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black ogre  作者: zephy1024
第一章 美小鬼王編
46/68

046.一度ある事は悪化して二度ある

 さっきも注意が散漫で、敵の攻撃を許した。

 なのに、再び注意散漫に陥っていた俺。

 攻撃されるまで、相手の接近に気付かなかった。

 咄嗟に、妖力を全開にして防いだ。

 けど、衝撃までは打ち消す事は出来ない。


「こんなところで不様ね」


 リラを守るように、俺は声がした方に振り向いた。

 そこに立っていたのは、リラ・ミュー。


「前回はいろんな意味で負けましたが、今度こそは勝たせてもらいますよ」


 赤紫の髪に黒い瞳。

 胸元には、結晶が輝いている。

 墨のような色の六角形だ。


 その結晶から、溢れ出ているかのような黒い鎧。

 胸元をビキニ状に、下腹部をパレオのように覆っている。

 手首と足首も覆っていた。

 指先は、鋭い刃物のようになっているようだ。


「前回と、同じとは思わない事ね」


 俺と彼女の距離。

 十五メートルはありそうだ。

 何かしらの遠距離攻撃をしてきた。

 という事になのだろうか?


 直接攻撃をした。

 その後離脱する?

 俺に気付かれないで、十五メートル離れた?

 いやいや、さすがにないだろ!?


 どっちにしろリラが背後にいる。

 俺は真っ向から受けるしかない。

 鈍重であまり好きにはなれないけど。

 でも、そんな事を言っている場合ではないしな。


黒鬼型式弐防力喰(ブラックオーガタイプツーパワーイーター)


 俺の体を覆い始める黒い力。

 全身甲冑とでも表現すればいいだろうか。

 特に前腕を覆う部分は、打撃武器にも盾にもなる形だ。


 躱す事が出来ない以上、攻撃に耐え抜く。

 攻撃する以上、何処かに必ず隙が出来るはずだ。

 隙が出来たところを、無理やり力で捻じ伏せるしかない。


「やる気になってくれたようですね。それでこそ、倒し甲斐があるというものです。私をがっかりさせないで下さいね!!」


 一直線に向かってきたミュー。

 その速度は、前回の戦闘よりも格段に早かった。

 繰り出される爪撃を、両手の盾で防ぐ。

 合間に繰り出される蹴撃。


 両手両足から繰り出される攻撃。

 俺は翻弄される。

 隙を伺う余裕もなんてなかった。

 まさに防戦一方。


 心の隅っこに、躊躇している自分がいる。

 わかっていても思ってしまう。

 その気持ちが、拍車をかけているのかもしれない。


 一度距離を取ったミュー。

 下から上に、斜めに振られた両手。

 十本の黒い衝撃波が俺を襲った。


 それでも、俺の盾を突き破る事は出来ない。

 消耗戦になれば勝てるかもしれないな。

 そう思った俺の考えは、浅はかだった。


衝撃砲(インパクトキャノン)


 俺の盾に爪を立てた状態。

 そこから繰り出された魔術。

 前回もやられたはずなのに!?

 自分の愚かさに、舌打ちしたくなる。


 前回は直撃は食らわなかった。

 それでも、あの時とは比較にならない衝撃。

 伝播するように、俺の体を襲った。


 体中が粉々になる。

 そう錯覚するほどの、激痛。

 意識を失っていてもおかしくなかった。


 着弾点から流れるように走る、複数の衝撃。

 意識を失う事は出来なかった。

 そう言った方がいい、のかもしれない。


「中々に頑丈ですね」


「そっちこそ、中々にアクロバティックな動きをしてくれるじゃないか!?」


 一度距離を置いたミュー。

 俺からの反撃を警戒してからか?

 攻撃する隙も見出せないのに?


 いや、違うかもしれない。

 良く見れば、ミューの顔に若干疲れが出てる。

 そんな気がした。

 何度も、乱発は出来ないのかもしれない。

 実はそうじゃないかもしれないけど。


「その硬さ、非常にやっかいね」


「いくら手数が多くても、突き破れない限りは、勝ち目はないと思うけどな?」


 俺と視線を交錯させるミュー。


「アキト、あなたは忘れてるのかな? 前回私の行使した魔術を」


 前回?

 あの時?

 俺はそこで、自分の迂闊さに気付いた。


 だがどうする?

 ここを動くわけにはいかない。

 かといって、黒鬼の力を展開した。

 それだけでは、ミューの攻撃に斬り裂かれる。


「アキ・・トさん・・」


「リラ、心配するな。すぐ終わらせるさ」


「うん、私の姉妹みたいな人、よろしくお願いします」


 ん?

 色が変わっている?

 何でだ?


 さっきまでは墨のような色一色だったはずだ。

 上の方が白く濁ってる?

