第3話:聖女の涙
上手く王に乗せられたんだろうなー。
それが解るだけに余計に腹が立つ。
俺は、宴の会場に入った。
綺羅びやかな大広間に、楽隊の音楽が流れ。重臣たる貴族で賑わっている。
勇者は一際人集りの多い場所にいた。
今の俺はパーティドレスに身を包んでいる。神職ではあるが高位貴族の令嬢でもある。法衣ではこういう場に似つかわしくなく、周りの興を削いでしまうのを避けた結果だ。
「勇者様。宴は如何ですか?」
俺は男子高生と女子高生が一緒の場に足を向けた。勇者も貴族の華美な服を着せられ、女子高生は俺と同じ様にパーティドレスだった。
「名乗りが遅れました。この国の大聖女を務めさせて頂いている。ステラフィールと申します」そう言ってカーテシーで挨拶をする。
「先程のシスターさん」
「僕の名は、桐城惺です」
「私は、卯月紫です」
「宜しくお願いします」
俺が微笑むと少しだけ、緊張が緩んだみたいだ。美少女スキルは絶大だ。
「少し話しませんか?」
「はい、説明を受けたいと思ってました」
「ここは…この世界の情勢や、何故呼ばれたかなど教えて下さい」
「そうですね…この世界には、まだ名前がありません。国の名前はラフィール王国。大陸の中で最も大きな国です」
「どのくらいの大きさですか?」惺が身を乗り出す。
俺はここで一拍置いた。
「ユーラシア大陸と同じくらい」
「…今、何て?」惺の眉が寄った。
「ユーラシア、大陸」 惺と紫が顔を見合わせる。
「おかしい…なぜあなたが僕たちの世界の地名を…」
「文明レベルはどうなんですか?」
紫が惺の言葉を遮るように尋ねた。
不安そうに俺を見ている。
「まだ宗教観が強く、地動説が被支配階級では信じられています。
文明は貴方の世界の18世紀くらいです」
「じゅ、18世紀!?」紫が手を口元に驚く。
「産業革命前くらいです。魔物の脅威。王権の強さからここでは産業革命は起こらないでしょう」
勇者の二人は目を白黒させた。
「待ってください」 惺が両手を前に出して制止のジェスチャーをした。
「な、なぜ貴方は僕たちの歴史を知っているんですか…」
俺は惺の質問に笑顔だけ返し、後を続ける。
「この世界には神がいます。そして悪魔や魔神、魔王も。
魔族の国は、東方にあり。
人間の国は同盟や、連合を作りそれに対抗していますが…逐次攻め込まれ領土を失っています。
私が生まれてからでも10の国が飲み込まれました。
魔族の概念は…あなた方の想像とそうはかけ離れていないと思います」
惺は俺を睨みつけているが、俺は続ける。
「魔族は元々はこの世界には居ませんでした。扉と言われる場所の先にいる存在でした。
しかし、欲にかられた人たちが開いてしまった…
私たちだけの力では近づくこともできず、神の力を授かった勇者様に扉を閉じて頂きたいのです」
「なんで、神様がいるというのにわざわざ勇者を?」
紫が聞いてくる。
「神は、超常の存在です。人間がいなくなっても気には止めません。やり直せば良いくらいに思われている…と私は思っています」
「やり直す?」
「言いすぎました。神は人間への試練と捉えているのかも知れません」
「試練ですか…」
「なにより神は、実体を持たないため直接あの扉は閉められません。そのため、私たちが願ったときに勇者という存在を遣わせて下さるのです」
ここで、メイドが運んできたワイングラスを取り、お辞儀を返すと口に含ませる。
「人が扉を開けてしまって、勇者が閉じる…その繰り返しをこの世界では、記憶が伝説になる歳月ごとに何度も繰り返されています。愚かな話です」
「ステラフィールさん、貴方の言い方は、人間側に立っていないように聞こえるのですが…」
俺は驚いた…
「私は、人間です、悲しくも人間側で試される側です」
「ステラフィールさん。泣かれているのですか?」
紫が心配そうに近寄る。
ああ、俺は涙を…
