018.轟く咆哮②
「咆哮だな。犬とか獣系じゃなさそうだが」
割と冷静なアラルは、真剣な眼差しになっている。
「声からして結構近いんじゃないか?」
「そうだな。一応確認した方がいいな」
二本のレイピアを抜き、咆哮のした方角へ歩き始めるアラル。
「明かり必要?」
リラの質問の気持ちはわかる。
だが下手に明かりでもあれば、刺激する可能性もあるか。
「いやいらねぇ。何がいるかわからねぇ以上、明かりで刺激しないとも限らねぇしな。俺が前衛で行く。アキト、リラを頼むぜ」
「あぁ、まかせろ」
所々岩場の為、若干歩きにくい道。
俺自身が転ばないように注意する。
リラが転んだ時に、直ぐ対処出来るようにも歩く。
「いたな、たぶんあれらだ」
よくこの月明かりなだけの中見えるものだな。
「闇小鬼ってのはな夜目が聞くんだよ。ハーフの俺にも受け継がれててな」
なるほど、夜目が聞く種族なのか。
ならば俺やリラが見えなくても、アラルに見えて当然か。
しかしあれらって事は複数いるって事か?
「何かわからないけど、凄く嫌な感じがするよ」
震え始めたリラ。
俺は彼女の手を優しく握ってあげた。
「アラルさん、注意してね」
「あぁ、わかってる。何でこんな所にいやがるんだか? それもアンデット化してんのか?」
アラルの顔は見えないが、微かに声が震えている気がした。
「たぶん土竜の歩兵種だな。騎兵種も数匹いるようだが・・・。そもそも何でこんな所にいるんだ?」
「アラル、土竜ってのは名前から何となくわかるが、歩兵種とか騎兵種とかは何だ?」
「俺も詳しくは知らない。ただそう呼ばれる種があるらしい。実物を見たことがあるわけじゃねぇし、今目の前のが本当にそうだとは断言できねぇ。ただ見た目からそうじゃねぇかと思っただけだ」
「私も話しだけ聞いた事あるけど。とても強いんだよね?」
明らかに声が震えているリラ。
「それに何でかわからないけど、物凄い悪寒がするの」
リラは明らかに怯えて震えている。
しかし、その理由が本人もわからないようだ。
「もう一つやっかいな者を見つけちまった・・・」
見つけたのを後悔するかのようなアラルの声。
「何を見つけたんだ?」
俺は震えているリラを抱きしめながらアラルの顔をみた。
いや暗くてあんまり見えてないんだけどね。
「人だ。円を描くように並んでいる竜の中心辺りに人が倒れている。それもおそらくリラと同じ位の年頃の少女っぽいぜ。何だってんだ? 意味わからなさすぎだろ」
「竜達が襲う気配はあるのか?」
「今の所竜達はアンデッド化進行中みたいだからな、だが完了したらわからんぞ。そもそも咆哮してる事から竜達は生きてるんだろ? 生きてるのにアンデッド化なんて有り得るのかよ?」
独り言とも何とも言えないアラルの呟き。
確かにアンデッドって普通死んだらなるものだよな。
「くそ、竜がまだ一匹ならともかく、十はいるんじゃ相手にすらならねぇ。知らない少女とはいえ、見捨てていくしかねぇのかよ・・・」
「アキトさん、少女助ける事出来ないかな?」
震えた声で上目遣いに俺を見るリラ。
竜の力が未知数である以上、俺が勝てるかどうかもわからない。
あぁでも、倒す必要はないのか?