 違うかもしれないけど、試す価値はあるか。

 左手で持ち直した黒牙梓(クロキバアズサ)

 右手で鞘から抜いた。


無限空間(エンドレススペース)


 目には見えない。

 しかし、魔力が広まっていくのがわかる。

 黒牙梢(クロキバコズエ)で狙う。

 その手もあったが、当てる自信がないのでやめた。


空間固定(スペースフィクシン)


 無限に広がる空間。

 その範囲を固定する魔術ってところか?

 前回は使わなかった。


 閉鎖空間であれば、壁にあたる。

 するとそこで、固定されるのかもな。

 何て分析してる場合じゃないな。


魔力消失(マジックパニッシュ)


 やはり、そう来たか。

 俺が纏っていた黒鬼型式弐防力喰(ブラックオーガタイプツーパワーイーター)

 あっけなく砕け散る。


 別にそれはいい。

 問題はこれからのミューの行動。

 どんな攻撃をしてくるかだ。


 上から下に、Vの字を描くように振られたミューの手。

 俺はその動きを見ていた。

 十本の衝撃波が、俺に向かってくる。


 背中に黒い翼を広げたミュー。

 上空へと飛び上がる。

 正面と上からの両面攻撃。

 俺は、鞘と刀を構えて、彼女を待ち受ける。


 交差は一瞬。

 俺が全身に纏っていた黒鬼の妖力。

 十本の衝撃が、たやすく切り裂く。

 同時に、真っ直ぐに振られたミューの右手。

 俺の首を狙っていた。


 ミューの顔が一瞬、苦悶に歪んだ気がする。

 彼女の右手を、鞘で外側に弾く。


 空中で体を捻ったミュー。

 弾かれた右手の勢いも利用したようだ。

 だが、即座に勢いを殺せるわけがない。


 彼女は突進の力を、横回転の力に変化させた。

 そのままの状態で、中空で一回転。

 下から俺の顎を狙う左足。

 状態を仰け反らせつつ、右側に体を傾かせる。

 左肩を切り裂かれたが、俺は無視した。


 彼女が大地に両手を付く。

 反動で俺から離れようとしている。

 俺は彼女の背中に、前蹴りを放った。

 くの字に吹き飛ぶミュー。

 更に前に踏み込む。

 その勢いのまま、彼女を追った。


 空中で体制を立て直すミュー。

 俺に振り向いた。

 視界外の出来事のはずだ。

 彼女は俺の動きを、把握出来てないだろう。

 予想通り。驚愕の表情を浮かべていた。


 黒牙梓(クロキバアズサ)の間合。

 ぎりぎりになるように、刀を下から振り上げる。

 狙うのはただ一点。

 彼女の胸にある六角形の結晶を斬り裂いた。


 だが、駄目だ。

 まだ、浅い。

 完全に斬り裂く事は出来なかった。


 六角形の結晶に刃先は届いた。

 だが、完全に斬り裂く事が出来てない。

 振り上げた刀を振り下ろすべきだ。


 しかし、二撃目を繰り出すのが遅すぎた。

 一気に距離を取られた。


 リラと同じ顔。

 無意識に躊躇してしまったようだ。

 最後の一歩の踏み込みが甘い。

 これではもう、俺の間合には入ってこないだろうな。


「勝利を確信して、突っ込んだ私が馬鹿だったようです。正直危なかった。まさかこれがエネルギー源だと見破られるとは思いませんでした」


「色が墨のような色から、一部変わっていたからね。踏み込みが微妙に足りなかったけどな」


「なるほど。対した観察力です。私を傷つけないように配慮でもしたのでしょうか?」


「どうだろうね?」


 たぶん、躊躇したんだろうけどな。


「甘いですね。命の遣り取りをしている最中なのに。相手を気遣うなど愚かですよ!?」


「そう言われると、ぐうの音もでないな」


「これで終わりにさせてもらいます」


 両手を下から振り上げようとしたミュー。

 黒い衝撃波が来ると待ち構えた俺。

 直後、結晶が砕け散る。


 六角形の結晶。

 中心から広がるように砕けた。

 胸の中心から空気中に粉が舞う。

 そして徐々に広がっていく。

 黒い鎧が、空気に溶けてるかのようだ。

 だんだんと粉々になっていった。


 予想外の目の前の展開。

 唖然とした俺の表情。

 訝しげに首を傾げたミュー。

 彼女も悟ったようだ。

 羞恥に胸と股間を隠した。


 いや、これは不可抗力ですよ。

 まさかこの展開は予想してませんでした。

 そんなきつい眼差しで睨まないでください。


「やはりあなたは、少女の裸に興味があるんですね。私達の裸が見たくて堪らないんですね!?」

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