031.ドウラ国突入④
サウザンの上から目線の言葉。
仮にも王様だからなのか、一応威厳は感じられる。
だがその物言いに、俺は答えてやるつもりはない。
「王っていうけど、おまえ馬鹿だろ?」
「な? 何? 王に向って馬鹿だと? この場で斬り捨てられたいか?」
「はっ? 何言ってるんだ? 俺はあんたの部下でも、あんたの国の住人でも何でもない。なのになんで従う必要があるって言うんだ? 俺はリラを渡す為にここに来たわけじゃない。リリラさんを連れ戻しにきただけだ。邪魔するっていうなら王だろうが何だろうが排除するだけだ」
サウザンの顔が怒りに満ち満ちているね。
こうなる事がわかってて言ってるんだけどさ。
「アキトさん、怒らせてどうするんですか!?」
リラは咎めるような、心配するような表情だ。
「話しあいで解決するような相手じゃないだろうしな。それにぶっちゃけてぶっ潰したほうがはやいだろ」
俺の答えに呆然とするリラ。
逆にアムは何も感じていないようだ。
「それよりもリリラさんの説得は頼むぜ、リラ。アムはリラとリリラさんの護衛よろしく」
二人が反応する間もなく、その手を掴み前に進む。
サウザンが、すぐ側にあるどっかで見たような鎚を手に取った。
嫌な予感がびんびんする。
リラとアムの手を離し、即座に駆け出した。
こっちを向いて固まったままのリリラさん。
サウザンの動きに気付いていない。
奴は手にもった鎚を、リリラさん目掛けて横薙ぎに振る。
間一髪だった。
その間に割り込むように入り込んだ俺。
両手に黒い刃を纏い、奴の鎚の一撃を防いだ。
かなり重い一撃だった。
だが、何とかその場に踏み止まり、受ける事が出来た。
しかし受けた部分が徐々に崩れていく。
アムがリリラさんの側に移動。
彼女を抱えて再びリラの側に戻った。
アムの体躯からは考えられないパワー。
力の源は何なんだろうな?
リリラさんとアムが離れた事を確認した俺。
後ろに下がり少し距離を取った。
「あくまでも歯向かうというのだな」
「あぁ、そうだぜ。リラもリリラさんも連れて帰らせてもらう。バルルリ村に今後二度と手を出さないなら、このままおとなしく帰るが、その気がないならあんたも潰す」
「何者か知らぬが、たかが人間の分際で何を抜かしている?」
「アム、リラとリリラさんを連れて扉の所まで下がれ。あの鎚はやばい」
振り下ろされる鎚を何とか躱し続ける。
三人が下がるまで、サウザンを引き付ける為だ。
奴はこの場所が壊れる事もおかまいなしだ。
鎚での攻撃を繰り返す。
攻撃を掻い潜り、奴の頭に回し蹴りを叩き込んだ。
その上で距離を開けるように、俺は後ろに後退する。
「何かしたか?」
おいおい、渾身の蹴りだぞ?
効いてないってどんな防御力してんだよ?
≪黒鬼型式壱速度喰≫
≪魔力消失≫
仮面の少女の唱えた、聞いたことのない魔術。
俺の体を覆った魔力と妖力の混合鎧が、即座に崩れていった。
こんな手で破壊されたのは始めてだ。
「何故? 何故なの?」
何故かわからないが、どうやら仮面女は驚いているようだ。
再び鎚を振り回してくるサウザンの攻撃。
躱し続けながら、何度か攻撃を加えた。
だがどれも全く効いてないようだ。
何か攻撃が聞かないからくりがあるのかもしれない。
けど、全く予想もつかないな。
これは困ったぞ。
俺はふと、横目で背後見た。
リラがリリラさんを、涙ながらに説得している。
って言うか叱ってるようにも見えた。
アムは俺に加勢したいようだ。
だが、あの鎚の怖さを理解しているのだろう。
それと、邪魔になるかもしれないと、踏み止まっているようだ。
「魔力以外で、あの再生する黒い刃は動いている? でも魔力以外って何? そんなの聞いたことないわ」
まるで独り言のように言っているが、丸聞こえだぞ。
まぁ余計な横槍いれられるよりはましか。
サウザンの頑丈さの理由を考えないとな。
「どうした? そんなものか?」
余裕綽々ってか?
