024.宿屋にて
部屋に一人になったシェリアナ。
ノックもせず入ってきた鬼小鬼。
五体の醜小鬼を従えている。
彼女を取り囲むように武器を構えた。
「シェリアナ、やはり村の者と内通していたようだな」
「あら? 古い友人が来たから話しをしていただけなんだけど?」
「嘘つけ? どうせ奴もすぐに捕まる。おらは前からおまえを犯してやりたいと思ってたんだ。これで何の憂いもなく出来るぜ」
「ボス、オレタチモイイヨネ?」
「おらが楽しんだ後にな」
下品な顔をしている六体。
沈みかけた表情から一転して、意を決した顔のシェリアナ。
華麗な動きで彼女は剣を抜いた。
「お前たちのような雑魚に体を許してやる程、私は甘くはないわよ」
「へっ、一人で何が出来る!? それに俺達は妹を人質にしてるんだぜ。抵抗すればどうなるかわかっているんだろうな?」
「それは私が約束を反故にした事が、ドウラ国に伝わればの話でしょ? 今ここで死ぬあなた達には関係ないわ」
「あんだと? なめんじゃねーぞ?」
手に持った大槌を振り上げた。
シェリアナに振り下ろした大小鬼。
しかし、シェリアナの放った剣撃により、大槌は二つに分断された。
「聖騎士という名の称号の意味をよく噛み締めなさい」
六対一という不利な状況。
更には室内での戦闘。
にも関わらず、彼女の繰り出す剣撃は苛烈だった。
瞬く間に五体とも切り伏せる。
「・・・アラル、あなたの言葉を信じてみる事にするわ」
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シェリアナとの会談を終えたアラル。
一目散に宿屋に向う。
だがまるで待ち伏せしていたかのようだった。
醜小鬼の群れが道を塞いだ。
その数は三十はいるであろう。
各々武器を持ち明らかに臨戦態勢だ。
「やはりシェリアナと内通している村人がいたか」
隊長らしい、他のより少し豪華な鎧を着ているのが言葉を発した。
どうやらアラルを村人の誰かと勘違いしているようだ。
しかしこれは好都合。
「だったら何だ? 急いでるんだ、雑魚はどけよ」
「ざ・・雑魚・・だと? たかが村人風情がなめるな!! 殺せ!!」
レイピアを即座に抜いたアラルは一気に距離を詰める。
その動きに反応すら出来ていない。
一撃目が、隊長らしき敵の喉を狂いなく突き刺す。
突き刺したレイピアを抜くと同時。
逆の手のレイピアの鍔で、切りかかってきた敵の剣を絡めとる。美 更に抜いたレイピアの柄頭で顎を殴りあげた。
数の暴力で挑んでくる彼等。
だが、巧みな挙動で彼らの動きを翻弄するアラル。
そこにアラルの来た道から、シェリアナが現れた。
「アラル、お前の言葉を信じてみる事にする」
シェリアナは手に持っていた剣で戦闘に介入してきた。
アラルとシェリアナの二人は息の合った連携。
瞬く間に、数の暴力を圧倒していく。
戦いが終わった後、そこには三十以上の死体が出来上がっていた。
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突然騒がしくなって聞こえてくる音や声。
一階で何かが起きているようだ。
確認しにいくべきか放置しておくか迷う。
「アキトさん、何かな?」
少し不安そうな表情で俺の手を握るリラ。
反対側の手は無表情なアムに握られた。
二人に握られた手を優しく握り返した俺。
この場から動かない事を選択した。
「俺達の事がばれてないと絶対に断言は出来ないからな。何が起きているかは気になるけど、俺達はここにいよう」
「わかった」
「ン!」
しかし俺の考えは甘かったようだ。
階下から聞こえてくる複数の足音。
徐々に近づいてきている。
そしてとうとう、俺達の借りている部屋の前で止まった。
おそらく数は六人。
ノックをする事もなく開かれた扉。
相手は鬼小鬼一人と醜小鬼が五人。
「こいつらで間違いないんだな?」
「ハイ」
鬼小鬼の質問に、醜小鬼の一人がそう答えた。
「何か俺達に用でも?」
「ふん? 説明する必要なぞない。捕まえろ。抵抗するなら男は殺して構わない。女二人はわかっているな」
下卑た笑いの男の言葉に、首肯する醜小鬼達。
リラに三人、アムに三人向かおうとする。
俺はリラとアムを背後に匿おうとする。
が、アムが一足早く俺の手を離す。
拳で醜小鬼の一体を吹き飛ばした。
予想外の出来事に驚いている奴ら。
俺にとっても予想外だ。
一瞬頭が真っ白になった。
「抵抗したなぁ!?」
鬼小鬼が突進して来る。
その手にもつ両刃の斧を振り下ろしてきた。
梓を鞘から抜き一閃。
斧そのものを斬り裂く。
≪黒縛鎖≫
リラの唱えた魔法。
三人の醜小鬼の足元から現れた黒い鎖。
彼らを縛りつけ動きを封じる。
俺の出る幕は特になかった。
残り二人を叩きのめしたアム。
隊長らしい鬼小鬼をも、拳で床にキスをさせていた。
「アムの強さやリラの機転にびっくりだな」
「こいつら敵。アキトに手出そうとした」
アムさん、案外物騒な思考してらっしゃいます?
