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LESSON2 反射

「リオ様ぁ~っ。」アリッサ、何も言わないで。頼むから。深く、深く反省はしているの。本当に。




あれから、晩餐までに時間があるため一時部屋に戻っています。ウリセスも一緒。


「ね、もういいでしょう?言質って何?」私はぐったり疲れた体を長椅子にもたれかけさせ、ヒールを脱ぐ。


ウリセスは椅子に腰掛けると、


「言質というのは王家の力だ。リオが椅子に座らないのは良かったが・・・」


「その後が駄目なのね?」


わかってますとも。


どうやら、あの椅子に座る時に王様とやり取りをして『王家の一員である者』になってしまう。軽く口約束だろうが、王宮に縛られてしまうらしい。


ちなみにこれはウリセスが80年前にひっかかったことらしい。


ほぼだまし討ちな気はするが、それが通るのだから恐ろしい。


「・・・王様が名前を名乗らなかったけれど、有効なの?」私はぼんやりと天井を見ながら言う。失礼だけど、今はそうでもしないとしゃべる気力も無くなる。


「簡易だが、確実に言質を取ったことになる。だが、リオが犯人を見つけられない場合・・」


「王宮に束縛されるってわけね、ウリセスさんのように。」はぁ、と溜息をつく。


リオという名は本名ではなかったから『黒の術師』と言い直させたのが王様の気に障ったのかもしれない。どちらにせよ、ただで済むとは思わなかったけれど。


私は子供の名探偵でもなければ、二時間ドラマの女優でもないわけで。ただし、これで私の褒美は確実に出る。犯人を捕まえたなら。


「犯人探し、ねぇ・・・」

気はすごく進まないけれど、やるしかない。私が犯人ではないのだから。



「そうと決まれば、アリッサ、勢力図お願い。」


「へ?」


「この後の晩餐で色んな人に会うのだろうけど、私は覚えられないから、かわりに覚えるかメモするかして。」


「ど、どうやってですか。リオ様、私は参加しないのですよ?」アリッサが言う。


うん。そう。


「それは・・・これ!」


「リオ様!」

「リオ!」


・・・アレ?


胸から例の『黒の総本』を取り出したら二人に怒られた。アリッサに頼んでドレスの中に入れれるようにしてもらったのだ。これで他人が悪用することはできない。まぁ、この本自体は王宮のものだけど、私が持つことは許されているらしい。


「な、なんてこと・・・!し、下着見えましたよ!」アリッサが高速で私の前に来てすぐにドレスを直す。小声で話すのはウリセスに聞こえないように?


「え!?・・ああ、うーん、うん。ごめん。ごめんなさい。ウリセスさん?」そんなに見えたかな?私の胸それほど無いし、本を入れるのに丁度良い場所が無いからここにしたんだけど。


あ、羞恥ということなら、ウリセスが老人だとわかった時点で恥じらいとかはなくなった、と思う。多分。おじいちゃんと一緒にいるのだと思えばね。


「・・・いや、リオ・・その、他の場所ではそのようなことは・・・」ああ、すみません、はしたないですよね。


「しません。・・・それで、ここなんですが。」そう言って本を開きページを開く。


『記憶をうつす機能


難易度:★★☆☆☆


やり方・・・・』


このうつす、というのは映す、移す、写すの意味がある。


私が見た人、物、話した言葉を紙に書き写すことができる。ただ、紙の大きさによるので、今回は私が晩餐で会った人物の顔写真を紙に抽出し、それにアリッサが書き込みをしていく、という形を取りたい。


私が本の文字に触っている時は他の人にも文字が読めるようで、二人は興味深く読んでいた。


「・・・わかりました。やはり旦那様にエスコートしていただくしかありませんね。リオ様だけでは危険ですし。」アリッサが言う。


「もとよりそのつもりだ。」ウリセスも言う。


「うん。お願いします。」最初は適当に壁の花になって食事を楽しもうと思っていたけれど、情報を得るためにはウリセスと一緒に行動した方が良い。


「では、化粧直ししますから、旦那様、しばらく退出していだだけますか。」アリッサがそう言うとウリセスは始まる前に迎えにくると言い、部屋を出て行った。




「はーーーーーーーーーーーーっ・・・」アリッサだけしかいないので、長椅子に横になる。

「リオ様!ドレスが!」アリッサが直すからいいじゃないの。


「つっ・・・かれた・・・。」慣れない靴は疲れる。『黒の総本』をぱらぱらめくりながら使えそうなものを探す。


・・・・レベルが低いって大変。どうやって犯人を特定しようか。


「リオ様、やはり本を置いていかれませんか?ダンスで邪魔になりますし・・・」アリッサが言う。


「ダンス?」できるわけがない。というか、そんなものしない。


「よろしければ私がお預かりしても・・」


「アリッサ。」私は起き上がる。そして本を閉じて、また胸とドレスの間に入れる。


「リオ様!」


「アリッサ、彼女はどうなったの?」


「リオ様?」


「使用人の、私を襲った彼女。どうなったの?」アリッサが目を見開く。それから、うつむいて答えた。


「・・・亡くなりました・・」やっぱり。『媒体』として彼女が黒の術に使われたのだとすれば、何の『犠牲』も無しに終わるはずがない。


私が『吸収』した瞬間、黒の術と彼女を繋いでいた『糸』が切れ、彼女の命は失われた。憶測ではあったけれど、この『術』は代償を伴う。


「アリッサ。私はあなたを失いたくないわ。だから、本は私が持ちます。それから・・・」アリッサの額に人差し指を当てる。


「リオ様?」


「我は黒。黒を統べる者。正しき色の継承者にして唯一の契約者成り、我が名は杉崎璃桜、我が命を許諾せよ。『反射』。」じんわり、指先から熱が広がる。


「えっ・・」アリッサが驚く。私は指を離すと胸の本に手をやる。どうやら、本を触らずとも『黒の術』は使えるようだ。それとも、肌身につけているから使えるのか。


「アリッサの内側に術をかけました。あなたが『黒の術』をかけられたとしても、それを跳ね返す術です。ただし、一度きり。」


「リオ様。」アリッサが目を見開く。


「これで、私は安心して晩餐に出られるわ。」できることなら、あの屋敷の人たちには施したい術なのだけど。今は無理だから。


「それにしても、台詞が長いのは難点だわ・・・改良できないかしら。」これではもし襲われても攻撃どころか防ぐこともできない。


私が再び長椅子に寝そべると、今度はアリッサは何も言わなかった。ただ、一度だけ深く頭を下げると部屋を出て行った。



「これくらい・・・いいよね・・・。」優しさではない。ただ、目の前で人が死ぬのが嫌なだけ。ウリセスもアリッサも、とてもよくしてくれる。信じるに値する人たちだとは思う。けれど、やっぱり信じきれない。私も、きっと彼らも。


『黒の総本』が無ければ私はただの人。何もできない。きっと『黒の術師』でなければ価値は無いんだろう。彼らにとっても。


「『黒の術師』って何だろう・・・」何度目かになる独白に答える声は無くて。


ドレスの下の固い感触をなぞり、目を閉じた。





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