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 村沢は、下落合のレンタルビデオショップに来ていた。

失踪した奥山由香は、放課後週三回ここでアルバイトをしていた。大手のチェーン店ではない。ワンルームマンションの多い地域で、住人目当てに細々とやっているような店である。店舗自体もワンルームマンションの一階のテナントで、隣に酒屋兼コンビニがあった。

村沢は、ビデオショップのカウンターで暇そうにしている若い娘に声をかけた。由香の写真を見せる。 

娘は怯えと好奇心をないまぜにした表情で、上目使いに村沢を見上げた。ナチュラルなメイクとボーイッシュな服装。いかにも学生風な娘である。   

 「由香ちゃん、どうかしたんですか。」

 「ご両親が探している。あなたの知っている事があれば、何でもいいから話してくれるかな。」

 「由香ちゃん、家出したんですか。」

 「そんなようなものだ。彼女から何か聞いたことでも?」

 「……別に。でも、親と仲悪いって前にちらっと言ってたから、家出したのかなって。」         

 「家出したのに、バイトを無断で止めるのは変だと思わないかな。金がいるし、そう遠くへ行ったとも思えないんだ。」      

 「でも、キャバとか、もっと割のいい仕事してるのかもしれませんよ。」

それはないと思っていた。由香の性格からいって、キャバクラあたりで働くなら、絶対自分達に話すはずだ、とリナとミカが断言していた。

 「なるほどね。ああいう所なら、寮もあるしね。」

村沢は頷きながら、店内を見渡した。

品揃えは、決して豊富ではない。あまり流行っていないような感じであるが、こういう店は深夜の方が、客の入りは多くなるから、断定はできない。      

 「ここは、やっぱり夜の方が忙しい?」

娘は首をかしげた。

 「そうですねえ。八時頃から、結構人来ますね。うちって、よくわかんないんだけど、マニアックな物置いてあるらしいんですよお。」

そう言うと、娘はきょろきろとあたりを見回した。

どうかしたのか、という風に村沢が眉を上げると、娘は、店長がうるさくて、と小声で言った。   

休憩時間に外でゆっくり話を聞かせて欲しいという村沢の提案に、娘は近くにあるカフェを指定した。その時、若い男が入ってきたのをしおに、村沢は店を出た。

三十分後カフェに入って来た娘―佐藤ありかに、飲物とケーキをすすめると、村沢が質問する前に、ありかの方から喋り始めた。

 「さっき、探偵さんが出てく時に入って来たお客さんいるでしょ。あれ、持ち込みですよ。」

 「持ち込み?」

 「自作のビデオかDVD。プロ並のマニアがいるんですよぉ。」

 「そんなのも置くの。珍しいね。やばい物かな。」

 「店長が見て、置くかどうか決めるんですけどね、なんかただのH系じゃなくて変態ちっくなやつばっかだって噂で。うちの店、闇で結構評判らしくて、ネットじゃ有名だって。」

 「店長って、どういう人?」

 「んー、見た目はキモヲタっぽいんだけど…キレると恐いんですよぉ。なんかやばい感じで。由香ちゃんもすっごい嫌ってたし。」

 「彼女と店長の間に、トラブルがあったというような事は?」

ありかは、キャラメルミルクティーを飲むと、少し考えた。

 「由香ちゃんて、明るいし面白いし、バイトの子とはうまくやってたんだけど、仕事はあんまし真面目じゃなかった。だるいってのが口癖だったし…それに、店長はギャルっぽい子は好きじゃなかったみたいだから、由香ちゃんにはよく文句言ってたけど、トラブルってほどじゃあ…」

 「奥山さん目当てに来るお客さん、てのはいなかった?」

当節、ストーカーという事も考えねばならない。

 「どうかなあ…あ、でも、由香ちゃんの方が気に入ってるお客さんはいました!あの人、マジかっこいいって。でも、その人も一度持ち込みしてて、やっぱ変態じゃんてがっかりしたみたい。」

 「彼女が、そのお客さんと親しくなるような事は?」

 「それはないです。由香ちゃん、ただのノリで言ってただけだから、会員の住所とか携帯番号とか、調べようとも思わなかったみたい。まあ、店長が保管してるから、あたし達にはわかりようもないし。」

村沢は頷くと、店長は持ち込みの変態作品をどこで品定めするのかと聞いた。

 「店に時々恐い感じの人が来るんです。その人と見てるんじゃないかなあ。」

 「恐い感じ?」

 「ちょっとやくざっぽいっていうか…。」

 「名前はわかる?」

 「確か…サカイさんて呼ばれてました。まだ若いと思う、三十になってないかも?」

 「その人と店長が店で見るんだ。」

 「ええ、気に入ったものは、サカイさんが持って帰るみたいで。」

ありかは、なかなかよく観察していた。この件が、由香の失踪とどこまで 関係があるかはわからないが、村沢の勘は、限り無くビンゴに近いと告げていた。サカイという名には、心当たりがあった。

 「持ち込みで店長が置く事になった商品は、普通に店内に置いてあるんだよね。奥山さんが気に入ってた男の子の作品は、どれかわかる?」

ありかは、眉を寄せて必死で考えていた。

タイトルを見れば、思い出せるかもしれないと言う。村沢は、わかったら連絡して欲しい、と連絡先を教え、ありかはメールすると約束した。

村沢はカフェを出ると、新宿署でかつての同僚だった山口の携帯を呼び出した。奥山由香の捜索願いの進み具合を知りたかったが、他に聞きたいこともあった。

 「結局、続けてるのか、調査の仕事。」

 「やめさせてくれないんだ。これでも引く手あまたらしい。」

 「で、何が聞きたいんだ。」

 「田中総業のフロントでやってたAV製作会社にサカイってのがいなかったっけか。どんな字かはわからんが、三十前だ。色黒、痩せ形、ややギョロ目。」

 「調べて、折り返し連絡する。それより何だ、あの女は見つけたのか。」

 「那美なら、もう探す気は失せたよ。」

 「嘘だ。惚れてたんだろ。」

 「目の前の仕事が大事でね。」

 「ま、殺人容疑で指名手配だからな。関わらん方がいい。」

村沢は、返事をするかわりに、タバコの煙を思いきり吐いた。


 

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