019.アムネシア
「おし、これ位距離があれば大丈夫だろ。銀髪のお嬢ちゃん、悪いけど少し目を瞑って耳を塞いでくれるかな?」
「ハイ」
「素直でよろしい。それじゃいくか」
俺は一気に魔力を集束させる。
収束し、高密度のエネルギーに変化していく魔力。
そして俺は、奴らを倒す為に唱えた。
≪灼熱爆発≫
あらゆるものを飲み込む爆発が、竜達を巻き込み暴発してゆく。
それに伴い俺達を叩きつける風圧。
彼女に怪我でもされちゃ困る。
なので、俺は詠唱と同時に体を百八十度回転させていた。
それだけでは些か不安だ。
念の為、彼女の体を覆うように黒い粒子の力を展開させている。
だが魔力の消耗が激しく飛んでいるのも辛い。
とうとう俺は着地し膝を折り曲げた。
「ダイジョブですか?」
心配そうに俺の顔を覗いてきた少女。
安心させるように俺は笑顔で微笑んだ。
「大丈夫。ちょっと魔力を消耗し過ぎただけだから」
「ソウですか」
爆風が過ぎ去った後、振り向いた俺は、自分でやった事ながら絶句した。
巨大なクレーターが出来ており、竜達の欠片どころか痕跡すらなさそうだ。
警戒しながら近付き、クレーターに足を踏み入れようとした。
しかし、熱気が凄く、熱いなんてものじゃない。
こりゃしばらくは、踏み入る事すら出来なさそうだ。
≪型式解除≫
「ふぅ」
「アノなにが?」
「ん? あぁ俺もよくわからないかな」
「ソウですか」
手近な岩場に彼女をおろして俺はその場に座る。
「悪いが少し休ませてくれ。後これを上から羽織ってくれないかな?」
俺は自分の上着を脱いで彼女に羽織らせる。
お年頃の少女がそんな半透明な服で出歩くのはちょっとね。
「ハイ、ワカリました」
所々棒読みに聞こえるのは何だろう?
まぁ俺は中に黒いシャツ着てるし問題ないだろ。
「ハオルってどうすればいいんですか?」
えっ?
なんだと?
驚愕している場合じゃないや。
「両腕伸ばしてくれるかな?」
「ハイ」
俺は彼女に服を着せて上げる。
うん、竜退治した後に、何してんだろ俺?
半透明なブラウスとスカートの上から着せてあげる俺。
その間、彼女は何故か嬉しそうな表情だった。
良く見ると彼女はオッドアイだ。
左の瞳が銀で右の瞳が金。
髪の毛も銀髪だが、カールしている内側の部分だけ金髪になっている。
ちょっとおしゃれだな。
「とりあえず仲間の所に戻るけどいいか?」
「ハイ」
彼女は右手で俺の服の裾を掴み、左手で俺の左手を握ってきた。
振り解くのも可哀想なのでそのまま歩く。
リラとアラルがいるはずの場所へ、俺達は向かった。
「アンデッド化してる最中の土竜の群れの中に君は倒れていたんだけど。なんでそんな所にいたのかわかる?」
「ン・・ワカラない」
少し思案したような表情をした後、彼女はそう答えた。
「そうか。それじゃ両親とかの記憶はある?」
「リョウシン? キオク? オボエてるのは水の中にイタ。プカプカしてた。たまに何か髪長い紫のヒトにハナシかけられた」
「水の中? プカプカ? 浮いてたって事かな?」
「たぶんソウ」
話しが断片的過ぎてよくわからないが、髪の長い紫の人が親か?
見た限りは普通の人間にしか見えないけど。
あぁ、そう言えばまだ名前聞いてないな。
「俺はアキト」
「アキト?」
「そうだよ。ところで君の名前は?」
「ナマエ・・・? ナマエ?」
言葉が微妙に通じてないのか?
いやそれにしては反応はしてるしな。
この娘何なんだろう?
「紫の髪の人に何て呼ばれてた?」
「ン? ヨバれてた? ナマエ」
思案して考える仕草になった少女。
しばらくしてから彼女は答えた。
「アムネシア。たぶんアムネシア」
「たぶん?」
「髪紫のヒトにソウ呼ばれてたキガシタ」
「そっか。アムネシアか」
言葉の意味を知っててつけたんだろうか?
それとも深い意味なんてないのだろうか?
