幕間 彼女は何なのか ウリセス視点
アリッサが上機嫌なのは珍しい。
リオに仕えろとは言わなかったが、深夜に帰宅した際、ちょうどアリッサが夜勤で屋敷に残っていて、その時会った彼女の姿にいたく感銘を受けたようだった。
リオが無一文ー先に街へ行った仲間が持ち合わせているらしいーとわかったため、アリッサに彼女の服を頼んだ。
彼女は、こと衣類に関して言えばアリッサはその右に出るものがいないほどの執拗さで偏愛している。数少ないリオとのやりとりでリオにぴったりのドレスを作り出す。
リオをほって何をしているかと思えば、専用の部屋で布を裁断していた。それにしてもまだ自己紹介もしていないという。彼女も特に気にかけないようだったから良いが、
「だって・・・旦那様・・・あんなに弄りがいのある素材は久しぶりで・・・うぇへへへへ・・・・」アリッサ、よだれが出ているぞ。
どうやら、色んなものが振り切れたため素面でいれる時間が少ないのだと言う。よくはわからないが。
リオには感謝してもしきれない。数少ない我が同胞ー我が妹を救ってくれた。
黒の術は我らにはわからない。リオが黒の術を使う瞬間だけ我らにも具現化される。だからこそ、存在するのだとわかったが、そうでなければリオもあの時に捕らえていただろう。
ミリィはいい子だった。
いつから黒の術の『媒体』となってしまったのか。彼女に何かの接触があるとすれば、10日前の妃候補の発表からだ。
あの日、セラフィナと共に王宮へ上がった者たちの中にミリィもいた。
ならばあの時に何者かが彼女を『媒体』としたのだ。
黒の術は犠牲さえあれば誰にでも使うことができる。それを支配することができるのが『黒の術師』。
とはいえ、黒の術に関する記述は王宮でも禁書。誰かが閲覧していれば必ずわかるはずだが。
アリッサが力説するだけあってリオのドレス姿は可愛らしかった。食事姿も愛らしい。
私の中の精霊である部分が、リオに惹き付けられる。
年甲斐もなく高鳴る鼓動に驚いていたら、リオが説明を欲しがった。
この馬車でもシュベールの目がある。奴は私の監視役。腐れ縁でもあるが、仕事と私情を混同はしない。冷酷な魔法使いでもあり、戦ったら無傷ではいられぬだろう。
限られた制約の中での情報しかリオには伝えられぬ。せめてリオが精霊術を使えれば良いのだが。
王宮につけばすぐに手続きをしなくてはならなかった。そして、一度シュベールも魔法使いの統括へと顔を出さなければならない。
その時がチャンスだった。
言質。
それが王家が持つ最大の力。
彼ら以上の優れた魔法使い、精霊使いはいくらでもいたが、彼らが彼らたる所以はまさにその力につきる。
そうでなければ80年も仕えたりはしない。
リオにそれだけは伝えなくては、と思う私と、伝えるべきか迷う私がいた。
リオが『黒の術師』なのは間違いない。王家は彼女を取り込みにかかるだろう。何者にも屈しない『黒の術師』が欲しいのはこの国だけではない。
リオに私のようになって欲しくはなかった。
けれど、それと同時にひどく甘い毒が私に囁く。
この国に束縛されたのなら、リオと会う機会が増えるのだと。
今はまだ我が屋敷に滞在しているが、王家に束縛された後には宮廷へ身柄を拘束されるだろう。
なんとも緩慢な甘さが身体に広がる。
「愚かな・・」浮かんだ幻想を消すとリオの部屋へと急いだ。
「ウリセスさん?」リオが怪訝な顔をしている。早く答えなくては。
予想以上の衝撃だった。
今では御伽噺となりつつある属性色のドレス。人間がもてはやし流行らせたそれ。
深い青色のドレスに身を包んだリオは昼間のそれと異なり、色めいていた。
それが自分の色だと思うと、まるでリオを蹂躙しすべて私の色に染めたかのような錯覚に陥る。
ただ一言を告げるのに、どれほどの力が必要だったか。
リオは私の色を受け入れてくれたのか。それとも、単に定説としてー常識的に身につけてくれているだけなのか。
聞けはしなかったが。
リオという存在はいつの間にか私の中に入ってきている。
それを否定しようとする私と歓迎する私が混在する。
だがリオが何者であれ、私にとって、何であれ。
私はリオを守るだろう。
この先の、彼女が行く戦場で。
アリッサ大好きです。変態なところが。(笑)※一部文字を直しました。