034.ドウラ国突入⑦
黒き瞳に黒き髪のアキト。
何とか逃げる事には成功した。
けど、彼は一体何者なのだろうか?
それにあの時、何故私は恥ずかしいと思った。
裸身を見せる。
今まで無かったわけじゃない。
でもその時に、羞恥に悶えるなんて事なかった。
さっきは戦闘の真っ只中。
私はどうしてしまった?
それに気になる事もある。
サウザンとワンドルに貸し与えた武器。
闇鬼の鎚の複製品。
複製品ではある。
けど闇気の力がなければ、使えない代物。
アキト、彼が使えた。
という事は、彼も闇気の力を持っている。
そう考えなければ、おかしい。
彼らにも、私と同じような技術がある。
そうゆう事なのだろうか?
まさか正真正銘、生まれ持っての闇気持ち?
いやさすがに、それは考えにくいと思うの。
そんな事を考えている私。
仄かな光が照らす洞窟を、一人走っていた。
サウザンの暴走した闇気の結晶。
そう長くない時間で、エネルギー切れを起してしまうだろう。
私も、エネルギーを半分以上消費してしまった。
きっと勝ち目はない。
負けてしまったのは不本意。
だけど、あんなやっかいな奴がいる。
それが事がわかっただけでも、良かった。
かもしれないわね。
恐らく彼らも、直ぐには私の居場所を見つける事は出来ないはず。
いやまて、ハンドル・ドウナがあそこにいた。
彼が何処まで私達の事を嗅ぎ付けたのかまではわからない。
けど、私が何処に向うかは、勘付かれてるかもしれないわね。
実験体として生かしておいた。
それは間違いだったみたい。
洞窟を抜けた先。
私は待機させていた青翼竜に飛び乗る。
この子は、お父様が私に与えてくれた。
移動用のペット。
どうやって従順にさせたのかはわからない。
けど、何故か私の言う事を理解して従ってくれる。
騎乗用の鞍に括り付けて置いたローブ。
私は羽織ると、彼女に跨って大空に飛び上がった。
空は恨めしくなるぐらい快晴。
太陽がキラキラと輝いている。
私も出会い方さえ違えば、あっちのリラみたいに普通に生きれたのかな・・。
何を弱気になっているのかしら。
今更もう、後戻りは出来ない。
わかっているのに。
でも何だろうこの気持ち?
敵なのに、あのアキトという男。
もっと話しをしてみたい。
そう思っている自分がいる。
貴重なサンプルになるからなのだろうか?
自分で自分の気持ちがよくわからない。
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リラ・ミューに逃げられてしまった。
だが、アラルの話しでは、行き先はわかっているらしい。
詳しい話しはとりあえず置いておく。
今俺はリラとアムの側にいる。
彼女の負傷が気になってはいた。
シェリアナさんの回復魔法で、治癒はされた。
戦闘等の激しい運動さえしなければ、問題ないらしい。
その程度には、回復させたとの事だ。
見ていても、普通に動く分には問題ないように見える。
シェリアナさんの妹のシェリイナさん。
彼女の魔法であれば、完全に回復させる事も可能らしい。
この世界の回復魔法は便利のようだな。
俺のいた世界では、こんなに即効で回復なんて出来なかった。
例外ももちろんあったけど。
ふと、アラルの方に視線を向ける。
無言でサウザンの亡骸の側。
佇む鬼小鬼の側にいる。
シェリアナさんの話しでは、彼はサウザンの息子。
ハンドル・ドウナと言うらしい。
アラルとシェリアナさんが、牢屋に辿り着いた所、牢屋に入れられていたそうだ。
牢屋にはもう一人いた。
ライサという名の、白い虎耳少女。
彼女が捕らえられていた。
彼女は、アラルやリラとも面識のあった。
タイダル国から派遣されていた、使者の一人らしい。
俺が怖いのか?
