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色の意味。

「完璧です・・・・!」アリッサの感極まった声がする。


綺麗な顔が涙目を浮かべている。

いろんな意味で残念なーいや、ヨアキムの妹だと思わせる。


正しく理解したのは、この子が使用人ではないということかしら。


腰が痛くなるくらい馬車に揺られ、ついた先でまた着替えるという面倒な行為が終わったのは、16時ごろ。


いい加減疲れたので、一人にしてもらい窓際の長椅子に腰掛け、外を眺める。


「解せない。」


私はぽつりとつぶやいた。




道すがら説明されたのは、これからのこと。


王太子の妃候補の命を救ったことによる褒章が与えられるらしいのだけど、それにしても何だか様子が変。


褒章って売り払ったら駄目だろうか。昔、親族にそういうものを貰った人がいたのだけど、それを頂くために旅費と服を調達するため親戚に借金までして行ったというような事があり、まったく無駄としか思えなくて、それならば褒章を作る分のお金を渡してあげた方がその人のためになるのに、とは思った。


ウリセスは制約はあるものの、特定の事柄については屋敷から外へ出ることも可能なのだそうな。よくわからない。


そして、セラフィナさんのことだけど。


「良かった・・・」無事回復しているらしい。10日間寝込んでいた所為で、少し衰弱してはいるが、意識ははっきりしていて私にお礼を言って欲しいとのことだった。


身の保証については問題ないと言われたけれど納得していない。一筆書いてもらうくらいしなければ安心はできないし、書いてもらったところで何処まで有効なのだろうか。



どうでもいい情報としては、私の今のドレスは、紫から深い青に変わっている。どうも、夕方の晩餐に合わせての衣装らしく、アリッサが迷いに迷ったあげく、ペパーミントグリーンのドレスとこのドレスが残った。


素材は何だかわからないけど、シルクとオーガンジーに見えるものを使用したAラインで、プリンセスというほどスカートの広がりが無いあたりが、ちょっとほっとしている。


オーガンジーを沢山使用しているわりに、スカートのフリルは斜めに付けられているため、甘さを抑えた感じに・・・。ってドレスの解説は別にいいか。


髪は生え際をごまかすようにまとめ髪にされて、リボンや花がついている。ヒールはそれほど高いものではなかったので良かった。汚れた私の靴はこの何日かの間に綺麗に手入れをした。自分でやりました。お気に入りですから。


「何のために私を呼んだの・・・?」呟くと、膝の上に置いた『黒の総本』が淡く光る。


ついに本が光るようになった。もう、この際この本に関してはいちいち驚かなくなってきた。何故だか親しみやすくなってきた、とも言う。


『王家の力は言質。


黒は何者にも束縛されず


けれど言質を取られれば


鳥となる


飛べない鳥はすべてを呪う』


「もう少し、気の効いた言葉とかないのかしら。王家の力?・・・言質って、それで私が何か不利になるというの?」


本からの返事はない。


そこでノックがして、ウリセスが少し焦ったように入って来る。


「ウリセスさん?」


彼は一度私を見て目を見開き、視線を逸らした。様子が変なので、私は窓際から入り口へ移動する。


「どうかしましたか。」ウリセスは近づく私の肩を掴むと、耳元で囁いた。


「言質を取られないよう。」それだけ言うと、また部屋から出て行った。




何です、あれ。


様子がおかしかった。

まるで何かー誰かに追われているのか、しきりに外を気にしていた。部屋を出る時も廊下を伺い、かなり慎重に出て行った。


どういう事。


そこでノックがまたして、例の『宮廷術師』が現れる。


「おや、ウリセスはこちらでは?」


「・・・いいえ?どうかしたんですか。」


「・・ああ、居ないなら良いんです。それにしても・・・」そう言って『宮廷術師』は私をじろじろ見る。


「・・・何ですか。」失礼だな、この男は。


「あ?もしかして・・・知らないのか?」


「何をです。」


「へぇ。そう。そのドレスはウリセスが選んだのかい?」


「いいえ?アリッサです。」後で述べるが、アリッサは筋金入りのドレスマニアだ。コーディネイトすることに命をかけているに等しい。最終的に青を選んだのは私だが、二つに絞るまでにアリッサが百面相をしながら私に合わせていたのは記憶に新しい。