「汚したら宿屋の人に申し訳ないので」
リラは良い心がけだな!!
鎖に縛られた三人は締め上げられている。
意識を刈り取られて沈んだのだろうな。
部屋に置いとくのも何か嫌だ。
なので廊下の隅っこに固めて寝かせておいた。
「何がどうなってるのかわからないけど、こうなった以上アラルを迎えにいくぞ」
一階に下りていく俺達。
数人の怪我人が、傷の手当てを受けている。
そこで宿屋の主人に声をかけられた。
「兄さん達大丈夫だったか?」
「あ? はい、大丈夫です。ただ部屋を少し汚してしまいました。すいません」
「ん? 気にするな。あの糞野郎共は?」
「気絶させました」
「そうか。仲間を探しに良くんだろ?」
「はい、そのつもりです」
主人と話している俺。
リラとアムは怯える事も無くにっこりとしていた。
アムはともかく、リラがにっこりしている理由はよくわからん。
「それなら奴らの始末は俺達にまかせろ」
「廊下の隅っこに寝かせてあります」
「わかったぜ」
同じ小鬼だ。
でも、さっきの奴らと違ってこの人は共感が持てるな。
「お嬢ちゃん達も連れてくつもりか?」
「えぇ、奴らを撃退したのはこの二人ですし」
「えっ!? あんたら何者だ?」
もう姿を偽装している意味もないか。
撃退してしまった以上、遅かれ早かれ駐留軍には狙われるだろう。
予定外だが倒した方がてっとりばやいかもな。
「リラ、偽装の魔術を解除してくれ」
「え? いいの?」
驚きの顔で俺を見上げるリラ。
「構わない」
しばらくお互いの瞳を交差させていた。
が納得してくれたようだ。
「わかった」
彼女は腰にさしていた杖を抜いて握る。
≪解魔偽映像≫
杖が一瞬輝き、即座に俺達の姿が元に戻る。
「魔術だ?」
「それも単詠唱だぞ? すげぇ」
「瞳の色の違う銀髪? まさか竜族?」
「おい!? 黒髪に黒眼だぞ!?」
「黒き鬼の再来か!?」
怪我を手当てしている宿屋の女性店員さん。
逆に怪我を手当てされている男性。
たまたまご飯を食べにきていたらしい方々。
様々な人達の、いろいろな声が聞こえてくる。
「兄さんあんた??」
宿屋の主人も例に漏れず、驚きの表情で俺を見ている。
「騙しててすいません。どうしてもこの姿だと目立ってしまうもので」
「そ・そうか? まぁ、そうだよな」
「それでは仲間を迎えに行って来ます」
「ちゅ・駐留軍がたぶんいると思うぜ?」
「もうこうなった以上は邪魔するなら叩き潰します」
「そ・そうか? ちゃんと戻ってこいよ」
「ええ。もちろん戻ってくるつもりです」




