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とりあえず、活動休止中に色々書いてたヤツをちょこちょこ投稿してます。
あれから一晩が経ちました。
その一日。この町にはとても色々な事がありました。まずは、一つずつその不思議なできごとの数々を説明していかなくてはなりません。
あの後町長さんは、お屋敷の廊下でうずくまって、すすり泣いているネロのお母さんを見下ろしていました。
「とりあえず、気持ちが落ち着くまで泣くと良いでしょう……」
声のかけようがありませんでしたが、町長さんはとにかくそれだけ言い聞かせると、すぐにネロが眠る部屋へ戻る事にしました。
ネロのお母さんは、何度帰りましょうと言っても聞かず、その場を動こうとはしなかったのです。やっぱり、自分の子を置いては帰れなかったのでしょう。
そんなネロのお母さんの気持ちを思いながら、町長さんはまたあの広い寝室の前にやってきて、その扉を開きました。
そんなもやもやとした気分の町長さんを、少し疲れた様子で迎えたのは……。
「町長さん……。おなかがすいたよお……」
なんと、ネロでした。
部屋の入り口で目を白黒させる町長さんに、今朝のレムと全く同じ事を言ってみせたのは……ネロだったのです。
そう。不思議なできごと。まず一つ目がそれでした。
「ネロ……? 目を覚ましたというのかい!?」
ネロの肩を揺さぶって町長さんは聞きます。でも、この男の子は、まるで自分が今まで何をしていたか、全く気に留めていないかのようにぽかんと町長さんを見上げていました。
何はともあれ、これはとても良いこと。喜ぶべき事でした。……でも、そうなると当然、町長さんには気になることがあります。
「そうだ!! ネロ! レムは!? レムは一体どうしたんだい!?」
「レム?」
そう。これが二つ目の不思議なできごと。
町長さんは、部屋の真ん中のベッドに駆け寄りました。
「れ、レム…………」
「何言ってるの町長さん! レムはずっと眠ってるじゃない!!」
ネロは可笑しそうに、ベッドにもたれ掛かる女の子を指さして言いました。
そう。レムは再び眠りについたのです。ネロと入れ替わるように……。
いよいよ、町長さんには、何がなんだか分からなくなってしまいました。それでもとにかく、その時町長さんの頭の中にあったことは……。
「奥さん!! ネロが!! ネロが目を!!」
すぐさま、赤い絨毯の敷かれた広い廊下を全速力で引き返し、ネロのお母さんを呼びに行くということでした。
「奥さん!! もう泣くのはお止しなさい! ネロが目を覚ましたのです!!」
再びネロのお母さんの所へ辿り着いた町長さんは、壁に寄りかかるようにしてうずくまる彼女の肩に掴みかかります。
でも、どうしてか、ネロのお母さんはその場から動こうとはしませんでした。
「聞いてますか!? いつまでも泣いていては、ネロに示しがつかないでしょう!! 奥さん!! ……あっ!!」
その時でした。
それは、町長さんが強く揺さぶりすぎたためでしょうか? ネロのお母さんは、無気力にごろんと、真っ赤な絨毯の上に倒れ込んでしまったのです。
「も、申し訳ない! 大丈夫ですか!?」
慌てて手を差し伸べようとして、町長さんは、はっとしました。ネロのお母さんの表情を見て、その場に凍り付いてしまったのです。
「町長さん……? どうかしたの?」
そこへやってきたのは、ネロでした。ひどくお腹が空いているのでしょう。ネロはお腹の辺りを撫でながら、町長さんのそばへ歩み寄ります。
「ネロ……。もう、私には何がなんだか……本当に分からないんだ……」
「町長さん?」
町長さんは、ネロのお母さんの褐色の頬をそっと触れながら、震える声で呟きました。
「ネロ……。君の……君のお母さんは……。眠っているようだ……!」
これが、三つ目の不思議。
ネロのお母さんは、軽い呼吸を立てながら、確かにその場で眠っていたのです。
そう、ネロのお母さんは決して死んだ訳ではありません。……しかし、町長さんにはどこか、心のどこかで確信していることがありました。
この眠りは、決して覚めることのない眠りなのだと。
町長さんは、ただただ顔を青ざめさせて、呆然としていました。普段、人前でそんな表情をしない、朗らかな町長さん。そんな町長さんのただならぬ様子が、ネロにとってはとても不思議なものだったのでしょう。
だから……と言うわけではないでしょうが、ネロもまた、とてもまっすぐな瞳で、何気ない調子で……しかしとても『不思議な』事を言ってみせたのです。
「ねえ。お母さんって…………誰?」
ファンタジーです。ファンタジーですが、ミステリー調のファンタジーなのかな。
やっぱりやったことのないジャンルは調子が掴めなくて死にそうです。過呼吸気味です。
活動再開してきたし、このまま頑張れたらいいなあ