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black ogre  作者: zephy1024
第一章 美小鬼王編
31/68

031.ドウラ国突入④

 サウザンの上から目線の言葉。

 仮にも王様だからなのか、一応威厳は感じられる。

 だがその物言いに、俺は答えてやるつもりはない。


「王っていうけど、おまえ馬鹿だろ?」


「な? 何? 王に向って馬鹿だと? この場で斬り捨てられたいか?」


「はっ? 何言ってるんだ? 俺はあんたの部下でも、あんたの国の住人でも何でもない。なのになんで従う必要があるって言うんだ? 俺はリラを渡す為にここに来たわけじゃない。リリラさんを連れ戻しにきただけだ。邪魔するっていうなら王だろうが何だろうが排除するだけだ」


 サウザンの顔が怒りに満ち満ちているね。

 こうなる事がわかってて言ってるんだけどさ。


「アキトさん、怒らせてどうするんですか!?」


 リラは咎めるような、心配するような表情だ。


「話しあいで解決するような相手じゃないだろうしな。それにぶっちゃけてぶっ潰したほうがはやいだろ」


 俺の答えに呆然とするリラ。

 逆にアムは何も感じていないようだ。


「それよりもリリラさんの説得は頼むぜ、リラ。アムはリラとリリラさんの護衛よろしく」


 二人が反応する間もなく、その手を掴み前に進む。

 サウザンが、すぐ側にあるどっかで見たような鎚を手に取った。

 嫌な予感がびんびんする。

 リラとアムの手を離し、即座に駆け出した。


 こっちを向いて固まったままのリリラさん。

 サウザンの動きに気付いていない。

 奴は手にもった鎚を、リリラさん目掛けて横薙ぎに振る。


 間一髪だった。

 その間に割り込むように入り込んだ俺。

 両手に黒い刃を纏い、奴の鎚の一撃を防いだ。

 かなり重い一撃だった。

 だが、何とかその場に踏み止まり、受ける事が出来た。

 しかし受けた部分が徐々に崩れていく。


 アムがリリラさんの側に移動。

 彼女を抱えて再びリラの側に戻った。

 アムの体躯からは考えられないパワー。

 力の源は何なんだろうな?


 リリラさんとアムが離れた事を確認した俺。

 後ろに下がり少し距離を取った。


「あくまでも歯向かうというのだな」


「あぁ、そうだぜ。リラもリリラさんも連れて帰らせてもらう。バルルリ村に今後二度と手を出さないなら、このままおとなしく帰るが、その気がないならあんたも潰す」


「何者か知らぬが、たかが人間の分際で何を抜かしている?」


「アム、リラとリリラさんを連れて扉の所まで下がれ。あの鎚はやばい」


 振り下ろされる鎚を何とか躱し続ける。

 三人が下がるまで、サウザンを引き付ける為だ。


 奴はこの場所が壊れる事もおかまいなしだ。

 鎚での攻撃を繰り返す。

 攻撃を掻い潜り、奴の頭に回し蹴りを叩き込んだ。

 その上で距離を開けるように、俺は後ろに後退する。


「何かしたか?」


 おいおい、渾身の蹴りだぞ?

 効いてないってどんな防御力してんだよ?


黒鬼型式壱速度喰(ブラックオーガタイプワンスピードイーター)


魔力消失(マジックパニッシュ)


 仮面の少女の唱えた、聞いたことのない魔術。

 俺の体を覆った魔力と妖力の混合鎧が、即座に崩れていった。

 こんな手で破壊されたのは始めてだ。


「何故? 何故なの?」


 何故かわからないが、どうやら仮面女は驚いているようだ。

 再び鎚を振り回してくるサウザンの攻撃。

 躱し続けながら、何度か攻撃を加えた。


 だがどれも全く効いてないようだ。

 何か攻撃が聞かないからくりがあるのかもしれない。

 けど、全く予想もつかないな。

 これは困ったぞ。


 俺はふと、横目で背後見た。

 リラがリリラさんを、涙ながらに説得している。

 って言うか叱ってるようにも見えた。


 アムは俺に加勢したいようだ。

 だが、あの鎚の怖さを理解しているのだろう。

 それと、邪魔になるかもしれないと、踏み止まっているようだ。


「魔力以外で、あの再生する黒い刃は動いている? でも魔力以外って何? そんなの聞いたことないわ」


 まるで独り言のように言っているが、丸聞こえだぞ。

 まぁ余計な横槍いれられるよりはましか。

 サウザンの頑丈さの理由を考えないとな。


「どうした? そんなものか?」


 余裕綽々ってか?