少女を助けるだけなら出来るかもしれない。
「ち、竜の足元も腐り始めてきてるぞ。なんだこれ? こんなアンデッド化なんて聞いた事ねぇぞ?」
「アラル、リラを頼めるか?」
「あぁ? いいけどよ。まさか助けにいくつもりか?」
「少女を助けるだけなら何とかなるかもしれん。後俺の姿見ても驚くなよ」
瞬時に能力全開。
額に伸びる黒い角状の粒子と俺の体を覆う半透明の黒い粒子。
それらがアラルとリラに見えているはずだ。
≪黒鬼型式壱速度喰≫
「これが黒き鬼の力!?」
腰から二枚の黒い羽を生やした速度重視の形式。
アラルの声を聞きながら、一度上空に飛び上がった俺。
「アラル、リラを頼んだぞ」
俺はアラルが視線を向けていた方に一気に加速した。
黄色の何かが徐々に濁っていくのが見える。
距離と暗がりの為に形は判然としない。
でも、この黄色の何かが土竜なのだろう。
近づくに連れて中心にいる少女が見えてきた。
意識を失っているのか動く気配はない。
白っぽい服装を着ているようだ。
竜達を飛び越えて、一気に少女の側に降り立った俺。
銀髪に白い肌、白っぽいブラウスとスカートを履いている。
ただ半透明な為に体のラインとか乳房とかが丸見えだ。
状況が状況だけに彼女をお姫様抱っこして再び飛翔する。
そこで周囲にいた竜達が襲い掛かってきた。
間一髪紙一重の差で逃れる事が出来たが。
翼はあるが、どうやらアンデッド化した影響なのか飛べないようだ。
竜達が唸り声を上げて俺の方へ向い始める。
このままリラ達の所へ行ってもあいつらが着いてきそうだ。
どうしたものか・・。
「ん・・うん・・ん?」
俺の手の中にいる少女が目を覚ました。
「ア・・ウ・・」
おはようって感じか? だが暫くは口を閉じていた方がいいかもな。絶賛竜達がお怒りで俺達を追撃中だ」
「リュウ?」
寝ぼけているのかまだ瞼が半開きだ。
そんな事よりも土竜達をどうするか?
アンデッドって事はゲームとかなら弱点は炎か?
しかし竜って事なら生半可な魔術じゃ倒せないかもしれない。
むちゃくちゃ魔力を消耗するが、しょうがないな。
一度燃やしてみて駄目ならアレを使うか。
その前に、ここだとリラ達も巻き込みかねない。
俺は少女を抱えたままリラ達とは逆方向へ飛翔した。
予想通り竜達は俺達を追ってきているようだ。
だけど、アンデッド化したせいなのかその歩みは遅い。
≪火嵐≫
試しに火の魔術を使ってみる。
予想通りではあるが、燃える事は燃える。
だけど、直ぐに鎮火した。
再生もしているようだ。
アンデッドって再生するものなのかよ?
再生してるというよりも、さっきより禍々しくなってないか?
やっぱりアレをやるしかないのか・・・。
-----------------------------------------
アキトさんが少女の側に辿り着いたのは、アラルさんが確認した。
けど、何故か反対方向に移動しているらしい。
竜達も彼を追い始める。
「アキト何考えてやがる?」
少女を助けてって言った私のせいかも・・。
アキトさん、お願い無事に戻ってきて。
「竜達の狙いは少女なのか? それにしては直ぐには襲わなかったし意味がわからねぇ。いくらアキトでもあんなのに勝てるのかよ? ただでさえやっかいな竜がアンデッド化してんだぞ、くそ。あいつ等を倒す方法か足止めする方法何かないか? 考えろ」
苛立たしげなアラルさん。
私と同じように、自分の無力さに苛立っているのかもしれないな。
もしアラルさんの言う通りアンデッドなら、炎か光の魔術でダメージを与える事は出来る。
あんな馬鹿な事で、魔力を消耗なんてするんじゃなかった。
私の使える中で最大の威力のなら、竜でもダメージ与えれるかもしれない。
けど、一発放つのが限度。
今の状態じゃ放つ事すら出来るかわからないじゃない。
突然アラルさんがレイピアを握り締めて走り出した。
意を決して突っ込むつもりなの?
そんなの犬死になるだけじゃない?
でも気持ちもわかるから止めるなんて出来ない。
それなら私も一緒に行く。
気合をいれて一歩踏み込んだ瞬間の出来事。
遠くで轟音と共に凄まじい爆発が瞳に映った。
私を庇うかのように、アラルさんが捕まえてくれている。
距離があるのにも関わらず、それ程に強烈な風圧が私達二人を襲った。
何が起きたのかわからない。
でもあの爆発でアキトさんが無事であるとは思えない。
そう考えると、私は自分の言った言葉に後悔。
目の前に起こった事に絶望しそうだった。
「リラ、アキトが無事かどうかは確認してから考えろ。もしかしたら最悪の結末だってあるかもしれねぇが、最高の結末だってあるかもしれねぇじゃねぇか?」
私にというよりも、まるで自分に言い聞かせるかのようなアラルさん。
そうだ、私達が信じてあげなくてどうするんだ。
爆風が収まった後、私は挫けかけた心と挫けかけた膝を奮い立たせて立ち上がった。




