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black ogre  作者: zephy1024
第一章 美小鬼王編
29/68

029.ドウラ国突入②

 俺を先頭にリラ、アムの順で歩いている。

 後ろから追いついて来た六人の衛兵。

 彼等を昏倒させた後、俺達は進んでいた。

 しかし、衛兵にも、それ以外の者にも一切遭遇していない。


 人の少なさに妙な違和感を感じている。

 だが、その理由が全く思いつかない。

 あれだけ正面から堂々と突入したわけだ。

 前方からもわんさか現れてもおかしくない。

 なのに、肩透かしを食らったも当然だ。


「ア・アキトさん、何かおかしくありません? 誰も遭遇しないなんて」


 俺は一旦進む足を、止めて後ろを振り返った。

 それなりに覚悟を決めて気合をいれていたリラ。

 不満そうな不服そうな、それでいて少し不気味さを感じている。

 そんな眼差しで、俺を見ていた。


「確かにな。余りにも人の気配がなさ過ぎる。衛兵の十人や二十人、出て来てもおかしくないと思うんだけどな。なんせ一応は、一国の本拠地に攻め入ってる形になるわけだしな」


「アキトの役に立てると思った。残念」


「アムのその気持ちは嬉しい限りだけどな」


「アムってばもう。それよりも罠なのかなぁ?」


「その可能性も無いとは言えない。けど、俺達がどう進むかわからないなら、罠の先に誘導する奴がいてもいいとも思うんだよな」


「あ!? そうですよね。私達がどう進むのかなんて、私達ですらわからないんですもんね」


 納得したようだ。

 そう言ったリラは、一人頷いている。


「まぁ、どっちにしろ進むしかないんだけどな。罠の可能性も無いとは言えないから警戒は怠るなよ」


「はい、アキトさん」


「ン! アキト」


-----------------------------------------


 比較的頑丈そうな鉄格子の前。

 鎚を手に、警備をしている二人の衛兵。

 彼らは前方から向ってくる二人に驚き、間抜けにも動きを止めていた。


 その隙を逃さず、肉薄する黒と白の風。

 黒の風から繰り出される連続突き。

 首や鎧の隙間を穿ち絶命させた。


 右切り上げで、繰り出された白の風の剣撃。

 紙を切り裂くかのように、鎧をもあっさりと斬り抜く。


「どうやら牢屋のようだな。わざわざこんな洞窟にねぇ」


 壁のひっかけにかけられている、それっぽい鍵束。

 アラルは手に取り、順番に鍵穴に合わせる。

 全てほぼ同じような鍵の為、見た目では判断出来なかったのだ。

 そして六個目で、はまり込むような音と共に鍵が回った。


「シェリイナ、待っててね」


「あぁ、ここにいるといいんだがな」


「うん」


 少し不安そうな表情になっていたシェリアナ。

 アラルがその浅黒い手を、彼女の頭に乗せる。

 二度ポンポンと軽く叩いた。


「不安なのは当然だな。こんなこたぁ言いたくはないが、ここにいない可能性もある」


「う・うん」


「ここの何処かにいるのは確実なんだろ?」


「う・・うん」


「もしこの牢屋にいなくても必ず見つけ出してやるから、心配すんな」


「う? 慰めてくれてるんだよね?あ・ありがと」


 鉄格子の扉を潜り、中に入った二人。

 視界に入ったのは、立ち並ぶ数多の鉄格子。


 進んでいくアラルとシェリアナ。

 両側に並び立つ牢屋。

 その中のいくつかに、人の気配を感じた。


 駆け寄って、気配の主を確認したい。

 そんな衝動を抑えながら、警戒しつつ先に進むアラル。


 追従するシェリアナ。

 彼以上に、駆け出したい衝動を抑えている。

 険しい顔のまま、アラルの後を歩く。


 鉄格子の牢屋を念の為、順番に覗いていく二人。

 そのうちの一つ。

 気配を感じた牢屋、その一つを覗いたアラルとシェリアナ。


 そこには、白髪に青い瞳、頭には丸っこい耳が生えている少女が一人。

 悲しげな瞳で座り込んでいた。

 自分の見ている相手に、シェリアナは疑問を抱く。

 直後、聞こえて来た、アラルの声。


「まさかライサ!?」


 予想もしない人物との遭遇に、驚きの声を上げたアラル。

 白虎人(ホワイトウェアタイガー)がこんな所にいるなんて、アラルの想像の埒外だった。

 その為、柄にも無く素っ頓狂な声だ。

 シェリアナはそんなアラルに驚いた。

 そして、彼の反応に首を傾げる。


「アラル、知り合いなの?」


「あぁ、タイダル国から遣わされている使者の一人だ。それがここにいるってのはどうゆう事だ? 普通に考えると、タイダル国に何かがあったって事になっちまうんだろうけどな」


