042.ガブリーンの地下通路へ①
出発する直前、篭を持って歩いてきた三人。
一番大きい篭のバルルケンさん。
中には、大根みたいなのが盛りだくさん。
ポラミスちゃんとポルミサちゃんの小さな篭。
様々な色合いで、多種多様な何かの実が入っている。
何の為かと聞いてみる。
橙賢猿が協力してくれた。
その時に、お礼に置くんだそうだ。
しばらくすると、橙賢猿の群れが、ボスを先頭に現れる。
何を話しているのかは、さっぱりわからない。
しかしバルルケンさんは、彼らのボスと会話をしているようだった。
彼らとの会話が終わったようだ。
バルルケンさんを先頭に、俺達はガブリーンの古墳の裏側へ案内される。
石造りで、扉も何もない壁。
一体どんな技術で成り立っているのかさっぱりわからない。
バルルケンさんが何か呪文のようなものを呟く。
壁の一角が、横開けの扉のように開いた。
「ここから入れるんじゃ」
手にもっていたカンテラに火をつけた。
壁に開いた空間に消えてゆく、バルルケンさん。
俺は少し躊躇したが、彼の後に続く。
ポラミスちゃんと手を繋いでるリラ。
アムと手を繋いでるポルミサちゃん、フランメリカさんの順で中にはいる。
この順番は、事前に決めていたのだ。
≪乱舞光源≫
リラが唱えた言葉に呼応するかのようだ。
小さな妖精のような光が俺達を照らす。
その光は、まるで踊っているようだ。
一定のリズムで、俺達の周囲を漂い始めた。
「綺麗!!」
「本当、綺麗!!」
後ろからそんな声が聞こえてきた。
声からはポラミスちゃんとポルミサちゃんだ。
どっちが先だったのかは、俺にはわからなかったけど。
やけに長い階段が終わり、平らな通路が視界にはいってきた。
光源はバルルケンさんのカンテラと、リラの唱えた光のみ。
通路の幅も高さも、精々が五メートルぐらいだろう。
周囲は壁も床も天井も、灰色のコンクリートのようなブロックが敷き詰められている。
触れてみると、相当硬く、ザラザラしていた。
時折後ろを振り返り、俺達がいる事を確認しながら進むバルルケンさん。
彼はポラミスちゃんとポルミサちゃんをやはり気にしているようだ。
その歩みは非常に遅い。
少し先行して歩いているのは、通路の先の安全を確認する為だろう。
バルルケンさんの話しでは、この通路は実際には、ずっと直線なわけではないらしい。
理由まではわからないそうだが、たぶん地盤とかの関係上なんだろうな。
三つ目の角を曲がりながら、俺はそんな事を考えていた。
-----------------------------------------
何もないただの通路。
一時間程歩いたんだと思う。
俺達は直線の続く通路と、地上に上がる為の階段がある場所に辿り着いていた。
ここが、バルルケンさんの言っていた屋敷へ通じる階段なのだろう。
「ここから階段を上がれば屋敷で、先に進めば王城跡なんですかね?」
「そうじゃな」
面白みもなにもない地下通路。
ただただ歩いてきたせいだろう。
リラやアム、ポラミスちゃんもポルミサちゃんも静かだ。
「まずは屋敷を確認じゃな。その後で王城跡へ向かう事にするが良いか?」
俺の顔を見て、そう口にするバルルケンさん。
もちろん俺にも異存はない。
「はい。お願いします」
長い階段を上り、行き止まりに辿り着いた。
そこで、バルルケンさんが何かを呟く。
俺にはアーペリィと呟いたように聞こえた。
開くとか開けるとかそんな感じの意味なんだろうか?
