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black ogre  作者: zephy1024
第一章 美小鬼王編
44/68

044.崩壊

 黒光りしている剣。

 その背後に、何者かが立っている。

 二メートル近い体躯。

 黒い鎧に包まれている。

 兜に隠れて表情は見えない。

 だが、友好的ではなさそうな雰囲気だ。


「・・・侵入者・・・確認・・」


 生気の感じられない声。

 俺の耳朶を打つ。

 黒い小手に覆われた両手。

 剣の柄にゆっくり近づいた。


 俺は全神経を警戒に注ぐ。

 ここにいるのが目の前の黒い鎧。

 それだけとは限らないからだ。


「・・・リンガン・・・排除・・開始する・・」


 周囲にも警戒をまわしていた。

 その影響もあったのだろうか?

 黒い剣を掴み抜いた黒鎧。


 その後の動きに俺は驚いた。

 反応は、図体に似合わない速度。

 予想以上に早かった。


 リラを抱えて飛び上がった俺。

 既に目の前に来ていた黒い鎧。

 俺達がいた場所。

 大剣が薙ぎ払われたのがわかる。


 黒鎧を飛び越えた俺。

 そのまま、黒い剣が刺さっていたところに着地。

 リラを下ろすと、百八十度体を回転させた。


「リラ、あいつの動きは見えたか?」


「う・・ううん。わ・わかんなかった・・」


 声が震えている。

 足も竦んでいるみたいだ。

 しかし、今は目の前のあいつを何とかしないと。


「反応出来ないなら、リラは直接攻撃は無しだ」


 ゆっくりと振り返る黒い鎧。


「じゃぁ、ど・どうすれば?」


 本当は怖くてたまらないんだろうな。


「とりあえず、あいつ以外が来たら、足止めよろしく」


 リラが頷いたのを確認。

 俺は、一直線に突っ込んだ。


「侵入者・・・生存・・・リンガン・・・排除・・続行・・する」


 リンガンだって?

 ハンドルが言ってた。

 連れて行かれた兄の名前も同じだったな。

 でも、そんな事考えてる場合じゃないか。


 剣を大上段に構えた黒い鎧。

 振り下ろされる一撃。

 紙一重で躱した俺は、抜いた刀で一閃。

 しかし、予想に反して弾かれたのは刀だった。


 何とか体勢を立て直しす。

 距離を取る事には成功する。

 横薙ぎに奮われた大剣。

 屈んで躱した。


 黒鬼の力を刀に纏わせる。

 今度は突きを放った。

 相手の鎧に少し傷は出来ただけだ。

 俺の手が痺れる始末。


「攻撃が効かないわけじゃない? 鎧が硬いのか?」


 刀の切っ先を見てみるが、刃は欠けてはいない。


「何らかの方法でダメージを減算しているとか? そんな馬鹿な?」


 思考が一瞬の隙を生んだのを理解した。

 再び横薙ぎに奮われた大剣。

 間に合わない!?

 咄嗟に刀で受けてしまった。

 そのまま吹き飛ばされた俺は、壁に減り込んだ。


 くそ、やばい。

 あんな大剣の突き。

 喰らったら、上と下にちぎれちまう。

 無理やり大剣の刃に、刀の刃を合わせる。

 刀を滑らす事で、て何とか逸らした。

 大穴が開き、崩れる壁。


 ほんの数秒でいい。

 動きを止める事が出来ればいいんだけど。

 まともに受け続けたら、そのうち刀が折れるんじゃないのか?


 何か止めるか、倒すかする方法を考えないとな。

 くそ、事前に纏っておくべきだった。


黒縛六重(ブラックバインドセクスタプル)


 これでどうだ?

 いや、何ていうパワーなのさ?

 あっさり引きちぎりやがった?


 くそ、躱すのに動き回るから精神を集中出来ない。

 発動させるのに、魔力と妖力を練り合わせなきゃいけないのに。

 これでどうだ?

 駄目だ、また鎧に少し傷をつけただけだ。


 最大出力で銃をぶっぱなすか?

 いや、駄目だな。

 ここを崩落させかねない。

 万が一命中しなかった場合。

 俺が即座に動けなくなる。


 白熱する思考。

 その割には、俺は打開策を見出せない。


 背後からのリラの視線を感じる。

 何が起きているのか、見えていないんだろうな。

 周囲が破壊されていく。

 結果だけが見えてるんだろう。


 そんなどうでもいい事を考えていた俺。

 振り下ろされた大剣を、横に飛び退いて躱した。


「さてどうしたものか? リラ、俺達の動きは見えているか?」


 首を横に振るって事は、やっぱり見えてないか。


「何かダメージは与えないで足止め出来る魔術はないか? 沼とか何でもいい、あいつの足・・って」


 くそ、話す余裕もないな。

 危ない危ない。

 あんな大剣が、顔の横を通り過ぎるのは冷や汗ものだな。


「でも、私じゃ動きについていけないんだよ?」


 その疑問ももっともだよね。


「一瞬位しか無理かもしれないが、動きは俺が止める」


 あの人は神気とか呼んでたけど。

 本当は、あんまり使いたくはいんだよな。

 でもこの際、しょうがないか。

 動きを止める位だ。

 なら、体への負荷もそんなに大きくないだろうしな。


 問題はどの段階でぶつけるかだ。

 どのタイミングが一番効果があるだろうか?

