふむ。わかった。二つの事については感謝を申し上げる。ありがとう。正直許せるかと問われればわからぬがな」


「そうでしょうね。でも、それでいいと思う」


 誰も口を開かない。

 無言の空間だ。

 とりあえず、いますぐ殺し合い何て事にはならなさそうだ。

 それだけは安心したけど。


「自分の指示でトルリエンに送ったわけだし、結果を確認したいから。ハンドル、あなた方と行動を共にしようと思うけど、どうかしらね?」


 予想もしない彼女の提案。

 俺ももちろん驚いている。

 ハンドルさんやフランメリカさんも驚愕の表情になった。


「ミュー、私達は少なくとも、あなたに好意を持っていない。いや、敵意を持っていると言えるだろう。それも覚悟の上での言葉か?」


「もちろん、覚悟の上よ。アキト、構わないわよね?」


 まさか、振られるとは思わなかった。

 即座に俺は答えられない。


「俺に聞いてはいるけど、もう決めているんだろ? なら、何も言わない。確かにミューは敵だった。けど、今の俺はミューを敵だとは思っていない。だから無事に戻って来い。わかったな」


「あら? 嬉しい事言ってくれるのね。もちろん、無事に戻ってくるつもりだから安心して」


 妖艶に微笑むミュー。

 果たして俺の返答はこれで良かったのか?

 一抹の不安を感じる。


「アキト殿がそうおっしゃるのであれば、従う所存」


「リンガンさん、いろいろと迷惑かけるかもしれませんが、よろしくお願いします」


「承りました。必ず、我々共々無事に連れ戻します」


 旅路でおそらく、いろいろな問題に直面するだろう。

 不安な面ももちろんある。

 しかし、俺はハンドルさん達とミューを信じる事にした。

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