(俺にとっては、この戦いは二度目だ、いい加減悲しくなる)
「わかりました。どこまでお役に立てるかわかりませんが。この勇者の力使わせて頂きます」
惺が俺に向かって意思のこもった目でそう言ってくれた。
意図して流した涙ではなかったが、美少女の涙。恐るべし。
「私も、惺くんと同じです。たぶん惺くんについて行くだけですけど…」
「ありがとうございます」
俺は二人の手をとって深々と頭を垂れた。
「何々?何を話てんの?」
茶髪がやってきた。
「おほ、シスターちゃんじゃない。やっぱ良いなお前。どうよ俺のものになれよ、そうすれば戦ってやるよ」
そう言って、俺の腕を掴む。
「痛いです」
「迅さん止めてあげてください」
「おや、桐城ちゃん、可愛い女の子に囲まれて気が大きくなっちゃった?」
「そんなんじゃないです。ステラフィールさんが嫌がってます。
あなたはあちらで貴族のお嬢さんと楽しそうに歓談してたじゃないですか」
「なんか、美人さんなんだけど彫りが深すぎて趣味じゃないんだわ。このシスターちゃんは丁度いい感じなんだよな。外人ぽいのと日本人っぽい感じが混ざってて」
と、俺に顔を近づけてくる。
「きみ、勇者だからって大聖女様に失礼だろう」
俺が、魔法で吹っ飛ばそうかと思ったところで、茶髪の肩に手が置かれた。
「なんだ、てめえ」
第21王子、17歳だ、ひ孫までいるのに王様頑張りすぎ…
茶髪のアイドル然とした容姿が王子によって霞む。
王子はトップブリーダーよろしく、美人で名高い第8王妃の子だけあって、ビジュアルに優れた王子だ。武芸も秀でると聞いている。惜しむらくは王位継承権があってないような順位なことだろうか。まあ貴族位貰って分家になるんだろうな。
王子の周りには甲冑は着ないが帯剣した護衛が幾人も付いている。
茶髪が凄んでも、戦経験のない今は、たとえ勇者であっても手も足も出ないだろう。
それくらいは分かる知恵があるのか、悪態をついて離れていった。
「大丈夫でしたか?ステラフィール様」
「エドリック殿下。ありがとうございました。助かりました」
「貴方のお役に立てたなら至上の喜びです」
と言って、俺の手の甲にキスしてくる。
こいつ、怖いことに俺に気がありそうなんだよな。やだやだ。
そんなことを思ったそのとき、大広間が一瞬だけ震えた。
何が起きたのか誰も理解できない。
──そして遅れて、ドガァァァァン!
壁の向こうから爆ぜるような轟音が押し寄せた。広間のシャンデリアが何箇所か落ち、下敷きになった人もいるみたいで悲鳴も聞こえる。
ベランダに駆け寄ると、破壊された城壁に大きな岩のような何かが煙を上げて蠢いていた、表面には灼熱した跡が見え、暗闇に赤い軌跡を浮かび上がらせる。
「なんだ、あれは」
「魔物か?」
「でかい」
「う、動くぞ…立つのか?」
岩が煙を吹き出しつつ、手をらしきものを膝らしきものにつけてゆっくり立ち上がる。
大きい十五メートルある城壁を超えている。
「戦えないものは避難を、魔術師部隊と、砲兵部隊は至急応戦体勢を取ってください!」
俺は声を張り上げ指示を出す。
もっとも軍事関係者ではないので、途中で却下される可能性もある。
「大聖女様の命令だ、みんな配置につけ!」
あれは軍務卿。あはは、通っちゃった。
「勇者様はお逃げください!」
「ステラフィールさんはどうされるのですか?」
「私は、現場に向かいます」
「…なら、ついて行かせてください」
「危険ですよ…」
「どうせ、あんなのと戦うことになるんですよね?怯んでても仕方ありません」
俺は、惺に強い意思を感じた。
「わかりました来てください、紫さんはお逃げいただいても…」
「いえ、私も連れて行ってください」
問い返すことをせずに、三人で頷きあった。
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