054.美小鬼の王
「動きが止まったようじゃが、終わったのかのぅ?」
バルルケンさんの声。
右側に視線を移動させた。
離れた場所にいたはずなのにな。
「一応終わりました。でも、どうやってここまで上らせるんですか?」
それでも距離がある。
なので、少し声を張り上げた。
「ここまで階段状に、生成出来ないかのぅ?」
出来る事は出来るけど。
一度に上らせる強度にするか。
それは結構疲れそうだな。
全員一気に駆け上がらせるか?
どっちにしても大変か。
「出来るとは思いますけど」
俺は階段状に黒鬼の力を展開させていく。
そしてバルルケンさんの目の前まで辿り着いた。
強度を持たせる為、かなり厚くする。
幅も少し広めにした。
「よし。順番に登らせるから、維持しといてくれのぅ」
「わかりました」
まずは、リナさんを背負ったバルルケンさん。
一緒にアラルが上ってきた。
リナさんを下ろしたバルルケンさん。
アラルは、この場に残る。
バルルケンさんは階段を下りて行った。
彼は念のための護衛なのだろう。
次にシェリイナさんを背負ったバルルケンさん。
リラ、アルパ、ミューの三人が一緒に来る。
リラは若干おっかなびっくり。
至極冷静な表情のアルパ。
若干はしゃぎ気味のミュー。
まさに、三者三様だった。
最後に、少し離れてシェリアナさんが上ってくる。
剣を抜いて、背後を警戒しながらだった。
全員が無事に上り終えると、俺も通路に降り立たった。
再びバルルケンさんがリナさんを背負う。
俺がシェリイナさんを背負った。
黒鬼の力を常時展開し続ける。
念の為、通路が崩れないようにだ。
俺の展開速度に合わせての進行だった。
その為、思ったよりも到着に時間がかかっている。
道中ほとんど会話はなかった。
それでも、特に何か起こることもない。
無事、屋敷に到着する事が出来た。
むしろ問題はその後だった。
当然起きるべくして、起こった事なのだ。
けど、そこまで考える余裕はなかった。
ミューとアムの諍い。
穏便に収めるのに一苦労する羽目になった。
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屋敷に到着してから、数時間が経過している。
個室のベッドに寝かされたシェリイナさん。
彼女は、いまだ意識を回復していない。
今はアムとリラが付きっきりのはずだ。
アラルとシェリアナさんは、疲労困憊だった。
それぞれが別々の個室で眠りに落ちているはずだ。
リナさんも個室のベッドに寝かされた。
アルパとミューが看病しているはずだ。
バルルケンさんは、一人地下通路へ戻った。
念の為、通路を塞いでくるそうだ。
どうやってするのかは不明。
だが、何か方法があるのだろう。
俺は何しているんだろうな。
ポラミスちゃんとポルミサちゃんに捕まっているんだけどね。
アムが何か言ったらしい。
今までの冒険譚をせがまれた。
なので、出自はぼかして話しているのだ。
本当は一眠りしたかった。
しかし、きらきらとした二人の眼。
俺には断る事が出来なかった。
「アキト、お母様が目覚めた」
微かに喜びの混じった声のミュー。
「それで話しがあるそうだから来て」
俺達のいる部屋に現れたミュー。
ポラミスちゃんとポルミサちゃんに詫びた俺。
歩き出す彼女に続く。
部屋に入ると、リナさんは上半身を起こしていた。
ミューに案内され、開いている椅子に座る。
「アキト様、既にご存知かとは思いますが、改めまして。リナ・シャルドナ=レラと申します。二人にある程度のお話は伺いました。この度はご助力感謝いたします。また、私をあの楔から救って頂き、感謝の言葉もございません」
「アキトです。結果的にそうなっただけですので、余りお気になさらないで下さい」
少しまだ疲労が見えるな。
「ありがとうございます。いくつか先に、お伝えした方がよろしいかと思う事がありますので、お連れ頂きました」
至極真面目な表情のリナさん。
「呪いの事については、リラはおそらく知らない事でしょうね。ミューとアルパは既に知っているという事で、相違ありませんね?」
「えぇ、知ってるわ。アルパから聞かされた」
「存じてます」
呪いという言葉を聞いた俺。
凄い嫌な予感しかしない。
「シャルドナの初代女王が残したと言われる日記。最後のページに書かれていた内容です。黒き鬼への愛と恋の呪いを我が身に。子々孫々がいつか我が一途な想いを成就してくれる事を願う」
一途な想いを成就?