 完全に舐められてるっぽいな。


「まぁいいわ。使用される度に、消失させるのも手間ですし」


無限空間(エンドレススペース)


魔力消失(マジックパニッシュ)


 仮面女の動きに気付いたアム。

 彼女が踊りかかったのが見えた。

 だけど、詠唱の方が先に終わっている。


 それなりの速度で繰り出されるアムの攻撃。

 しかし、今まで見た中では、その動きは明らかに遅い。

 だからなのか、仮面女はアムの攻撃を悉く受け流している。

 あの女、体術もそれなりに出来るっぽいな。


「アム、一旦戻れ!?」


 だが遅かった。

 回し蹴りをかわされたアム。

 仮面女が手を添えた。


衝撃弾(インパクトバレット)


 吹き飛ばされ壁に衝突したアム。

 血反吐を吐いて、受身を取る事も出来ずに床に落ちた。


「アム!?」


 俺は駆け寄りたい衝動に駆られる。

 だが背中を見せれば、サウザンが黙って見てるとは思えない。


「割と冷静だな。それとも冷酷なだけかな?」


「くっ!?」


 リラをいかせれば、仮面女が動くかもしれない。


黒鬼型式壱速度喰(ブラックオーガタイプワンスピードイーター)


 発動はしたが、この身を覆ったのも一瞬。

 即座に分解されるかのように崩れていった。

 驚愕に俺は、冷静な思考を放棄しそうになる。


 しかし、こうゆう時こそ冷静に判断しなければやばい。

 考えろ、考えるんだ。

 この状況を打破する方法を考えろ。


 鎚を手に近づいてくるサウザン。

 振り上げられる鎚。

 右手の力を、刃状から二股状へ変化。

 狙うは鎚の持ち手。

 予想が正しい事を祈る。


 振り下ろされた鎚の持ち手部分。

 そこに二股を突き出した。

 二股の間に、持ち手の棒部分がはまり込む。

 それと同時に、先っぽを繋げる。


 体にかなりの衝撃がきた。

 だが、鎚は俺の頭に触れる寸前で止めれた。

 持ち手の部分には、巻き付く様に鞭状にした力を絡ませている。

 予想通り、あの腐食のような効果。

 持ち手に触れても発動はしない。


「まさか受け止めて無理やり止めるとは、面白い事をする。しか・・がぁぁ」


 左手の黒い刃を、サウザンの右目に突き刺した。

 突然の俺の凶行に、鎚を握る奴の手の力が緩む。

 そこに即座に力で覆った右足で、思いっきり前蹴りをかました。


 鎚から手を離して、後ろによろめくサウザン。

 予想通り、頑丈なのは体の表面だけのようだ。

 アムは再び仮面女と一戦交えていた。


「しつこいですね」


衝撃弾(インパクトバレット)


 再び吹き飛ばされ、壁に叩きつけられたアム。

 俺は即座にアムの側に走りよる。

 サウザンは右目以外はダメージにはなっていないだろう。

 しかし、そんな事を気にしている余裕は既に俺にはなかった。


「アム!?」


「ア・・アキト? ごめんナサイ。アム、役立たず」


 アムは眼に涙を溜めている。


「そんな事は無い。後は俺がやるから、おとなしく見てろ」


 そう言うと、アムを優しく抱きしめた。

 リラとリリラさんも側に来ている。

 心配そうな眼差しでアムを見ていた。


「面白い娘を、配下に持ちなのですね」


「配下? アムは仲間だ。配下でもなけりゃ部下でもねぇ」


 そこに片目を押さえながら近づいてくるサウザン。

 その顔は怒りに満ち溢れている。


「黒髪黒瞳の異端がやってくれる。黒き鬼もどきの分際が」


「もどきではないかもしれませんよ。サウザン」


「何? ミューどうゆう事だ?」


「本物の黒き鬼の血族かもしれないという事ですわ。もしそうならば、私の魔術が彼の黒い刃を消失させれない、その理由にもなりますし」


 二人で勝手に話しを進めてやがる。

 俺はリラとリリラさんさんにだけ、聞こえるように呟いた。


「アムを連れて扉の所に隠れてろ」


「でも!?」


「心配するな。勝機はある。それに範囲がどの程度かはわからないが、仮面女の魔術はおそらく、一定範囲の魔力を消失させている。今この場で戦えるのは俺しかいない」


「アム、お前もおとなしくしてろよ。役に立つとか役に立たないとかそんな事はどうでもいい。リリラさんは確保したんだ、無理に全員が戦う事はない」


「ン!? でも・・・ハイ」


 痛みに顔を顰めつつ、そう言ったアム。

 だが表情は不服そうだ。


「アム、この状況では仮面女とは相性が悪すぎる。相手はこの空間でも、理由はわからないが魔術の使用は問題ないようだ。だがこちらは魔力を利用した行動は難しい。だから無理はしないでくれ」


 不服ながらも、一応俺の説明に納得はしてくれたようだ。

 アムは、頷いてくれた。


「リラ、リリラさん、アムはまかせた」


 その間、まるで待ってくれているかのようだ。

 ミューとサウザンは手を出してこない。


 リラがアムに肩を貸して離れていく。

 リリラさんは俺に言いたい事があるようだ。

 俺の瞳をじっと見ている。


 リラとアムが離れて扉の側に移動した。

 その事を確認した俺。

 側に残っている、リリラさんにだけ聞こえるように囁いた。

「リリラさん、もし俺が負けるような事があれば、リラとアムを連れて逃げて下さい。出来ればアラル達と合流して欲しい所ですが」


 少し涙声のままのリリラさん。

 彼女は予想外の言葉を、はっきりと言った。


「嫌です。もしあなたが死ぬような事があれば、あの二人の命を奪った上で私も自決します。だから、必ず勝って下さい。私に非情な決断をさせない為にも。なによりもあの二人の為にも」

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