030.ドウラ国突入③
「シェリアナには悪いが、詳しい話しを聞いてる時間は今はねぇぞ。とりあえずお前、いい加減名前を教えやがれ。名前がわからねぇと呼び難いだろうが?」
「あぁ、そうだった。私はハンドル・ドウナ。サウザン・ドウナの次男だ。父は・・サウザンは、仮面女ミューが現れてから、おかしくなってしまった」
「仮面女ミュー? 誰だそりゃ?」
訝しげな表情になるアラルとシェリアナ。
「仮面の女なら私も見ました。リリラの魔術を魔術で無効化したようで、ミューと言うのですか? 彼女はかなり高位の魔術師のようです」
ライサの発言に、驚きを隠しえない二人。
「魔術無効の魔術? そんなの聞いた事ないわ」
「あぁ、俺も初めて聞いたぜ? そんな事可能なのか?」
「残念ながら、彼女の言葉は真実です。シェリアナ殿には思い当たる節があるはずですが?」
ハンドルが、ライサの言葉を裏付けるように言葉を発する。
再び予想外の事を彼は言った。
「思い当たる節?」
しばし思考の世界に没頭するシェリアナ。
「ま・まさか? シェリイナの魔術がほとんど効果なかったのは」
「おそらくミューの仕業でしょう。我々ドウラ国がシャルルアン国へ攻め入った時、彼女も同行しております。そしてシェリイナ殿は、ここに連れてこられた時に、ミューと魔術合戦をしたようです。一時期リリラ殿、ライサ殿が入っていた牢にいました。そこで、こちらの素性に気付いた彼女からは、いろいろと話しを伺いました。ミューの魔術無効の魔術に関しては、その時にシェリイナ殿から聞かされました。父とミューは王城に眠っていた、黒き鬼の残した負の財産を利用して、何かをするつもりのようです」
「負の財産? そりゃなんだ?」
アラルの問いかけに、ハンドルは首を横に振るだけだ。
「詳細はわかりません。私がここに閉じ込められる前に、父とミューが偶然そのような話しをしているのを、耳にしただけですので。父はもう私の知る父ではないでしょう。なので殺してでも父を止めなければなりません」
昏い決意の篭った瞳。
先程の絶望の眼とは、趣を意にしている。
彼の言葉にアラルとシェリアナ、ライサは順番に顔を見合わせた。
アラルはハンドルの瞳をしばし見つめ、覚悟の程を見定めようとする。
「ハンドル、あんたの決意が、覚悟が良いか悪いかは俺にはわからん。だが、まずはそこから出なきゃはじまらねぇよな」
鍵束の鍵を使い、順番に開けれる鍵を探すアラル。
シェリアナもライサも、彼の行動に同調しているようだ。
止めようとはしなかった。
そして開け放たれた鉄格子の扉。
中に無言で進んでいくシェリアナに、アラルは驚く。
「アラル。あなただけが、場合によっては同族殺しになる片棒を被る必要はないわ」
ハンドルを縛り付けている頑丈な手枷足枷。
造作も無く剣を使い斬り裂いた。
拘束から開放されたハンドルは、一度地面に崩れ落ちた。
だが、ゆっくりと立ち上がり、手足の感覚をしばし確かめる。
一通り体の調子を確認し終わった彼。
アラルと、彼の隣に戻っていたシェリアナ。
二人に向き直り、真剣な眼差しで二人を見やる。
「このご恩は忘れませぬ」
大地に頭をこすり付けるかの如く、跪き涙を流し始めた。
その涙は、変わってしまった父への涙なのか?
これから行なうつもりの、凶行への涙なのか?