「しかし、わかる限りの資料では、彼女が存命していた時代に、黒き鬼がいたという記録はありません」
意味不明だな。
「矛盾しているようですが、その後の資料の中で、黒き鬼の血を引く物との逢瀬の記録がありました。また、実際に呪いについての調査も行っていたようですね」
「実際に呪いが存在していると?」
「わかりません。しかし、アルパとミューの申告を聞く限りは、存在していると考える方が合理的と私は考えてます」
確かに納得出来る部分もあるな。
「アルパが妙にすりすりしてきたり、ミューの態度が突然豹変したのは、呪いの影響だと?」
ミューとアルパは若干苦々しい顔になった。
「かもしれませんし、そうじゃないかもしれません」
「そうですか。ちょっと話しがそれるんですけど、ブラ・アルパが言ってた事で一つ引っかかってるんですが。シャルドナ王国、いや元王国か。最高権力者は王ではなく女王だったのでは?」
「はい。その通りです。表向きは王が最高権力者のように振舞っておりました」
何でそんな事をする?
「それは対外的に舐められないように?」
俺の言葉に一瞬言葉に詰まったリナさん。
「もちろん、そうゆう側面もあったでしょう。これはあくまでも私個人の考えなのですが、過去に女王や唯一の正当後継者、王女、姫とでも言えばいいでしょうかね? 全てがそうだとは言いませんが、呪いに浮かされてしまった事態があったようです。その為、国の存続そのものが危機に陥るという事もあったのでしょう」
「それでは、再びそのような事態に陥った時に、隠し通す為と?」
「はい、その通りです。実際私がこのような事態に陥っていても、王であるブラの言葉により、深く追求しようとしたものはいなかったようですしね」
一度言葉を止めたリナさん。
彼女はゆっくりと深呼吸した。
「ただ。私はリラも含めた三人の思慕が、呪いでも構わないと思っています。ミューとアルパは呪いだとわかった上で受け入れております。ただ、リラにも話すべきかは正直迷ってはいますね。彼女が受け入れれるかどうか、今の私には判断が出来ません」
難しい問題だよな。
しかし、シャルドナの初代女王か。
彼女はなんでそんな呪いを?
「リナさん。呪いの事はわかりました。素直には信じがたい気持ちもありますけど。それで、これからどうするつもりですか? 国はなくなってしまったわけですが」
「そうですね。私達は一部を除けば脆弱な種族です。バラバラの今の状態では、先行きは見えています」
確かに今まで見た限りでは、強い種族とは言えないかもな。
「その為、まずは元八戦士団に協力を求めるつもりです。また娘達も他にもいるかもしれません。いえ、おそらくいるのでしょう。彼女達の保護をしたいと思っております」
俺を真っ直ぐ見詰めるリナさん。
元女王様だったからだろう。
妙に威厳に満ちているようにも感じた。
「必ずしも友好的とは限りません。それゆえ、アキト様にも是非ご協力を頂きたいのです」
「呪いを逆手に取るという事ですか?」
「そうなりますね。呪いを解呪する方法についても、人手が揃えれば調べるつもりです。ですので、どうかお力添えをお願いできませんでしょうか」
真摯な瞳で訴えてくるリナさん。
俺はどうするべきなのだろうか?
いや、もう答えは決まっているな。
「わかりました。出来うる限り協力します」
ミューとアルパが大人しい。
話しの間、必要な時以外は、一切口を開かなかった。
理由はわからないが、あえて言及はしない。
こうして、リナさんとの会談は終わった。
リラとの出逢いからはじまったもろもろの騒動。
不安要素がないとは言えない。
それでも、とりあえずは解決となったので、俺は一安心していた。




