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black ogre  作者: zephy1024
第一章 美小鬼王編
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018.轟く咆哮②

「咆哮だな。犬とか獣系じゃなさそうだが」


 割と冷静なアラルは、真剣な眼差しになっている。


「声からして結構近いんじゃないか?」


「そうだな。一応確認した方がいいな」


 二本のレイピアを抜き、咆哮のした方角へ歩き始めるアラル。


「明かり必要?」


 リラの質問の気持ちはわかる。

 だが下手に明かりでもあれば、刺激する可能性もあるか。


「いやいらねぇ。何がいるかわからねぇ以上、明かりで刺激しないとも限らねぇしな。俺が前衛で行く。アキト、リラを頼むぜ」


「あぁ、まかせろ」


 所々岩場の為、若干歩きにくい道。

 俺自身が転ばないように注意する。

 リラが転んだ時に、直ぐ対処出来るようにも歩く。


「いたな、たぶんあれらだ」


 よくこの月明かりなだけの中見えるものだな。


闇小鬼(ダークゴブリン)ってのはな夜目が聞くんだよ。ハーフの俺にも受け継がれててな」


 なるほど、夜目が聞く種族なのか。

 ならば俺やリラが見えなくても、アラルに見えて当然か。

 しかしあれらって事は複数いるって事か?


「何かわからないけど、凄く嫌な感じがするよ」


 震え始めたリラ。

 俺は彼女の手を優しく握ってあげた。


「アラルさん、注意してね」


「あぁ、わかってる。何でこんな所にいやがるんだか? それもアンデット化してんのか?」


 アラルの顔は見えないが、微かに声が震えている気がした。


「たぶん土竜(アースドラゴン)歩兵種(ポーンクラス)だな。騎兵種(ナイトクラス)も数匹いるようだが・・・。そもそも何でこんな所にいるんだ?」


「アラル、土竜(アースドラゴン)ってのは名前から何となくわかるが、歩兵種(ポーンクラス)とか騎兵種(ナイトクラス)とかは何だ?」


「俺も詳しくは知らない。ただそう呼ばれる種があるらしい。実物を見たことがあるわけじゃねぇし、今目の前のが本当にそうだとは断言できねぇ。ただ見た目からそうじゃねぇかと思っただけだ」


「私も話しだけ聞いた事あるけど。とても強いんだよね?」


 明らかに声が震えているリラ。


「それに何でかわからないけど、物凄い悪寒がするの」


 リラは明らかに怯えて震えている。

 しかし、その理由が本人もわからないようだ。


「もう一つやっかいな者を見つけちまった・・・」


 見つけたのを後悔するかのようなアラルの声。


「何を見つけたんだ?」


 俺は震えているリラを抱きしめながらアラルの顔をみた。

 いや暗くてあんまり見えてないんだけどね。


「人だ。円を描くように並んでいる竜の中心辺りに人が倒れている。それもおそらくリラと同じ位の年頃の少女っぽいぜ。何だってんだ? 意味わからなさすぎだろ」


「竜達が襲う気配はあるのか?」


「今の所竜達はアンデッド化進行中みたいだからな、だが完了したらわからんぞ。そもそも咆哮してる事から竜達は生きてるんだろ? 生きてるのにアンデッド化なんて有り得るのかよ?」


 独り言とも何とも言えないアラルの呟き。

 確かにアンデッドって普通死んだらなるものだよな。


「くそ、竜がまだ一匹ならともかく、十はいるんじゃ相手にすらならねぇ。知らない少女とはいえ、見捨てていくしかねぇのかよ・・・」


「アキトさん、少女助ける事出来ないかな?」


 震えた声で上目遣いに俺を見るリラ。

 竜の力が未知数である以上、俺が勝てるかどうかもわからない。

 あぁでも、倒す必要はないのか?

 少女を助けるだけなら出来るかもしれない。


「ち、竜の足元も腐り始めてきてるぞ。なんだこれ? こんなアンデッド化なんて聞いた事ねぇぞ?」


「アラル、リラを頼めるか?」


「あぁ? いいけどよ。まさか助けにいくつもりか?」


「少女を助けるだけなら何とかなるかもしれん。後俺の姿見ても驚くなよ」


 瞬時に能力全開。

 額に伸びる黒い角状の粒子と俺の体を覆う半透明の黒い粒子。

 それらがアラルとリラに見えているはずだ。


黒鬼型式壱速度喰(ブラックオーガタイプワンスピードイーター)


