043.ガブリーンの地下通路へ②
「レラって事はリラのご先祖様達って事ですか?」
「まあ、そうゆう事になるじゃろうな」
神妙な表情のリラ。
話しに耳を傾けているようだ。
「でもシャルドナとファルナス? 微妙に違う?」
「その当たりの違いの理由は不明じゃな。勝手な推測ならばは出来るが」
「そうですね。でもそんな推測に意味はないでしょうしね」
「そうじゃな」
書かれている内容も、少し気にはなる。
だけど俺も英語が得意なわけじゃない。
ここの内容を理解しようとすれば時間がかかる。
そもそも、辞書とかがないわけで。
意味を知らない単語が出てきたらそこで詰みだ。
翻訳してみるかどうかも含めて、今回の事件が解決してから考えよう。
見ているのは一部だけだ。
全てが英語だと確定出来るわけでもないしな。
「アキトさん、エイゴが何かわからないけど、読めるの?」
「ん? 単語単語でわかるのはあるけど。ちゃんとした意味を調べるなら、時間が必要かなぁ? そもそも全てが、英語で書かれているかわからないしね」
「そのエイゴって何?」
いや、何って聞かれてもね。
英語は英語としか言えないけど。
いざ、聞かれると、どう説明していいか困るな。
「うーん、アルファベットって文字があって、そのアルファベットで書かれた言語かな?」
「ふうん? よくわかんないけど、わかった」
「今回の問題が解決したら、わかる範囲でちゃんと説明するよ」
「うん」
「それじゃ、先に進むとするかのぅ」
バルルケンさんの言葉に頷いた俺達。
再び歩き始めた。
その先も壁画は存在している。
俺達は絵だけを見ていく。
最初は何か大きな戦いの始まり。
そして、その戦いの推移のようにも見える。
剣を持った少女と杖を持った少女。
二人が必ず描かれている。
軍勢を率いている姿。
時には二人だけ。
魔物らしきものを蹴散らしていた。
地下という空間。
ひんやりとしている空気。
その中にある壁画。
ところどころ、経年劣化だろう。
色がくすんでいたり、破損している。
本当に残したのが、リラの先祖だった。
だとしても、彼女達は何故、こんなところに残したんだろうな?
バルルケンさんの話しでは、知る人は限られているのに。
それとも、知る人が少ない方が良かったのだろうか?
いま、そんな事考えてもどうしようもないな。
そう思いなおした俺は、意識を本来の目的に集中させた。
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途中で妨害があるとも考えていた。
だが、何事もなく辿り着いたようだ。
「ここを上がると城内の南塔じゃ」
バルルケンさんの言葉に頷く俺とリラ。
「それで作戦としてはどうするつもりなのじゃ? 儂とお主達二人で、二手に分かれて行動するのが良いと思うのじゃが?」
「え? この先も協力して頂けるんですか?」
「もちろんじゃ」
「ありがとうございます」
どうするべきか?
リラ一人なら俺だけでもたぶん守りきれる。
ならば、俺達二人が陽動に出るべきか?
