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全盲の配達員  作者: 齋藤
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0章 プロローグ

 Tは目が見えない。

 数年前に、不慮の事故で完全に視力を失った。28の時だった。


 泣いても、喚いても、目が見えるようにはならなかった。ずっと、ずっと『無い』ままだった。どうしたって、Tの世界に景色は無かった。


 まぶたを開いているのに、閉じているみたいだった。不思議な感覚だった。

 事故から数年が経って、今では慣れてしまった。


 悲しくもない。

 不便はあるが、誤魔化せるものだった。だから、大丈夫。大丈夫なのだ。


 メガネの形をした小型カメラとそれに搭載されたAI。カメラに写った情報は合成音声で読み上げられ、骨伝導でTの耳に伝えられる。


 時計。8時。青空。棚。写真。男。男。廊下。壁。壁。壁。壁。


「あぶな……」


 気を抜くとなんでもないところでコケるしぶつかる。

 家の中で壁にぶつかって怪我しました、とか笑えない。また入院生活をすることになれば、今度こそクビだ。全盲の転職活動なんて、苦労するに決まっている。


 だから、Tは今の職場にしがみつかなくてはいけない。何が何でも、郵便局に努め続けなくてはならない。


 例え、職場が悪夢の場所だったとしても。

 Tは配達を続けるのだ。

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