バルルケンさんの言葉に反応して、横開きに開く壁。
進む彼の後に、俺も続く。
辿り着いた先は、建物の中のようだ。
埃が積もっていると思ったが、思ったよりは綺麗だ。
「定期的に、確認には来ていたからのぅ」
俺の心を見透かしたかのようだ。
「さすがに、一人で屋敷全体を維持するのは、無理じゃったけどな」
俺達が辿り着いた部屋。
どうやら隠し部屋のようだ。
更に上層に上がる為の階段がある。
「階段を上がると、建物のホールに出るんじゃ」
言うが早いか階段を上がり始めたバルルケンさん。
俺も警戒しながら、その後に続く。
階段の行き止まり部分。
天井を押し上げるように、持ち上げるバルルケンさん。
俺も彼の隣に並んで、持ち上げるのを手伝う。
縦横二メートル程の天井を押し上げた。
そして入り込んでくる空気。
視界に露わになる屋敷のホール。
バルルケンさんを除く、俺達六人。
視界に入った光景に思わず感嘆の声を上げた。
吹き抜けのホール。
壁や天井には、ところどころステンドグラスのようなものが嵌め込まれている。
屋敷のホール内を、光が静かに照らしていた。
とても隠れる為の屋敷には見えない。
視線を移動していく。
見た感じ建物の中心点らしき天井。
真円と、六芒星を基礎にしているような感じだ。
複雑に図形が組み合わされた、魔法陣が描かれていた。
「バルルケンさん、あれは?」
思わず質問してしまう俺。
皆の視線が、俺の指差した魔法陣に注がれる。
「あれか。あれはこの屋敷を、外からは認識出来ないようにしている魔法陣じゃ、と言われておる。ただ、この屋敷に残された記録を見る限りでは、余りに複雑緻密過ぎて、完全に解読出来たものはいないそうじゃ」
「それじゃ認識出来ないようにしている、のではない可能性もあるって事ですか?」
「いや、認識阻害の効果もあるそうじゃが、それだけでは、あそこまで複雑な魔法陣にはならないそうじゃ。認識阻害はあくまでも副次効果じゃないか、という記録が多いのぅ」
バルルケンさんの説明。
俺達はただただ、頷くしか出来なかった。
-----------------------------------------
一通り屋敷内を隅々まで確認。
屋敷の掃除は、居残り組がするという事で意見は一致した。
問題は、誰が居残り組になるかという事だ。
道案内と先にある出入口を開ける為に、バルルケンさんは外せない。
戦力として俺は同行必須。
そこまでは当然として、リラとアムをどうするかが問題だった。
ポラミスちゃん、ポルミサちゃんは居残り組。
フランメリカさんも、そうだ。
本人達も異存はないようだった。
問題は、アムとリラだ。
これから向かう場所は危険である可能性が高い。
アムは怪我の事もあるので、どうするべきか迷った。
二人に同行するか居残るか聞いてみる事にする。
「アムとリラ、居残るか?」
先の答えたのはアムだ。
「私たぶん足手まとい。不本意だけど、役立たずは残る」
泣きそうな眼差しで、そう零したアム。
俺は思わず、頭を優しく何度も撫でた。
何故自分でも、そうしたのかわからない。
「アムが戦えない以上、私がいく!!」
アムの決断を聞いた後のリラの言葉だ。
自分の考えも決めかねていた俺。
どうするべきか迷ってしまった。
しかし、一度言い出した彼女を、説得する事は出来るのだろうか?
自問自答してみる。
もちろん、むりやり意見を曲げさせる事は出来るかもしれない。
ここならば、そう簡単には見つからないだろうし。
「アキトさんが何を言っても私は行く。勝手についてくんだから!」
真っ直ぐ俺を見つめる彼女。
真摯に俺を見つめる瞳。
決めかねていたのもあるが、折れたのは俺の方だった。
戦力は多い方がいいなんてごまかしてみる。
けど、やはり心の何処かに、連れていくべきではない。
そう囁く自分がいるのも事実。
『信じてあげればいいんじゃないの?』
突如俺の心の中に響いた声。
聞き覚えがあるような気がする。
そういえば、前にもこんな事があったような気もするけど。
って今はそんな事を考えている場合じゃない。
「アキトさん? どうしたの?」
「い・いやなんでもない。リラ、危険なのは承知してるな? 覚悟の上だな?」
「うん、もちろんだよ。だって、アラルもシェリアナさんもどうなっているかわからない。だから私達が、シェリアナさんの妹さんを助けないと駄目だと思う」
「そうだな。わかった」
リラの髪をくしゃくしゃって撫でて上げた。
少しだけ不満そうなリラ。
「決まったようだじゃな」
話しには参加せず、静観していたバルルケンさん。
「はい。フランメリカさん、アムをお願いします」
「はい。お任せ下さい」
「それじゃ行くとしようかのぅ。ポラ、ポル、いい娘にしてるんじゃよ」
挨拶を交わして、二つに別れた。
俺とパルルケンさん、リラの三人で、再び地下通路へ向かう。
一言も口を開く事なく進む俺達。
どれぐらい進んだんだろうか?
携帯がないので、正確な時間経過を調べる事も出来ない。
まあ、そんな事をしても、何の意味もないんだけど。
「ここからが、王城の敷地だと言われておる」
バルルケンさんの声が静かに響く。
彼が指差した壁。
確かに、そこからは質感が異なっている。
「壁に絵と文字? でも何て書いてるんだろう?」
「英語か?」
「え? アキトさん、これ読めるの?」
リラさん、何でそんなに驚いているの?
しかし、その理由は、バルルケンさんの次の言葉でわかった。
「ここに書かれている文字は、初代黒き鬼、カミトが、ジャパパネ語を大陸全土に広める前、人間の極一部の国で使われていた文字じゃ、と言われておる。それが何故、ここに記されているかは謎じゃ。シャルドナ国初代女王アブリーナ・シャルドナ=レラと、彼女の友人である、大英雄のガブリーン・ファルナス=レラが残した記録、とも言われておるがな」




