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那美と知り合ったのは、全くの偶然だった。
区役所通りで一杯やった後、角筈の事務所へ帰る途中の大ガード下で村沢は、数人の男と揉み合った揚句、車に連れ込まれそうになっていた那美を助けたのだった。激しい雨の降る夜で、家まで送ると言った村沢と、帰りたくないと言った那美が深い関係になるのに、時間はかからなかった。それが二人の運命を変えたのだった。
那美は、地獄に落ちかけている女だった。
都庁職員の夫は、博打の泥沼に嵌まって膨大な借金を抱え込み、暴力団幹部が那美をレイプするところを撮影させられた。借金を一括返済出来なければ、AVとして販売するという。そして那美は、自分をレイプした遠藤から、夫を殺して保険金を手に入れて一緒になろうと迫られていた。
そこまで村沢が突き止めた時、バッティングセンター裏で那美の夫の水木進悟の死体が発見された。匿名の垂れ込み電話から駆け付けた新宿署は、死体のそばに呆然と突っ立っていた遠藤を逮捕した。
進悟の死体には、保険証書が添えられていた事から、遠藤は徹底的に取り調べを受け、余罪も発覚したが、殺人だけは強硬に否定し、警察は那美を緊急に指名手配した。
一方、遠藤の手下の田中総業構成員達も、那美を血眼で追っていた。村沢は那美を連れて東京を脱出するべく、百人町の韓国料理屋のおかみを通じて拳銃を手に入れたが、その時に拳銃を届けに来たのがカンナだった。
村沢と那美は百人町を出て、事務所へ車を取りに行く途中で田中総業の連中の襲撃に遭った。
那美を逃し、敵のほとんどを倒したが、残る一人に村沢は撃たれた。とどめを刺されそうになった時に、相手もまた何者かに撃たれ、村沢は現れたカンナに、那美は保護したと囁かれ、気を失った。 怪我の治療や警察の取り調べなどを経て、村沢は釈放されたが、探偵免許は剥奪された。那美の行方はわからなかった。警察も逮捕には至っていない。
半年近く経った現在、本腰を入れて那美を探すべきだろう、そう村沢は思った。雨の降る夜だった。