言質。
想像と違う。
まぁ、赤い絨毯があるとは思いませんでしたが。
褒章はメダルのようなものを貰うのかと思っていたらそうではなく、トロフィーに似た置物(小)だった。ちらりと、見せられ後に渡されるらしい。
想像と違うと言ったのは、閲見の間が少し想像と違ったのだった。
晩餐に参加する諸侯ー五大候と、大臣を総括する万臣、トロフィーを準備した小姓っぽい少年と、王様らしきキラキラと、王太子。そして、宮廷術師と、ざっと見た限りはそれだけの人がこの広間にいた。
そして私の隣には、
「ヒューザード、それが『黒の術師』か?」王らしき人が椅子から声をかける。
「左様でございます。」ウリセスはヒューザードと呼ばれているらしい。
私は視線をウリセスから王様へ移す。
彼らは、円卓にーいや、円形に並んだ椅子に座っていた。それぞれが随分贅を尽くした椅子なのだろう。一つとして同じ椅子は無かったが、王の椅子だけは特別大きかった。
アドイ・ナユでは、議会制度がある。王様はいれど、王政ではないのだ。だからといって王家の人間が議会に入れないことはなく、議員となることもできるらしい。
だからなのか、王が国の象徴であり、尊ばれるのは同じようだが、壇上の上ではなく、同じ床の上の椅子に座っているようだ。
そして、気になるのが、一番近くの空いている椅子。
ここに、座れということだろうか?
この光景を見て一つだけ思い出したのは、アリッサの言葉。
『王宮では王の下に集う、という意味で円形に椅子が並べられています。』
つまり、ここに座れば王宮の一員ということになる。
何だか、あやしいよね?
「リオ、この度は我が将来の妃を救ってくれたこと、礼を言う。」キラキラ王太子ーエセルバードが言う。
他にも形式的に五大候の名乗りなどがあったけど、一度に長いカタカナの羅列を覚えられるわけがないので割愛。
「どうした?リオとやら、座らぬのか?」王様は、王太子に似て美丈夫で、美中年で、ロマンスグレーで、ワイルドな笑みを浮かべていらっしゃるけれど。
ますます怪しい。その、肉食獣のような笑みは何なんですか。
ウリセスを一度見る。
彼は何も言わない。言わないが、目が何かを訴えている。
椅子は二つ。このまま行けばウリセスと共に座るのが正しいのかもしれない。でも、ウリセスが先に座らないということは何かあるのだ。けれど、長く躊躇もしていられない。
全員の視線が集まっている。何故?そんなにも強い視線なのか。
この椅子に座ると私に何かが起こる、つまりそういうこと?
私は声が震えないように腹に力を入れた。
「おそれながら申し上げます。この椅子は私には重すぎるようです。よろしければ、このまま進めていただけますか。」
ざわり、と空気が動いた。
「・・・なるほど、『黒の術師』か。」王は笑ったようだった。
「だから面白いと申しました。」エセルバードはそんなことを言う。
うわ、やっぱり何かあったよ!ただの椅子なのに!
「この者は本当に『黒の術師』なのですか。」右から三番目のおじさんがそんなことを言う。
「『宮廷術師』が目撃しました。間違いございません。」シュベールが心外だ、とでも言うような強さで言う。
それでもいくらか他にも同じような呟きが出たので、エセルバードが笑う。
相変わらずキラキラです。でも離れているので効果が薄くて良かった。
「では父上、こうしたらいかがでしょう?リオにこの度の犯人を捜させる、というのは?」
はい?
「それは良い。『黒の術』は『黒の術師』でしか見えぬ。リオ・・・そなたが犯人ではないと私に証明できるか?」王が言う。
「!?」ちょっと待て。
私、疑われてる!?
いやいや、落ち着こう。
「どういう、ことでしょうか。」慎重に、慎重に。
「リオ、君がセラフィナを救ったことは証人がいるから、疑いようがない。だが、セラフィナに『黒の術』をかけたのが君でないという証拠は無い。君でないというのなら、犯人はまだ投獄もされずにいるということになる。」
エセルバードの属性はSだ。絶対Sだ。チェシャ猫のようににやりと目が楽しげに笑っている。
「つまり、無実を証明するために、真犯人を見つけろ・・と?」
「そう。だが、こちらも君をただ疑うことはすまい。この件が解決したなら、君の望む褒美を取らせよう。」今度は王が言う。
「望むもの・・・何でも、ですか?」
「私たちにできることであれば、だね。」
私は探偵でも、警察でもないのだけど。これって、選べません。
「わかりました。それでは、私はその犯人を見つけます。そして、報告をする。それでよろしいですか。」そう。見つけるまでね。変なバトルとかは期待しないで。本当に。頼むから。
「結構。言質は取った。」エセルバードが言うと五大候に緊張が走る。
「私が彼女につきましょう。証人に。」そう言ったのは女性だった。一言で言えば、キャリアウーマン。美人です。非常に。
「おいおい、王宮をもぬけの殻にするのか。」そう言ったのは『宮廷術師』シュベール。
「同じ女ならば常に一緒に居られますから、彼女が不正をする心配はなくなります。それに、『黒の術師』相手に通常の騎士では不足。」笑う顔は自信に溢れている。
「殿下、よろしいですか。」シュベールは困った顔をして言う。
「・・・仕方あるまい。ヒューザードの監視はここからやれ。」エセルバードはふっと笑いながら言う。
「・・それって俺が大変なんですけどね・・・まぁ、いいでしょう。」シュベールはぶつぶつ呟いていたが、納得したようだ。
「それではリオ・・・」
「その前に、陛下、お言葉をいだだけますか。」私は言う。
「何だね?」うん、獅子だな。王様は獅子決定。そんな顔だ。
「褒美は、私の望むものを陛下にいただける、と確約ください。」書類をおこした方が確実だろうが、この人たちは多分別だろう。
言質というのなら。
「なんと・・!」
「生意気な・・」
などと囁かれたが、無視。だって、この場で約束したとして私には制限が加わるかもしれないのに、そちらは口約束ですなんて言いかねないでしょう?
「かまわない。・・我が名に於いて、犯人が確定または捕縛された場合、リオの望む褒美を取らせる。我が出来うる限りに於いて。・・・これで良いか?」
「父上!」エセルバードが声を上げる。と同時にその他大勢の皆様からもブーイングの嵐です。すごいです。何でしょうこれ。
「ありがとうございます。できれば、『黒の術師』とお呼びください。」
「・・・わかった。『黒の術師』の望むものを取らせる。ただしーー見つけられない場合は『黒の術師』の身柄は王宮にて預かりとする。」にやり、と王が笑う。
「!」調子に乗りすぎた。
「期限は一週間。いかがかな?」王様、肉食獣化が激しいです。
「・・・・わかりました。」
「リオ!」隣から悲鳴が出る。うん。わかってるって。わかってるのよ。
「さあ、言質は取ったぞ。リオ、明日から一週間で見つけられるかい?」王は何だか楽しそうだ。
私はあんまり楽しくないのだけど。
「善処します。」とりあえず、不適に笑い返してみた。
できたかどうかは、自信が無いけれど。