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black ogre  作者: zephy1024
第一章 美小鬼王編
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041.秘密の地下通路

 血濡れのローブの、エジソリンガ・ガルギャルが歩いていく。

 彼は、魔法陣の描かれている台の前で立ち止まる。

 台に手を置いた後、視線を左上方に向けた。


 彼の視線の先。

 とてつもなく巨大な、何かの機械装置。

 その前に立っている二人が見える。


 一人は、空色の髪に空色の髭。

 綻びが無数にある、ローブを纏っている男。

 ローブには刺繍が施されていた。


 その彼の隣には一人の少女。

 赤紫の髪に黒い瞳。

 深いスリットの入った、紺のドレスを着ている。


 少女は、まるで男に寄り添うようだ。

 頭を凭せ掛けている。

 しかし、何処かその瞳には、迷いのような、揺らぎのようなものが見受けられた。


 二人の視線の先の、巨大な球体の中。

 透明な液体で満たされている。

 一糸纏わぬ姿の、白髪に褐色の肌の女性。

 膝を抱えるようにして浮いていた。

 瞼は閉じているが、時折胸が上下している。

 ただ、眠っているようにも見えた。


 寄り添っていた少女。

 その場を辞した。

 男は微動だにせず、無表情にじっと眺めている。


 眺め飽きたかのように、ゆっくりと反転した男。

 今度は反対側の眼下に見える、球体に視線を向ける。

 透明の液体の中には、水色の髪に、白い肌の女性が揺蕩っていた。


 そして、その上には、禍々しい瘴気を放っている鎚が突き立てられている。

 揺蕩う水色の髪に、白い肌の女性。

 まるで大事な大事な宝物であるかのような、愛おしい眼差しで見ている男。

 その目には、微かに涙が溜まり始めていた。


「もうすぐだ。もうすぐ私の願いが叶う。やっとここまで辿り着く事が出来た。私が八割方完成させていながら、道半ばに途絶えた願い。新たなる私が、私の願いを今、成就せしめん」


 両手を掲げ、大仰に言葉にした男。

 男の両目からは涙が溢れている。

 まるで感動に打ち震えているようだ。


 機械からは時折、紫の光が迸り始める。

 まるで、彼の言葉に反応したかのようだ。

 機械が鈍い駆動音を響かせ始める。

 動き始めたのが明らかだった。


-----------------------------------------


 ゴリラとオラウータンを足して、二で割ったような生物。

 まるでバルルケンさんの謎の言語を理解しているようだった。

 まさかバルルケンさんも、彼らの言葉を理解しているとでも言うのだろうか?


 でも、とても仲良しそうに見える。

 幾ら考えてみても、さっぱりわからない。

 聞いてみるしかないか。


「バルルケンさん、さっきのは一体? 猿のような生物達が、従っているようにも見えましたが?」


「従っているか。まあ、似たようなものではあるがな。さっきのは橙賢猿(オレンジセゲイシャスモンキー)と言って、本来はこのへんの森を根城にしているんじゃ。まぁ、昔壊滅寸前だったあそこの群れを、結果的に救った事があっての。それから懐かれているというか、共生関係になるというか、まぁそんな感じじゃな」


「そうなんですね。でも何か話しかけてましたよね?」


「そうじゃな。あの猿達は非常に賢くてな。儂等がかつて使っていた言葉。正式に何語とかの名称はないんじゃが、しいて言うならゴブリン語とでも言えばいいかの? 教えてみたら、ある程度の言葉は覚えてしまったんじゃ」


