3
ようやく3話ですね。
とりあえず、大幅改変しています。
地の文をですます調にかえました。
「ああ……。しんじられないよ……」
町長さんは、まだぼけっとしてその女の子を見つめています。
「レム……。まさか君が目を覚ます日がやってくるだなんて」
珍しく夜に起こされることもなく、久しぶりにぐっすり眠れた町長さんが今朝、早起きしてみると、それはそれは驚くべきことがありました。
向かいのお屋敷の大きな大きな開かずの門が、中からゆっくりと開いたのです。
「あら、町長さん。おかしなことを言うのね」
くすくす。大きく口を開けっぱなしの町長さんを見て、レムはおかしそうに笑います。
「赤ちゃんだって、たくさん眠って夢をみたら、その分だけたくさん遊ぶものよ? 町長さんはお外で遊ばないで、ず~っと眠っているのかしら?」
「そうじゃなくてね、レム。君は……」
「パンをもっとちょうだい!!」
「…………」
むう。と町長さんはうなります。
何をたずねても、何を諭しても、レムは元気にただ一言、「おかわり!!」。町長さんはすっかり困り果ててしまいました。
門を開けて現れたのは、真っ白なローブのような布をまとい、今にも地面についてしまいそうなほどに髪の毛を長く伸ばした小さな女の子でした。
そう。間違いありません。それはレムでした。町長さんは一目散に庭を飛び出します。
眠そうな顔でむにゃむにゃと目をこすりながらレムは、駆け寄ってくる町長さんに気がついて、口元をゆるめました。
「おなかすいたぁ」
「町長さん! 私とってもおなかが空くのよ? どうしてかしら!」
「食べながら喋るのはやめなさい、レム」
町長さんはハンカチを取ってレムの口を拭きながら、ぼーっとつぶやきます。
「ねえ!! どうしてかな!!」
「うーん。それはね、レム……」
「そうだわ町長さん!! これを食べ終わったら、町に連れて行って!! おねがい!!」
「…………」
レムが目を覚ましたのは喜ばしいこと。嬉しいこと。新しい住民が増えるのもまた、すてきなことなのです。
ただ……。町長さんは思いました。
これでお行儀のいい女の子であったら、どんなによかったことかと。
「髪も切らなくちゃね、レム」
町長さんはふう、と溜め息をつきました。
◆
「レムや? ネロには会わなかったのかい?」
「ネロ?」
レムはどこか遠くに向かって手を振りながら、聞き返します。町長さんが見ると、向こうの空き地に、子どもたちが集まっていたのでした。しかし、子どもたちはレムに気づくと、散り散りになって逃げてしまいました。
「いっちゃった……」
「はは。レムのことはまだみんな知らないからね。そのうち仲良くなっていけるさ」
「それで、町長さん? ネロってだあれ?」
「ああ。ネロはね、君の初めての友達だよ」
「友達? 私、知らないわ」
そりゃあそうさ。と、町長さんはまた、ゆっくり歩きはじめながら笑います。
「ネロはね、君が眠っているときにいつも君に会いに来てくれていたんだよ?」
「私が眠っているとき? それじゃあ、夜ってこと?」
「そうだね。ネロは眠らない子なんだ。ネロは夜になると、いつも君に会いに来ていたよ」
「うふふ……」
「ネロは一日中遊び回っているからね。今もどこかで遊んでいるかもしれない。いや、レムがいなくなったから、もしかしたらレムを探しているかもしれないね」
「うふふふふ……。ねえ、町長さん……町長さん……!」
レムは口元を両手で覆いながら、可笑しそうに町長さんを見上げます。
「ネロっておかしな子なのね。だって、夜に遊んでいるんでしょう? 子どもなのに変なの!」
「そうだね」
「私と遊びたいなら、朝になったら来ればいいのに! 変なのー!!」
「……そうだねえ」
青い空を見上げながら、町長さんは頷きます。……と、
くいくい。
「ねえ、町長さん」
町長さんの服のはしが引っ張られました。
「ねえねえ、私ネロに会いたいわ。ネロと遊びたいの」
レムは白い肌にほんのりと赤みをのせて、ぴょんぴょん跳ねます。
「そうかい。それなら、レムのおうちに行ってみようか。もしかしたら、来てるかもしれないよ?」
町長さんがにこりとレムに微笑むと……。
レムは跳ねるのをやめ、かわりに首を傾げました。
「ううん。来てないわ。私が目を覚ましたときは、ネロじゃない別の男の子しかいなかったもの」
ぴたり。町長さんの顔が、途端にこわばりました。
「……レム、なんだって?」
町長さんが屈みこんでレムの顔をみつめます。それでもレムはけろっとした様子で答えました。
「私、目が覚めたときに見たの。私のベッドに寄りかかって居眠りしている男の子がいたのをね。起きてって、声をかけたけど、全然起きなかったわ。でも、ネロは眠らない男の子なんでしょう? それじゃあ……」
「レム!! 来なさい!! 一緒に来るんだ!」
う~ん。実は着地点が曖昧なんですよね