本人しかわからないだろう。
「おいおい、やめてくれ。そうゆうのは全てが終わってからにしろや」
「とりあえず頭を上げて下さい。私達はするべき事があります。拘束されたすぐで申し訳ないですが、サウザンの元までの案内お願いできますでしょうか?」
渋々立ち上がったハンドル。
上背の差だ。
アラルとシェリアナ、ライサからは見上げる形になる。
「はい。もちろん、あなた方に請われなくても案内するつもりでしたから、それぐらいはして当然です。こちらへ」
ハンドルの案内で、サウザン・ミューの元へ向う一行。
「しかしなんでハンドルを殺さなかった? それに次男ってことなら、少なくとも長男もいるはずだろ?」
アラルの疑問。
視線は前を向いたまま、ハンドルが答えた。
「我々は四人兄弟です。兄と姉、弟は順番に王城跡に派遣されたようです。理由はわかりませんが」
「殺さない理由が何かあるってことか?」
「負の財産と関係あるのかしら?」
シェリアナの思いつきのような発言。
「それはわかりません。しかしミューを捕まえて吐かせればわかるかもしれません」
「とりあえず急ごうぜ。そのミューって女の魔術師? はいくらアキトでもやっかいかもしれん。教えてやらねぇと」
「えぇ、そうね。急ぎましょう」
「アラル殿、シェリアナ殿のお仲間、リラ殿の最凶の護衛がアキト殿と言うのですか?」
「あぁ、そうだ。ハンドル、魔術無効って事は、俺達戦士や聖騎士の力さえ無効化出来るかもしれん。先に知ってるのと知らないのとでは、スタートラインが変わるからな」
「確かにそうかもしれません。急ぎます」
今まで拘束されていた人物とは思えない。
かなりの速度で歩き始めたハンドル。
そのタフさに舌を巻いたアラル。
シェリアナもライサも同様のようだ。
背後からの、六つのおかしな眼差しに気付いたハンドル。
前を向いたまま、周囲への警戒を怠る事はなく言った。
「お三方どうされました?」
「い・いや何でもねぇよ。そういやぁ、何でお前はあそこにいれられてたんだ?」
「ミューの危険性を父に直談判した為です。どうやらミューの差し金のようでした」
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俺達は、罠らしき物にも遭遇する事なく進んでいった。
洞窟内、深く考える事もなく真っ直ぐに歩いていく。
そして、辿り着いたのは両開きの扉。
見るからに金属製で、それなりの重さもありそうだ。
「右側を開ける。リラとアムは左側の扉の前で待機して動くなよ」
「はい」
「ン!」
元気な返事なのはいいんだけど。
二人とも明らかに、いつでも動けるような体勢ですよね?
いやまぁ正しいんですけどね。
扉に触れてみるが、特に何も起きない。
何かしらの罠があるという事はないようだ。
扉の右側に、両の手の平を押し付ける。
徐々に開いていく扉。
相手側の戦力が集結している可能性も考えてはいた。
が、そんな事もなく扉は開いた。
扉の奧は、広い円状にになっている。
中央に少し豪華な椅子が二つ。
その椅子の一つに、座っている鬼小鬼が一人。
こいつがおそらくサウザン・ドウナなのだろう。
椅子の側にはもう一人いた。
仮面をかぶっており、表情はよくわからない。
だけど、体のラインから考えて少女のようだ。
何者かはわからない。
しかし、状況が状況だけに、警戒した方がいいだろうな。
そしてもう一人、後姿でもわかった。
リリラさんが、位置的にはサウザンと話しをしている。
俺にはそうに見えた。
手枷と足枷をされているようだ。
話しに余程夢中だったのだろう。
俺達には気付いていないようだ。
「後ろを向いてみるがいい」
男の声が微かに聞こえた。
その声に反応するかのように立ち上がったリリラさん。
こちらを向いた。
俺と視線が合い、彼女が一気に驚きの表情に変わる。
その後に、青褪め絶望したかのような眼差しになった。
「リラ、アム、リリラさんがいる。いくぞ」
「はい」
「ン!」
俺を先頭に歩いていく。
驚いているのはリリラさんだけ。
他の二人は予定通り。
とでも言わんばかりの余裕の表情だ。
「な・・なんで来たの・・。リラまで連れて・・。これじゃ・・意味ないじゃない・・」
まるで絶望したかのようにリリラさん。
彼女のか細い声が、俺の耳に聴こえる。
何に絶望しているのか知らない。
が、あんたの方こそ大馬鹿野郎だと、言ってやりたくなった。
でもリリラさんの説得はリラの仕事だ。
そう思って俺は言葉を飲み込む。
「あんたがサウザン・ドウナか?」
俺は、王というよりは戦士という出で立ちの鬼小鬼を睨む。
「その通り。サウザン・ドウナだ」
「そっちの仮面女は?」
「有能な部下とでも言えばいいだろうかな」
「ミューと申します。お見知りおきを」
まるでどこぞのお姫様のように、服の裾を握り優雅に礼をしてきた。
だが俺は、彼女に何処と無く違和感を感じている。
その違和感の理由はさっぱりわからない。
「王として命ずる。リラ・シャルドナ=レラを渡してもらおうか」




