特訓と発動
「ちょっ……マジですか!?」
「まじです。行きます!」
アレね。可愛い子が真剣なのって怖いよね。
どごぉ!
と、私の右下の地面が、削れたんですが。
「む、無理です、無理ですって…ぅひゃぁあああっ」
リオです。今、ちょっと手が離せないんですが。
ベルが視界に入る。
向けられた拳はとても暴力に向くとは思えない小さいものだが、
当然当たったら痛いはずで。
近っ近い近い近い近い!
思わず避けるが足をひっかけられ見事に転ぶ。風を切る音がするのでとっさに横へ転がり、踵を落とされたものを避ける。
そのまま転がり両手で立ち上がったところにベルが走りこみ避ける前に腹に蹴りを食らう。
「っ………!」息がつまる。
そのままよろめいたところで目の前の肘をかわし、左腕を出す。その腕を避けられ、腕を取られ、
世界が回転する。
暗転。
というようなことが、数日続き。
「っ…大分基本が見えるようになりましたねっ…」ベルはそんなことを言いながら相変わらず容赦が無い。
考えても見てください。
どう見ても、十代のぴちぴちな少女が繰り出す体育会系の体術に。
今年35歳ですよ私。
しかもオフィスワークと現代社会に揉まれ、碌に運動していない身体が、動くわけがない。
鍛えてない身体が痛いのなんのって。前半は食事を取ることもできずに泥のように眠りました。そのまま昇天するかと思ったくらいには。慣れって怖いですね。
いくら慣れでも限界はあるわけで。漫画の主人公みたいなパワーアップがあれば良かったんだけど。私、格闘技とかテレビでも見ない人なんですよ。
勘弁して。
でもまぁこれも、あのストーカー対策ということなら。
「はっ…」ベルに足をひっかける。隙有り!
「…甘いっ」倒れこむベルさんに腕を取られる。そしてそのまま地面へダイブ。
どごっ。
いた。
痛いです。
ねぇ、限界ってあると思うの。
二人して地面にめり込みながら、しばしそんなことを考えました。
次の日。
「あら、リオ。グレートな黒ね。」と、ロミが言った。
鏡を渡されて見れば、久しぶりに黒髪の私が居た。
そして私はいつも通り、『空蝉』をかけ直すことに。
「リオが命ず―…!?」ぞろり、と身体の奥底で何かが動いた。
初代は相変わらず透過状態の画像みたいだけど、思わず顔を見る。特に何も言わないのでそのまま続ける。
「『空蝉』。」
ぞくり、とした。
今まで何も感じなかったこの体内に、確かに『黒』の力を感じるのだ。
それが何だかはわからない。ただ、私の身体は既に私が知っているものではないのだ、ということだけが事実で。
『黒の総本』を開くと、ほぼ全ての項がびっしり文字で埋まっていた。これを全て使える、ということだろうか。
『今のお前の状態を能力で表すと、L99ってところだ。ただし、MPが最高最強だが、HPが著しく低く、敵のカウンターを避けられない死ぬ確率が1戦闘につき50%とという、あーこいつどうにかして強くしなけりゃ使えん、というキャラだ。』
何ですか、その、あまりに具体的すぎる表現。
そんな説明で初代は私と同じ世界の人なのだな、なんて思う。
「あのー質問。初代モードを使うとどうなるんですか?」そうです。これ肝心です。
『身体への負担が軽減できれば、かなり無敵だぞ。何せ、ほら、俺ってばグレートかつエクセレントだから。それから…』初代がロミを見ると、ロミが何やら箱を取り出した。
「あなたへよ、リオ。素敵なプレゼントね。」防犯対策のため中身は確かめた、とのこと。私は不思議に思いながら箱を受け取り、中身を取り出す。
「布…服?」はらり、と落ちた紙に書かれた文字。
『前略 リオ様
こんなこともあろうかと、作っておいて良かったです。
アリッサ・ハルスワーズ』
「………」私はその布―服を広げてみる。
黒地に紫のアクセントの入った、何ともいえない上下。下はヒラヒラのフリルだ。ご丁寧にブーツどころか、ストッキングも入っている。
『そろそろあいつを捕まえないといけなかったから連絡したんだが…まぁその…何だ、ついでにそうなった。ちなみに、連作だそうだから、安心して使い捨てろ。』文字がめんどくさそうにだらだらと並ぶ。
「アリッサ……」私はふっと息を吐いて服を抱きしめる。
「リオ、いい友人を……リオ?」ロミの声はちゃんと聞こえてますでも。
「こんな短いスカート穿けるか―――――――!!」
でも、さすがアリッサでした。サイズぴったり。
或る意味それも怖い。いつ計ったのか。
「あら、可愛い。リオ、準備はいいかしら?」ロミが着替えた私を待っていた。
「準備?」
「そう。襲われる、準備。」そうロミが言った瞬間、振動が起こる。
「何…!?地震…!?」
「リオは王子様が来るまで持ちこたえられるかしら?当然、私は一般人だから守りながら戦わなくては駄目よ?ベルは貸してあげるから、頑張りなさい。」
「は!?」状況を把握する前に、ロミにどん、と押し出された。
玄関から、外へ。
「初代!?」『黒の総本』を開く。
『まーつまりだな、あのワンコに連絡したら必然的に足がつくわけだ。まぁあいつが来るまでお前を鍛えるレベルアップのための討伐みたいなもんだ。気張れよ。』
「はぁ!?」
そこでベルが駆けて来る。
ちょっと整理しよう。
現状、何かが近づいてくるような気配。あくまで主観。
しかも地面の底から。
「ワンコって何ですかっ」
『半端の精霊。』
ウリセス!?ウリセスに連絡したら足がつく…って……
「水の精霊ストーカー!」
『初代モード発動。今回はお前の意思を残してやる。せいぜい励め。』
がつん、と頭を殴られた気がした。
一気に入ってくる情報。
力が全身にみなぎってくる。
情報をどう使うかは私次第。
初代は戦わない!?