 そんな二人の遣り取りが続く中、彼女が反応を示した。


「アラ・・ルさ・・ん?」


「おうよ。アラルだ。ライサ、何でここにいるのかは気になるが、その話しは悪いが後だ。リリラと後こいつとそっくりさんを見なかったか?」


 アラルはシェリアナを指差しながら、ライサに問う。

 質問の意味を咀嚼するのに時間を要したのだろう。

 少し間をあけて彼女は答えた。


「リリラなら少し前まで一緒にいた。衛兵に連れてかれたけど。たぶんサウザンのとこ」


「そうか。とりあえずここから出してやる」


 手に持っている鍵束の鍵を一つ一つ合わせていくアラル。

 開錠出来る鍵を探しているのだ。


「隣の方のそっくりさんは、わかんない」


「そうですか。ライサさん、ありがとう。私はシェリアナと申します」


「シェリアナ・・何処かで聞いた事あるような? 聖騎士の称号持ちのシェリアナさん?」


「あぁそうだぜ。こいつが聖騎士のシェリアナだ」


 もじもじとしているシェリアナ。

 彼女に変わってアラルがそう答えた。


「その聖騎士様が何故ここに?」


「サウザンに捕らわれた聖魔士でもある妹を助けにだな」


 アラルの言葉に、同調するようにシェリアナは頷いた。

 鉄格子の鍵を開ける事に成功したアラル。

 ライサの手枷足枷もはずした。


「ライサ、歩けるか?」


「はい、大丈夫です」


「そうか。ところでよ。こっちの牢屋の奴、どう見ても鬼子鬼(オーガゴブリン)だよな? 何処となくサウザンに似てないか?」


「言われてみればそうね」


 鉄格子越しに、注意深く見ていたシェリアナ。

 アラルに顔を向けた。

 厳重に手枷足枷をされている鬼小鬼(オーガゴブリン)

 サウザンを若くして、少し柔らかくしたような顔だ。


「私とリリラがここに連れて来られた時には、既にいました」


「何者だ? やけに頑丈に手足を拘束されているが?」


 少し持ち上がった頭。

 絶望しきった眼差しに微かに光が灯った。

 三人を射抜くように見つめる。


「こ・・こんなところ・・に人? 闇小鬼(ダークゴブリン)白虎人(ホワイトウェアタイガー)か?」


「あぁ、そうだ。サウザンの糞野郎に捕らわれた、仲間を助けるために来た」


「ちょ? ちょっとアラル、そんな馬鹿正直に教えてどうするの?」


 アラルの言葉に驚いたシェリアナ。

 彼を問い詰めるが、何処吹く風だ。

 彼の意図を理解しかねるシェリアナ。

 更に詰めよろうとするが、アラルの言葉に遮られた。


「シェリアナはライサと他の牢屋を確認して来い」


「え? ちょっと?アラル? 何どーするつもりなの?」


 そこでシェリアナの耳元で囁くように呟いたアラル。

 シェリアナは、突然の彼の行動に、状況も弁えず何故かドギマギしている。


「俺に考えがある。信じろ」


「わ・わかったわよ」


 アラルに聞こえるか聞こえないか位の小声で、返答したシェリアナ。

 彼女はライサの手を取って剣を手に警戒しながら奥に進む。

 その行動を確認し満足げな表情になったアラル。

 再び鉄格子の中で、厳重に拘束されている鬼小鬼(オーガゴブリン)に向き直った。


「そちらの話しは・・終わったようだな」


 少し掠れた声で、そう言った鬼小鬼(オーガゴブリン)

 アラルは話しかける事で肯定の意を表明する。


「おまえ、サウザンの家系のもんだろ? 顔に面影があるぜ」


「ち・・父上を存じているのか?」


「直接面識があるわけじゃねぇけど、顔なら知ってるぜ」


「そうか・・。元戦士団の関係者という事か」


「あぁ、そうだ。俺はアラル。バルルリ村って言えばわかるか?」


「バルルリ村だと? まさか元壱隊!? それではリラ・シャルドナ=レラ様は?」


「生きてるぜ。最凶の護衛と共にここに来ているぜ」


「な!? なんだと? ここに来ているだと?」


 驚きに、それ以上言葉を紡ぐ事の出来ない鬼子鬼(オーガゴブリン)

 しばしの間、二人に流れるのは沈黙。

 先に口を開いたのはアラル。


「サウザンを父って呼んだって事は、あんたは息子なんだろうけどよ? いい加減名前を名乗ったらどうなんだ?」


 そこに近づいてくる足音。

 シェリアナが、ライサの手を引いて戻ってきた所だった。

 アラルは何でもないかのように、気軽に足音に顔を向けて言い放つ。


「おう、シェリアナ、ライサおかえり。でどうよ?」


「残念ながらシェリイナはここにはいないようです」


 少し悲しげな瞳で、顔を俯かせるシェリアナ。

 アラルもライサも、言葉をかけようとするが、言葉が出てこない。

 そこで、サウザン似の鬼小鬼(オーガゴブリン)が予想外の情報をもたらす。


「聖魔士シェリイナ殿ならば、おそらく王城跡に連れて行かれたと思われる」


 声が、絶望の淵から微かに這い上がってきている。

 その瞳にも、僅かに活力が戻り始めていた。


「王城跡? 今はもう廃墟じゃ?」


 シェリアナの言う通りだ。

 十年前の戦士団の反乱。

 その時に王城は廃墟となり、今は誰も住んでいないはずなのだ。


「その通りです。しかし我が国の本隊は、今は王城跡に駐留しているはずです」

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