この後どうするにせよ、アムネシアの情報が無い事にははじまらない。
リラとアラルを探して見つけるまでいろいろな質問をしてみた。
それでも結局わかったのは、名前がアムネシアらしいという事だけだ。
「やっと見つけた」
「あ・アキドざぁぁん? ぶじだっだ。よがっだぶじだっだぁぁ」
俺を見つけると、涙腺が崩壊したように泣きながら抱きついてきたリラ。
アラルも俺を見た途端安堵の表情になったみたいだ。
「あの娘は無事助けれたようだな? しかし竜達といいあの爆発といい、何が起きたんだよ?」
「あぁ、竜達に追いかけられたから魔術で撃退した」
意味の理解出来ない事を呟きながら、俺に抱きついて泣き続けるリラ。
彼女の頭を、空いている手でなでなでしながら説明した。
その間、アムネシアは無表情のままリラを見ている。
「はぁぁぁ? 撃退しただと? あれお前の仕業なのかよ?」
びっくり仰天、漫画とかなら目でも飛び出しそうだな。
それ程驚愕した表情のアラル。
「あ、あぁ」
その驚きに俺の方がびっくりするわ。
「ただ威力が強すぎるのと、威力の調整が効かないから、あんまり使いたくはないんだけどな」
「クレーター拵えてしまうぐらいだしな。そりゃそうか」
「それに制御にすんげー集中力いるし、威力制御出来ないから味方も巻き込みかねない。こんな場所じゃなきゃ使えないさ。巻き込んだ動植物がいたら申し訳ないけどな」
「心配した俺らが馬鹿みたいだ・・」
呆然と額に手を当てて項垂れるアラル。
「あ・アギドさんだずげたこのごはどうずるの?」
「あぁ、彼女はアムネシア。アムネシア」
「ハイ」
「泣いてるのがリラ」
「な・・ないでなんがいばいぼん」
「あーはいはい。よしよし。んでそっちがアラル」
俺はリラを慰めながらアラルも紹介した。
「リラとアラル」
「嬢ちゃんよろしくな」
「ジョウチャン?」
アラルの言葉に、何を言われてるのか理解出来てないようなアムネシア。
「アムネシアの事だよ」
「ン!」
「それでだ、話しをいろいろ聞いてみたんだが、アムネシアって名前以外は今の所わからないんだわ」
「なんだそりゃ?」
今日のアラルは忙しいな。
今度はアムネシアを訝しげな眼差しで見てるや。
「リラ、彼女に服貸してやってくれないか? それと一人じゃ着れないかもしれないから手伝ってやってくれ」
「わがった」
大分涙が止まり始めたリラ。
アムネシアの手を引いて俺達から離れていく。
俺もアラルも、万が一の為視線は二人を追っている。
「詳しい話しは明日だな。寝床作らなきゃだし」
「そうだな」
リラはアムネシアを連れて木陰に隠れている。
着替えをさせているのだろう。
リリラ用に布製の寝袋を多く持ってきていたのが幸いした。
寝心地がいいとは言えないだろう。
だけど、無いのとあるのとでは暖かさは違うだろうし。
「わぁ!?」
突然のリラの驚きの声。
「どうしたリラ?」
思わず木陰に確認しに行った俺だったが・・・。
アムネシアの一糸纏わぬ姿。
控えめな体つきの女の子である。
「アキトさんのエッチ!? 何見てるんですか?」
リラの本気の怒りの篭った声と顔。
無表情のようで、かすかに笑みを浮かべて俺を見ているアムネシア。
フリーズした俺はその光景をまじまじと脳裏に焼き付ける事となった。
「いつまで見てるんですか!?」
≪暗黒霧≫
リラのお怒りを受けて、俺の視界を埋め尽くす黒い霧の闇。
視界どころか音も何も聞こえないじゃないか?
突然の出来事にどうしたものか手で霧を掻き分けようとする。
だけど、視界が回復する兆しも見えない。
そんなこんなで一人じたばたしていると、突如視界が元に戻った。
音が一切聞こえなかったので何を話していたのかはわからない。
そこには呆れ顔のアラルと、無表情のアムネシア。
怒りに顔を真っ赤にしたリラ、三者三様の顔が見えた。
「あ? えっとリラさん? お怒りですか?」
「もちろんです。プンプンです!! 女の子の着替えを覗くなんて信じられません!!」
「アキトもやっぱ一人の雄って事だよな。少女趣味の毛があるみたいだが」
一人納得したような表情のアラル。
いや何勝手に納得してんのさ?
「アキト、私の裸スキ?」
「いやちょっとまてお前らそれは誤解・・」
この状況で何言っても無駄なような気がしてきた。
待てでもさっきのは不可抗力だ。
「いやほら、リラの叫び声っぽいのが聞こえたからさ」
「言い訳は聞きません。アムの裸を見て嬉しそうだったのは事実ですもん。そんなに私の体よりアムのって何考えてるの私」
後半はぼそぼそ過ぎて何言ってるかわからんかった。
けど、何でそこで怒りの顔から羞恥の顔になっているのか?
さっぱりわからないよ、リラさん。
とりあえず俺が悪いみたいなので正座してみた。
「ともかく、故意もで故意じゃなくても覗き見たのは変わりません」
びしっと俺を指差したリラ。
怒ってるんだか?
恥ずかしがってるのか?
よくわからん顔。
「今度やったら許しませんからね!!」
正座する俺の前に立ったリラ。
額の前に添えられる手。
何をするのだろうかと疑問に思っている俺。
一発額にデコピンされた。
いやリラさん、なんでデコピンなんて知ってるんですか?
それとも万国共通ならぬ異世界共通の知識なんですかね?
全く痛くないのに罰になってなくね?
そう思いつつも言葉には出さない。
いくら俺でも今回は空気読めたぞ!