 大剣を振り下ろすタイミングが一番いいか?

 そんなタイミングがくればいいのだけど。


 大剣の振る速度は馬鹿力で納得できる。

 けど、あの鎧であの速度は、まじで反則だろ?

 くそ、ちょっとでも油断したら直撃喰らいそうだ。


 何だ?

 少し動きが鈍ってきているのか?


「ぐっ!?」


 考えに没頭出来る状態じゃなかったな。

 一歩遅かったら、頭と体が分断されてたかもしれない。

 でも、さっきより動きが鈍くなっている。

 それは間違いなさそうだ。


 それじゃ、何でだ?

 動いた時の負荷に、体が追いついてない?

 いや、そんなまさか?


「ゴ・・・・ガガガガガガガガ・・・・」


 何してんだ?

 振り下ろしたままの剣。

 持ち上げようとしてるっぽい?


 何で?

 さっきまで余裕で振り回してたのに?

 持ち上げれない?


 小手の隙間から染み出しているのは何だ?

 黒い液体?

 まさか血なのか?

 ここの奴等に何かされた影響なのか?


「ア・アキトさん、一体何が起きてるの?」


「俺が聞きたいよ」


黒縛六重(ブラックバインドセクスタプル)


 さっきと違って、引き千切る力もないようだな。

 止めをさすべきか否か。

 いや、こんな所で時間を潰してるわけにはいないな。


「表にいた奴等、入ってくる様子はなさそうだな? 追いついてもおかしく無さそうなのに」


「うん、なんでだろう?」


「こいつがいるからか?」


「侵入者・・・ウゴゴガガ・・・」


「痛みに呻いてる、ようにも見えなくも無いけど、迂闊には近づけない。どうしたものかね? うん、無視して先へ進もう」


「うん、わかった。でもアキトさん、体は大丈夫なの?」


「ん?あぁ、何とかね」


「壁に減り込んだのに?」


「体だけは頑丈なのさ」


「・・・・そう、それならいいけど」


「壁に衝突する寸前に、これで衝撃を吸収したからね」


黒球(ブラックボール)


 俺が手の平サイズで出した事で、安堵したようだ。

 本当は真っ赤な嘘なんだけど。

 余計な心配させて泣かれたりする。

 そうゆうのはごめん被りたいからな。


「さっきの以外は誰もいなさそうだな」


 俺達二人は、先程の場所から更に奥に歩き出した。

 たぶんリンガンという、ハンドルの兄かもしれない黒鎧。

 少し迷ったが放置して、先に進んだ。

 視界に入る壁や床、所々罅割れている。

 かつてここで、激戦があったのだろうと思われる通路。


 一つ一つ部屋の中を確認して行く。

 ほとんどの部屋は、扉が既に存在しない。

 もしくは、半ばから砕けている。


 しかし、中には開かないものもあった。

 歪んで開かない扉は抉じ開ける。

 錠により閉じられていると思われる扉はぶち壊す。


 長い年月放置されていた。

 その為、どの扉もさほど苦労する事もない。

 簡単に壊す事が出来た。


「何で誰もいないんだ? 表にはあれだけいたのに?」


「おかしいよね。私達が侵入しているのはわかっているはずなのに」


「なんだ?」


 何か下から突き上げるような衝撃。

 微かにだが、感じられたような気がしたが。


「何か凄いほんの僅かだけど、揺れたような?」


「リラも感じたなら、俺の気のせいってわけじゃなさそうだな」


「うん、何の衝撃だろ?」


「わかんないな。だけど、下を目指した方がいいって事なのかもな。誰かがいる可能性もあるし。問題は何処から下にいけるかなんだけど」


 また衝撃?

 くそ、さっきとは比較にならないでかさだ。


「きゃぁぁぁ」


 立っているのですら難しい。

 これ程の揺れなんていつぶりだっけ?


黒鬼型式壱速度喰(ブラックオーガタイプワンスピードイーター)


「リラ、つかまれ!!」


 俺は何とか彼女の手を掴む。

 自分に引き寄せた。


 足元に入っていく亀裂。

 亀裂は足元だけではなく、壁にも天井にも。

 まるでこの城跡を中心に、巨大な地震でも引き起こされたかのように感じた。


「俺につかまってろ。絶対手を離すなよ」


 頷いたリラは、俺の首に手を回した。


 リラを抱き抱える形で、一気に加速した俺。

 触れているリラの体温。

 バクバクと脈うっている、鼓動音が聞こえてくる。


「舌噛むから口も閉じてろ」


 真っ直ぐ進むつもりだった。

 だが、左か右にしか進めない廊下。

 勘を頼りに、壁を走りながら右へ進む。

 階段を上り、廊下の先に見える微かな光。


 しかし、辿り着く前に、足元が砕けたのを理解した。

 ほんの一瞬の無重力、直後襲ってくる下へ引っ張る力。

 落下していくのがわかった。

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