「ふぅん。そう。」


「何なんですか。何かおかしいですか!?」少し語尾が荒くなったのも許して欲しい。ぶしつけに見られてにやにや笑われるような男に対する礼儀は持ち合わせていない。


「別に。では失礼した。」そう言って『宮廷術師』が去って行く。


一体何なんだ。


アリッサを呼んでみる。


「リオ様どうしました?着心地がおかしいですか?」・・・最初に心配するのはそこなのかしら。


「様は要らない。アリッサは使用人じゃないんでしょう?早く教えてくれればよかったのに・・・」そう。アリッサは使用人ではなかった。


正確に言えば、あの屋敷で働いている人間すべてが私の認識していた小間使いとは異なるのだった。


確かに、雇われているのはウリセスに雇われているのだという。けれど、彼らはウリセスにとって家族同然なのだそうだ。


というのも、ウリセスのようなはみだし者ー精霊と人間の間で何らかの痛い経験をした者があそこに流れ着く。


精霊の血統は知らないが、彼らはすべてウリセスに繋がる者だという。そのあたりも深く聞くと長くなりそうだったので聞いていない。


アリッサの場合、胡桃色の髪に緑の瞳だから、多分風の属性なんだろう。


「『宮廷術師』様が?ああ、あの方ーシュベール様は、ウリセス様の監視役も兼ねています。だからいつものようにウリセス様にまかれて、追いかけているのでしょう。」いつものことですから、とアリッサは言う。大分砕けた口調になってきた。


使用人ではないが使用人の仕事をしているアリッサ、使用人を雇わないのかと聞けば、


化物のそばに近づく人間は多くない、とのこと。


「化物って・・・ウリセスさんが?」アリッサは会話の途中でもドレスを直したりヘッドセットの調子を見たりしている。・・・このドレスフェチめ。


「私から見たら、人間のほうがよほど酷いですけどね。疎まれているんですよ。ほら、大抵の人が面倒ごととは無縁の人生を送りたい、と思いますでしょう?」


「まぁ、確かに。」思いっきり巻き込まれているような気はするが。


「それで、シュベール様なら多分言うと思いましたけど、リオ様のドレスの色のことですよ。」アリッサは立ち上がるとにっこり笑う。


「・・ドレスの色って?」そこで、アリッサが驚きに目を見開き、『信じられない』みたいな顔をしてこちらを見る。・・・心の読みやすい子だ。


「リオ様、私、お聞きしましたよね。どちらの色がいいですかって。」アリッサがおそるおそる聞く。


いや、何その低姿勢、別に怒らないから言ってごらん。


「だって、夜でしょう。どちらでも良かったけど、こちらの方が・・・アリッサ?」アリッサの目が泳ぐ。


「・・・リオ様。落ち着いて、聞いてくださいませんか。」落ち着いてないのはアリッサの方だけど。


「何。何かおかしいの?」


「いいえ、これ以上なくお似合いです。完璧です。私のコーディネイトに間違いは・・・」興奮しているのか顔が赤い。


「わかった。それで?」


「あーーー・・・。人間ではあまり意識しないんでしょうけど。・・というかこの程度のことは子供が騒ぐ範疇で、その・・・」


「アリッサ。はっきりして。」


「つまり。何ていうか。通常、夜会とかでドレスを男性から贈る場合、自分の属性の色を送るんですよ。それで、それを受け取ったら女性も両思いっていうか・・・あ、あ、あの、リ、リ、リオ様!?」


「このドレスは・・・誰が。」自分の声が低くなったのがわかる。


「もちろん。お財布はウリセス様です。エクセレントで金に糸目をつけない私の雇い主です。」


確かに。


確かに、私は選びました。この青を。


ウリセスの瞳の色を。


「あの、一般論ていうか、マナーっていうか、社交辞令っていうか、ああ、なんて言うか。」アリッサがわたわたしている。


「ぬ・・」


「脱げません!脱がせません!嫌です。お願いします、リオ様ー!!」アリッサに泣きつかれた。


恥ずかしくて、死ぬ。


間違いなく誤解された。


ウリセス、しっかり意味わかってるんじゃないの。そして社交辞令っていいつつ、何あの態度どうなの!?嫌なら嫌だってあの時教えてくれてもよかったんじゃないの!?


「で、で、で、でも、でも、これから敵が多いですから、この色を纏っていた方が何かと・・・」



「敵?」そこで、我に帰る。


「・・・はい。ウリセスー旦那様の敵はとても多い。けれど、それは皆様があの方の力を恐れているからなんです。この色を纏う限り、リオ様に危険はありません。」そうきっぱり言い切るアリッサは強かった。


そこまで言わせるウリセスは、よほど強いのだろうか?力って何だろう。そういえば、私は彼のことを出自以外ほとんど知らない。


知る必要もないと思っていたから。けれど。


『言質を取られるな』


警告は、誰のため?


「・・・わかったわ・・・」私はふぅと息を吐くと、アリッサを見た。


「一つ、お願いがあるのだけど。」胸の中でもやもやしていたものが、少し解決したような気がした。


警告は無駄にはしない。

・・・もう少し軽い話しのはずなのに(笑)

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