リラの影に隠れて、俺の視界に入らないようにしているみたい。
それでも視界に入っているのだけども。
ちょっとだけショックではある。
黒き鬼って奴の所以。
なんだろうなと半ば諦めてもいる。
黒眼で黒髪なだけで黒き鬼として恐れられてしまう。
この世界では、最早宿命なんだろうな。
ハンドルとライサの二人。
牢屋に囚われていた理由は気になる。
だけど、一番問題なのはリリラなのではないかと思っている。
さっきから表情は硬い。
何かを隠している気もする。
でも、その内容はさっぱりわからない。
それによくよくみれば、リリラとリラも似てるんだよな。
目付きとか胸の大きさとかの違い。
そこはともかくとして、顔の輪郭とか雰囲気が似ている。
何となくそんな気がしていた。
今までそんな事気にもしてなかった。
けど、リラ・ミューとの遭遇。
それが、そう感じるようになった理由なのかもしれない。
リラ・ミューが何をしようとしているのか。
それはわからない。
だけど、シェリアナさんの妹の事もある。
余りここに、長居をするわけにもいかないだろうな。
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俺とアラルの二人。
リラ・ミューの逃げていって開けっ放しだった扉。
その先に進み、追ってみた。
やはり、予想通りだ。
見つける事は出来なかった。
それなりの時間も経過してる。
当たり前と言えば当たり前だな。
一直線に続いた洞窟の先。
かなり大きな、バルコニー状の岩のでっぱりになっている。
飛び降りれなくもない高さだ。
その下は鬱蒼とした森になっている。
もしその中に逃げ込まれた。
そうあれば探すのは困難を極めるだろう。
それに、魔術について詳しいみたいだ。
空でも飛んで逃げた。
そんな可能性もあるかもしれない。
俺達に、追いかけるような人員もいないし。
リラ達の所へ戻った俺達。
念の為、洞窟内を隅々まで確認してみた。
踏み込んでいない場所も含めての探検。
ハンドルが道案内。
俺とアラルと彼の三人で探索だ。
リラとアムとシェリアナさん、ライサの四人が居残り班。
シェリアナさんは、リラの護衛も兼ねてもらっている。
そんな形で探索をした俺達。
特にこれといって、何かを発見する事も出来ない。
常駐している数名。
非戦闘員も含めた、鬼小鬼と遭遇しただけだ。
俺とアラル、ハンドルの三人。
探索を追え皆の下へ戻った。
背後には道中で遭遇した者達。
ハンドルが説明、時には説得した鬼小鬼がいる。
内訳としては戦士が三人。
メイドが四人と少数だ。
居残り班に合流。
ハンドルと、戦士三人にメイド四人。
俺がここに来る時にぶちのめした衛兵。
彼等を回収、介抱に向った。
「さて、リリラ。何で一人で先走ったか聞かせてくれや」
リリラの瞳を真直ぐに見つめたまま、そう言ったアラル。
彼女は目を背ける事もない。
アラルの視線を受けている。
だがその瞳は、何処か物悲しい感じもしていた。
彼女の目が決意したかのように、アラルを射抜いたようにも見える。
「話したくありません」
それだけ言うと、口を閉ざしてしまったリリラ。
正直俺はどう対処していいかすらわからない。
無言の空間。
それも余りいい雰囲気ではない空間。
正直余り居心地は良くない。
「このままこうして、無言になっていてもどうしようもありません。私には事情は詳しくはわかりませんが、まずは必要な事から行なうべきではないでしょうか?」
シェリアナさんが空気をかえるかのように紡ぎだした発言。
アラルは対するように発言しようとする。
「これも必要な――」
そこに珍しく、リラがアラルの言葉に被せた。
「確かに必要な事かもしれません。でも優先すべき事は他にもあるはずではないですか?」
本人は意識しているのかはわからない。
しかし、口調も少し違う。
こうなんというか、そこまで大きい声ではない。
なのに、不思議とその場を支配している。
そんなような感覚を覚えた。
「今は私と同じ顔のミューの行方と、シェリアナさんの妹、シェリイナさんの救助を優先すべきではないかと思います」
普段とは違う雰囲気のリラ。
アラルも言葉を続ける事が出来ず唖然としていた。
「とりあえずは、ハンドル達が集めてくる情報を待つのと、それぞれの情報とかの共有だな」
内心では空気に呑まれていた。
何も言えなくなりそうだった俺。
なんとかそう締め括った。
アラルは不満そうだ。
だが、一応納得してくれたらしい。
反論とかはしなかった。
情報の共有は、大事な事だ。
その為、俺から、ここに入ってからの行動と状況。
一つ一つを、その場の全員に説明していった。




