第4話:勇者を背後からプロデュース
城内は、貴族や使用人が逃げ惑っていた。
騎士や兵士は、逃げる流れが途切れぬために右往左往している。
それを横目に、俺と勇者の二人は、窓から出ることでそれを回避する。
「惺くん、こっち見ないで」
「み、見ないよ」
俺、惺、紫の順で出たため、惺がドレス姿の紫が窓から出るところを見たようだった。
「お二人は仲がよろしいのですね」
「幼馴染です。家が隣だったので」
「ほほえましいですね」俺は知ってたけどね。
人ごみを避けて、破壊された城壁が見えたところで足を止めた。
城壁内で立ち上がった、魔物は人型で、ゴーレムに近い存在のようだ。
石造りのような堅固な身体に、無骨な手足がついている。音速を超えて飛んできたのか灼熱を帯びていた身体はまだ燻っていた。
「大きい…」紫が怯えて一歩下がる。
15メートルと言えば5階建てのビルに相当する。普通に見上げる高さだ。怯えても無理はない。
砲兵部隊の攻城砲が引き出され、砲身を魔物に向けている。
魔術師部隊はまだ招集中のようで姿がない。
「まるで怪獣映画だ、逆に現実感が沸かない」
惺が呟く。
ドォーン、ドォーンと砲撃が始まった。
計八門の一斉攻撃が魔物に突き刺さる。撃った攻城砲と、着弾した魔物が煙に包まれる。
しかし煙が晴れても、魔物に変わった様子は見て取れない。
音速を超えて城壁を破壊し、地面に激突しても無傷なやつだ。城壁に穴をあけられる砲撃であっても無理なのだろうか?
これでは城にいる魔術師部隊では、手も足も出ない…
致し方ない…
俺は勇者に向き直る。
「紫さん、お願いがあります。あなたの勇者の力。暴風の魔法であいつを城壁外に吹き飛ばしてくださ」
「え、ええ!?」
「私が、詠唱補助致します」
「は、はい」
「いきますよ、私と同じように唱えてください」
俺は紫の背後に立つと、耳元で囁く。
「ひゃん」
紫は、俺の呼気が耳に掛かったか、ビクッとして変な声を出す。紫は相変わらず耳が弱いんだな。
「我が友たる風よ…」
「わがともたるかぜよ」
「留まらぬ風よ…」
「とどらぬかぜよ」
大気が震え始め、足下から風が流れ始める。
「集い重なりて暴風を形ちなせ…」
「つどいかさなりてぼうふうをかたちなせ」
「「我の前の敵を吹きとばせ」」
声が重なる、紫自身の頭に浮かんだのだろう。
《ストーム》
解き放つ言葉を放つと、周囲の風が重なり猛烈な風を巻き起こす。その風に更に風が纏いつき大きなうねりと化し、魔物に襲いかかる。
壊された城壁の方角は城下町がなく、丘の上に立つ城から、切り立った崖のようになっている。
魔物は風に抵抗するものの、抗しきれず。残っていた城壁と共に、吹き飛ばされる。
「惺さん、続けてあなたの力を貸して!」
俺は惺の手を取ると、魔物を飛ばした崖の縁まで走る。崖の高さもあり、城から一キロ弱は吹き飛ばせたようだ。
「惺さん、私に合わせて!」
紫のときと同じように背後に……無理…前が見えないので横に立つ。
「宙に瞬く星々よ…」
「そらにまたたくほしぼしよ」
「我が道を示す星々よ…」
「わがみちをしめすほしぼしよ」
「「我が前に立ちはだかるモノを」」
「「尽く破壊せよ」」
《コメットスター》
暴風の比ではない大気の震えが襲う。
宙より赤い光が瞬き次第に月を飲み込む。
地にある石や岩が舞い上がり、気圧まで変わったかのような耳鳴りがする。
月を隠した赤い星が、魔物に向かって降り注ぐ。
全てのものが跳ね上がり、圧縮された空気と熱が襲いくる。
《セイントウォール》
俺は、言葉を紡ぎ、聖なるバリアを張ってそれを防いだ。
***
夜が明け、魔物のいた場所を、エドリック王子と騎士、勇者と共に訪れる。
水のない湖のような大きなクレーターができていた。
「これを私たちが?」
紫が口元を手で隠し驚いている。
「勇者様たちのお陰で助かりました、まあ、大地の揺れで倒壊した家が多数、インフラも壊れましたが…
死者はいませんし。勇者様の力が示せたので問題ありません」
王子が青い顔をして報告してくれた。
実際は、紫の魔法は少し発動しただけ。惺の魔法は良いところまでいったが発動しなかった。
では何故、魔法で倒せたかと言うと俺の力だ。
俺は15年前にこの世界で生を受けた。だが、俺には前世の記憶があった、しがないサラリーマンの記憶。そしてこの世界で勇者をしていた記憶。俺はステラフィールに召喚された桐城惺なのだ。
この世界で勇者となり元の世界で平凡なサラリーマンになった。
平凡なサラリーマンだった俺は、この世界で、聖女になっていたんだ。
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