完全に舐められてるっぽいな。
「まぁいいわ。使用される度に、消失させるのも手間ですし」
≪無限空間≫
≪魔力消失≫
仮面女の動きに気付いたアム。
彼女が踊りかかったのが見えた。
だけど、詠唱の方が先に終わっている。
それなりの速度で繰り出されるアムの攻撃。
しかし、今まで見た中では、その動きは明らかに遅い。
だからなのか、仮面女はアムの攻撃を悉く受け流している。
あの女、体術もそれなりに出来るっぽいな。
「アム、一旦戻れ!?」
だが遅かった。
回し蹴りをかわされたアム。
仮面女が手を添えた。
≪衝撃弾≫
吹き飛ばされ壁に衝突したアム。
血反吐を吐いて、受身を取る事も出来ずに床に落ちた。
「アム!?」
俺は駆け寄りたい衝動に駆られる。
だが背中を見せれば、サウザンが黙って見てるとは思えない。
「割と冷静だな。それとも冷酷なだけかな?」
「くっ!?」
リラをいかせれば、仮面女が動くかもしれない。
≪黒鬼型式壱速度喰≫
発動はしたが、この身を覆ったのも一瞬。
即座に分解されるかのように崩れていった。
驚愕に俺は、冷静な思考を放棄しそうになる。
しかし、こうゆう時こそ冷静に判断しなければやばい。
考えろ、考えるんだ。
この状況を打破する方法を考えろ。
鎚を手に近づいてくるサウザン。
振り上げられる鎚。
右手の力を、刃状から二股状へ変化。
狙うは鎚の持ち手。
予想が正しい事を祈る。
振り下ろされた鎚の持ち手部分。
そこに二股を突き出した。
二股の間に、持ち手の棒部分がはまり込む。
それと同時に、先っぽを繋げる。
体にかなりの衝撃がきた。
だが、鎚は俺の頭に触れる寸前で止めれた。
持ち手の部分には、巻き付く様に鞭状にした力を絡ませている。
予想通り、あの腐食のような効果。
持ち手に触れても発動はしない。
「まさか受け止めて無理やり止めるとは、面白い事をする。しか・・がぁぁ」
左手の黒い刃を、サウザンの右目に突き刺した。
突然の俺の凶行に、鎚を握る奴の手の力が緩む。
そこに即座に力で覆った右足で、思いっきり前蹴りをかました。
鎚から手を離して、後ろによろめくサウザン。
予想通り、頑丈なのは体の表面だけのようだ。
アムは再び仮面女と一戦交えていた。
「しつこいですね」
≪衝撃弾≫
再び吹き飛ばされ、壁に叩きつけられたアム。
俺は即座にアムの側に走りよる。
サウザンは右目以外はダメージにはなっていないだろう。
しかし、そんな事を気にしている余裕は既に俺にはなかった。
「アム!?」
「ア・・アキト? ごめんナサイ。アム、役立たず」
アムは眼に涙を溜めている。
「そんな事は無い。後は俺がやるから、おとなしく見てろ」
そう言うと、アムを優しく抱きしめた。
リラとリリラさんも側に来ている。
心配そうな眼差しでアムを見ていた。
「面白い娘を、配下に持ちなのですね」
「配下? アムは仲間だ。配下でもなけりゃ部下でもねぇ」
そこに片目を押さえながら近づいてくるサウザン。
その顔は怒りに満ち溢れている。
「黒髪黒瞳の異端がやってくれる。黒き鬼もどきの分際が」
「もどきではないかもしれませんよ。サウザン」
「何? ミューどうゆう事だ?」
「本物の黒き鬼の血族かもしれないという事ですわ。もしそうならば、私の魔術が彼の黒い刃を消失させれない、その理由にもなりますし」
二人で勝手に話しを進めてやがる。
俺はリラとリリラさんさんにだけ、聞こえるように呟いた。
「アムを連れて扉の所に隠れてろ」
「でも!?」
「心配するな。勝機はある。それに範囲がどの程度かはわからないが、仮面女の魔術はおそらく、一定範囲の魔力を消失させている。今この場で戦えるのは俺しかいない」
「アム、お前もおとなしくしてろよ。役に立つとか役に立たないとかそんな事はどうでもいい。リリラさんは確保したんだ、無理に全員が戦う事はない」
「ン!? でも・・・ハイ」
痛みに顔を顰めつつ、そう言ったアム。
だが表情は不服そうだ。
「アム、この状況では仮面女とは相性が悪すぎる。相手はこの空間でも、理由はわからないが魔術の使用は問題ないようだ。だがこちらは魔力を利用した行動は難しい。だから無理はしないでくれ」
不服ながらも、一応俺の説明に納得はしてくれたようだ。
アムは、頷いてくれた。
「リラ、リリラさん、アムはまかせた」
その間、まるで待ってくれているかのようだ。
ミューとサウザンは手を出してこない。
リラがアムに肩を貸して離れていく。
リリラさんは俺に言いたい事があるようだ。
俺の瞳をじっと見ている。
リラとアムが離れて扉の側に移動した。
その事を確認した俺。
側に残っている、リリラさんにだけ聞こえるように囁いた。
「リリラさん、もし俺が負けるような事があれば、リラとアムを連れて逃げて下さい。出来ればアラル達と合流して欲しい所ですが」
少し涙声のままのリリラさん。
彼女は予想外の言葉を、はっきりと言った。
「嫌です。もしあなたが死ぬような事があれば、あの二人の命を奪った上で私も自決します。だから、必ず勝って下さい。私に非情な決断をさせない為にも。なによりもあの二人の為にも」