「これが黒き鬼の力!?」


 腰から二枚の黒い羽を生やした速度重視の形式。

 アラルの声を聞きながら、一度上空に飛び上がった俺。


「アラル、リラを頼んだぞ」


 俺はアラルが視線を向けていた方に一気に加速した。

 黄色の何かが徐々に濁っていくのが見える。

 距離と暗がりの為に形は判然としない。

 でも、この黄色の何かが土竜(アースドラゴン)なのだろう。


 近づくに連れて中心にいる少女が見えてきた。

 意識を失っているのか動く気配はない。

 白っぽい服装を着ているようだ。


 竜達を飛び越えて、一気に少女の側に降り立った俺。

 銀髪に白い肌、白っぽいブラウスとスカートを履いている。

 ただ半透明な為に体のラインとか乳房とかが丸見えだ。


 状況が状況だけに彼女をお姫様抱っこして再び飛翔する。

 そこで周囲にいた竜達が襲い掛かってきた。

 間一髪紙一重の差で逃れる事が出来たが。


 翼はあるが、どうやらアンデッド化した影響なのか飛べないようだ。

 竜達が唸り声を上げて俺の方へ向い始める。

 このままリラ達の所へ行ってもあいつらが着いてきそうだ。

 どうしたものか・・。


「ん・・うん・・ん?」


 俺の手の中にいる少女が目を覚ました。


「ア・・ウ・・」


 おはようって感じか? だが暫くは口を閉じていた方がいいかもな。絶賛竜達がお怒りで俺達を追撃中だ」


「リュウ?」


 寝ぼけているのかまだ瞼が半開きだ。

 そんな事よりも土竜(アースドラゴン)達をどうするか?

 アンデッドって事はゲームとかなら弱点は炎か?


 しかし竜って事なら生半可な魔術じゃ倒せないかもしれない。

 むちゃくちゃ魔力を消耗するが、しょうがないな。

 一度燃やしてみて駄目ならアレを使うか。


 その前に、ここだとリラ達も巻き込みかねない。

 俺は少女を抱えたままリラ達とは逆方向へ飛翔した。

 予想通り竜達は俺達を追ってきているようだ。

 だけど、アンデッド化したせいなのかその歩みは遅い。


火嵐(ファイアストーム)


 試しに火の魔術を使ってみる。

 予想通りではあるが、燃える事は燃える。

 だけど、直ぐに鎮火した。


 再生もしているようだ。

 アンデッドって再生するものなのかよ?

 再生してるというよりも、さっきより禍々しくなってないか?

 やっぱりアレをやるしかないのか・・・。


-----------------------------------------


 アキトさんが少女の側に辿り着いたのは、アラルさんが確認した。

 けど、何故か反対方向に移動しているらしい。

 竜達も彼を追い始める。


「アキト何考えてやがる?」


 少女を助けてって言った私のせいかも・・。

 アキトさん、お願い無事に戻ってきて。


「竜達の狙いは少女なのか? それにしては直ぐには襲わなかったし意味がわからねぇ。いくらアキトでもあんなのに勝てるのかよ? ただでさえやっかいな竜がアンデッド化してんだぞ、くそ。あいつ等を倒す方法か足止めする方法何かないか? 考えろ」


 苛立たしげなアラルさん。

 私と同じように、自分の無力さに苛立っているのかもしれないな。

 もしアラルさんの言う通りアンデッドなら、炎か光の魔術でダメージを与える事は出来る。


 あんな馬鹿な事で、魔力を消耗なんてするんじゃなかった。

 私の使える中で最大の威力のなら、竜でもダメージ与えれるかもしれない。

 けど、一発放つのが限度。

 今の状態じゃ放つ事すら出来るかわからないじゃない。


 突然アラルさんがレイピアを握り締めて走り出した。

 意を決して突っ込むつもりなの?

 そんなの犬死になるだけじゃない?

 でも気持ちもわかるから止めるなんて出来ない。


 それなら私も一緒に行く。

 気合をいれて一歩踏み込んだ瞬間の出来事。

 遠くで轟音と共に凄まじい爆発が瞳に映った。

 私を庇うかのように、アラルさんが捕まえてくれている。

 距離があるのにも関わらず、それ程に強烈な風圧が私達二人を襲った。


 何が起きたのかわからない。

 でもあの爆発でアキトさんが無事であるとは思えない。

 そう考えると、私は自分の言った言葉に後悔。

 目の前に起こった事に絶望しそうだった。


「リラ、アキトが無事かどうかは確認してから考えろ。もしかしたら最悪の結末だってあるかもしれねぇが、最高の結末だってあるかもしれねぇじゃねぇか?」


 私にというよりも、まるで自分に言い聞かせるかのようなアラルさん。

 そうだ、私達が信じてあげなくてどうするんだ。

 爆風が収まった後、私は挫けかけた心と挫けかけた膝を奮い立たせて立ち上がった。

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