でも、リラを危険に巻き込む事になるよな。
「それじゃ、アキトさんと私が陽動で暴れて、バルルケンさんがその間に侵入ってのはどうでしょうか?」
「儂はそれで構わないが、リラひ・・いや、お穣ちゃん。覚悟はあるのだな?」
「はい」
バルルケンさんとリラが、視線を交錯させる。
しばらく見つめ合っている二人。
ほんの少しだけ、バルルケンさんの口元がほころんだ。
結局、俺が口を差し挟む間もなかった。
作戦は決定してしまったようだ。
「アキト、お主の気持ちもわからんではない。しかし、頭数が限られている以上、腹を括るんじゃな」
バルルケンさんの言葉。
反論したい事はいくつも頭に浮かんだ。
だけど、結局俺は何も言う事が出来ない。
諦めて、ただ頷くしかなかった。
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南塔で別れた俺達。
陽動として動く俺とリラ。
堂々と鬼小鬼達の前に現れる。
体の一部が肥大している者。
変色していたりする個体もいる。
見た限り、正常そうなのは一体もいない。
俺を見ると、一直線に向かってくる。
作戦も戦術もまるでないようだ。
唸って走ってくるだけ。
話しかけても言葉さえ通じなさそうだ。
思考能力そのものがないのはありがたい。
だけど、妙に薄気味悪い気もした。
それでも、向かってくるのは薙ぎ倒す。
そうしないと、俺とリラが進めない。
城跡内の大まかな構造。
一応、バルルケンさんに聞かされていた。
何処も崩れてたり、亀裂が入ってたりで廃墟同然だ。
庭と思しき場所。
草木が自由を謳歌している。
一種壮観な状態だな。
かつて庭道らしい道。
俺達はそこを歩いているようだ。
「リラ、あいつらは元々、あんななのか?」
「うーん? 私も村からほとんど出た事ないけど、何度かあった人達はあんなんじゃなかったよ」
「そうか」
移動速度をリラに合わせてる。
このままだと囲まれかねないな。
そう思った俺。
「リラ、止まれ」
「え? あ、うん」
リラが素直に止まる。
俺は背中を向けるように屈む。
「え? アキトさん? 何してるの?」
「俺の首に手を回せ」
リラがどんな表情をしているのかは、わからない。
だけど、数瞬の間が置かれる。
彼女の手が、俺の肩に触れるのがわかった。
首に交差されるリラの手。
≪黒縛三重≫
俺の言葉と同時に、黒い帯が俺とリラを固定する。
腰で一巻き、胸で一巻き。
最後の人巻きは、リラのお尻を支えるように、幅を広くした。
椅子のような感じだな。
「リラ、少し口を閉じていろ」
固定を完了した俺は、突然立ち上がった。
周囲に集まりだしている鬼小鬼達。
彼等を排除する為だ。
彼らが攻撃を開始する前に、体術で吹き飛ばしてく。
突然の事に、リラが俺にしがみつている。
たぶん驚いているんだろうな。
いきなりで、後免ね。
でも、彼等が近付きすぎていたんだよ。
説明している時間はない、そう思ったんだ。
悲鳴の一つでもあげるかと思った。
本当は、あげたいのかもしれない。
けど、俺の言葉に忠実に守っているみたいだ。
頭の中で教えられた構造。
俺は思い出しながら進む。
そして辿り着いた大扉。
重々しい扉だ。
表面は錆付いてはいる。
だが、しっかりと閉じられていた。
シャルドナ城は、東西南北に塔が存在する。
それらの中央に城の本体があるのだ。
東西南北の塔から、中央の城本体に行く。
その為には、中庭を通らなければいけない。
もしくは、城の周囲をぐるりと囲んでる壁。
おそらく十メートル以上ある高い壁だ。
その高い壁を飛び越えるしかないそうだ。
ここの構造が、普通なのかどうかは俺にはわからない。
日本にしろ、外国にしろ、城の知識なんて持ち合わせてはいないからね。
普通は、攻めにくくするものじゃないのかと思う。
けど、この城の構造はどうなんだろうな?
攻められやすいけど、逃げやすくもあるのか?
よくわかんないや。
そんな思考に浸っている俺。
突如リラが、更に強く俺の首をしめた。
えっと、リラさん?
何故俺は首を絞められているのですか?
「馬鹿・・びっくりしたんだから」
か細い声のリラ。
若干涙声?
いや、まさかね?
緊急だった。
でも、さすがにやり過ぎた?
「説明している時間が惜しかったとはいえ、ごめんな」
「あ・あとで絶対、ちゃんと謝ってもらうんだから」
「うん、わかったよ。さて、開けるぞ」
「え? う・うん。でもここって中央塔の正面?」
かすかだけど涙声のままか。
いや、なんか楽しくて、後半調子にのってたな。
言ったら収集つかなくなりそう、だから言わないけど。
「たぶんな」
「だとしてもなんで?」
「ん? トップってのは、偉い人が座るようなところで、ふんぞり返ってるかと思ってね」
「えっと・・うんと」
「とりあえず、開けるぞ」
「え、あ? うん」
冷たい金属の感触。
両手で感じている。
俺は、扉をゆっくりと開けた。
そして、俺とリラの視界にはいってきたもの。
突き刺さっている剣だ。
二メートルはあろうかという、巨大な剣だった。