混線、眩暈と吐き気。何だこの膨大な情報量。
「あーもー!『選別』」ごっちゃになった頭の中の情報を必要最低限の項目以下に整理する。
視界が変わる。
目の前はまるでレーダーでも装備したかのように敵の位置を知らせる赤い色。方位と今できる攻撃が浮かぶ。
「攻撃?」そもそも何であのストーカー精霊は私を狙ってるんだ。とりあえず私がすることは、
「『壁玉』」ロミたちの家を守ること。
「ベル、ちょっと。」とりあえず、パーティは二人。どう考えても戦力的に不利。ならどうする?
ベルを手招きして、『黒の総本』を開く。
「『内壁』『外壁』」ベルの身体に強化をかける。これで、ステータスが上がったはず。ただ、相手は精霊。どうやって戦うか。
『対精霊時の初歩的攻撃の仕方~
読んでる時間なんか………
『力押し!』
初代。
酷すぎますこの本。
対水に強いのは、土。でも、何でか知らないけど大地が揺れているということは、水だけじゃないんだろう。どうする!?
「やっと見つけた。」美声が響く。
現れやがりました、超絶美形な水の精霊さん。テオ(偽名)。
にわかで得た『総本知識』によると、彼らは本来の名を取られると支配される場合が多々あるという。だから、ウリセスの本名も私に『誓約』した時に言ったよくわからない発音なのだそうな。
まぁ、それはおいといて。
「しつこい男は嫌われますよ。」私はなんとか時間が稼げないか考えた。
大地は未だ揺れたまま。
「うん。まぁ別に君に嫌われてもいいんだ。人間なんか元々好きではないし。」
じゃー何で人に求愛とかしたよ。
「君の力が手っ取り早く欲しかったもので。まぁ君自身はどうでもいい。」
何て人でなしなんだ。(精霊だからか。)
「リオさん。」ベルが私を見る。何、指示待ち!?指示待ちなの!?ええ、つまり私が司令塔!?ありえない。
「精霊術も使うようだからね、用心のため持ってきたんだ。」と言ってテオが腕を動かすと、土が盛り上がる。
ずももももも、と盛り上がり、人の形になる。中には動物の形のもあった。
「何…これ。」
『ゴーレム…由来は省略』
「来ます!」ベルの声。
「『円壁』ベル、この中に!」私はとっさに自分の周りに守護壁を張り、そこから彼らが入れないようにする。
「リオさん、この円は出れますか?」ベルが聞く。
「ベルだけなら。出て入れる。どうする…」つもり、と聞く間に彼女は円から出ていた。そして、一体のゴーレムに向かって拳を繰り出し、砕いたところで、円に戻る。
その間、わずか数秒。
「す、凄い……」何度かそれを繰り返していくうちに、ゴーレムは見事に3体になった。
「ベル!待って!」残り3体になった時、テオが動いた。
瞬時にベルが水の球体に捕まった。
「『突入』」私は急いで彼女を救い出そうとする。が、できない。球体に弾かれてしまう。
「嘘っ…」レベル上がったんじゃなかったの私ー!
その間にもベルが球体の中で溺れている。まずいまずいまずい。
『力の強さは魂の強さに比例する』
『リオ、お前に足りないのは覚悟だ。』
かっとなって『総本』を閉じる。今の私には『本』を見なくても頭に言葉が浮かぶのだから。
「『操核』!」テオは実に楽しそうに私を見ている。否彼は私を見ているのではない。私の『黒の術』が欲しいだけ。
それだけのために、ベルを殺そうとしている。
「『密室』『伽藍』!」
そんなもの、許せるわけあるか。
ベルの身体がゆっくりと力を失って行く。
黒の檻をかわそうとするテオ。でもそうは行かない。彼が水を使ってどこまでもいけるというのなら、その道を絶てばいい。
『密室』は対象の属性をすべて断絶する。これで、逃げられない。
そして、『操核』は。
残った3体のゴーレムが彼を拘束する。彼がこちらを見る。
「『二重伽藍』!」彼をゴーレムが押さえ、『伽藍』の檻に囚われる。そしてそれをゴーレムごと、空間からも時空からも切り離す。
それでも、主人の命令を受けたままの精霊はベルを飲み込んだまま。けれど、契約の主からの糸が切れた彼らを破るのは容易い。
「『列破』!」ぱん、と音がして水球が割れ、ベルが落とされる。
「ベル!」
「甘い!」ロミさんの声で、円から出る足を止める。
地響きはまだ収まらない。否、これは。
「川を決壊させたわね…!」ロミの声が耳に入る。そして目の前に迫る水壁を見た。ああ、だから最初から地形を頭に入れておけば良かったんだ、そのための力だった。
呆然と迫る水にただ、立ち尽くすしかない自分が惨めだった。
「エラン・アマド!」
涼やかな声が響いた。
お久しぶりです。すみません。更新進まなくて。