「へぇ、凄いですね」


 そんな話しをしながら、バルルケンさんに案内された部屋に入る。

 部屋の奥の方に、台所のような感じの空間があった。

 フランメリカさんが一人で、せわしなく動いている。


「アキトよ、ポラとポルは、お主の連れのところに行ってるんじゃったな」


「はい、そのはずです」


「そうか。それでは朝食にするから、二人と、お主の連れの娘さん方も呼んでくるがいいぞ」


「え? あ、はい。わかりました」


「フランメリカ、手伝う事はあるかのぅ?」


「あ、ではそこの鍋、焦げ付かないように掻き混ぜてもらえますか?」


 そんな二人の声が、背後から聞こえてくる。

 なんとなく微笑ましい。

 そう思いながら、俺はリラとアムが眠っている部屋に向かった。


-----------------------------------------


 部屋にはいると、リラとアムは既に目覚めていた。

 目覚めてはいたのだけども・・・。

 ノックしてから扉を開けるべきだった。


 扉を開けて俺の目に入ってきた光景。

 着替えを手伝っている、ポラミスちゃんとポルミサちゃん。

 そして一糸纏わぬ姿の二人。


 いたって冷静な表情で俺を見るアム。

 リラは、明らかに赤らんだ顔になっている。

 しばらくじっと見たまま、フリーズした俺。

 我に返ると、直ぐに扉を閉めた。


「リラ、アム、御免。まさか着替えてるとは思わなかった」


 少し自分の声が上ずっているのがわかる。


「アキト、やっぱり裸大好き?」


「ア・アキトさん、私達の裸見たいんですか?」


 扉越しに聞こえてくる二人の声。

 アムの声は至って平常。

 明らかに動揺しているリラの声。

 対照的な二人の声が、俺の耳を打つ。


「い・いやそれはって、あ・朝ご飯にするって」


「「はい。わかりました」」


 聞こえてきたポラミスちゃんとポルミサちゃんの声。

 自分自身、こんなに動揺するなんて思わなかった。

 俺は四人が部屋から出て来るまで、何とか平常心を保つように努める。

 何度も何度も深呼吸に励んだ。


 扉を開けて出てきた四人。

 少し顔を赤らめているリラは、何か言いたそうだ。

 でも、墓穴を掘りそう。

 なので俺は、気付かない素振りでやり過ごそうとする。

 だけども、それは甘い考えだった。


「アキト、私達の裸見て喜んでた。やっぱり裸好き。リラも私も、言ってくれればいつでも見せる」


「あ・アム、勝手にそんな事」


「リラはいや?」


「えっ? えっとね。そ・そんないやじゃないけど、突然見られるのは凄く恥ずかしい。突然じゃなくても恥ずかしいけど」


「恥ずかしい。恥ずかしい?」


 二人の会話で、先程の光景を思い出してしまう俺。

 動揺し始める俺の手に触れる、柔らかい感触。

 ポラミスちゃんとポルミサちゃんが、俺の手を握っている。


 背後で、恥ずかしいという事について、謎の論争をはじめた。

 これ以上突っ込まれないよう、俺は一切触れない。

 二人を置いていくように、俺は手を引っ張られていった。


 バルルケンさんとフランメリカさんがいる部屋。

 辿り着く頃には、リラとアムの論争も終了。

 テーブルには既に食事が並べられていた。


 薮蛇になりそうな気がする。

 なので、論争の結果については追及はしなかった。


 テーブルには、シチューのようなスープに黒パン。

 それに鶏の塩焼きのようなもの。


 鶏の塩焼きのようなものは、叫声雄鶏(シャウトクック)という魔物の肉だそうだ。

 素手でも倒せるような弱い魔物だそう。

 ただ、その叫び声だけは凶器らしい。

 どう凶器なのかは、説明されてもいまいちわからなかった。


 実際に食べてみると、鶏肉と大差ない感じだ。

 家庭の味を感じさせる食事。

 正直心が安堵しているのがわかる。

 でも、安堵している場合じゃないのもわかっていた。

 あの後、他の皆がどうなってしまったのかもわからない。


 食事が終わった。

 フランメリカさんが食器を片付けはじめる。

 ポラミスちゃん、ポルミサちゃんも手伝い始めた


 そんな中、俺達三人は、バルルケンさんと向き合っている。

 これから話し合うのは、今後についてだ。


「フランメリカから、おおよその話しは聞いているが、これからお主達はどうするのじゃ?」


 リラとアムが、俺を見つめているのがわかった。

 正直いえば、あの後どうなったのか、確認したい気持ちもある。

 アラルやシェリアナさんの安否も知りたい。


 だからといって、仮に今からドウラ城に戻ってもどうしようもないだろう。

 それに、俺達の今の目的はシェリイナさんの救出。

 ならば決まっている。


「シャルドナ国王城跡に、向かおうと思っています」


「そうか」


 目を瞑ったバルルケンさんは、一体何を思っているのだろうか?

 どうするか迷ったけど、彼の反応を待つ事にした。


「ガブリーンの石碑には、秘密があると言われておる」


 突然、そんな話しをしだしたバルルケンさん。

 その意図がさっぱり俺にはわからない。

 だけども、何か重要な情報が提示される可能性も、あるかもしれない。

 会話に口を挟むような事はしなかった。


「その秘密がどんな内容なのかは誰もわからぬ。秘密と関係があるのかもわからないのじゃが、あそこには、嘗ての王城へと続く秘密の地下通路があるのじゃ。儂等シャドイリアン家は、そもそもが、その秘密の通路を管理していた一族なのじゃよ。儂一人では守りきるのにも、限界が出てくるしのぅ。案内する事にしようかのぅ」


「しかし、その間、彼女達はどうするんですか?」


「もちろん一緒に連れてゆくつもりじゃ。通路の途中に、隠れて居住する為の屋敷があるんじゃ。しばらくそこで生活しようと思っておった所じゃしのぅ」


 バルルケンさんの協力を受け入れる俺達。

 秘密の地下通路から、シャルドナ国王城跡に向かう事になった。

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