第1話:勇者召喚
俺は、かつて勇者だった。
――なんて言っても、誰も信じないだろう。
(中二のお病気?といわれるだけだ)
今の俺はただのサラリーマンだ。
二時間電車に揺られ出社すれば、頭を下げるだけの営業仕事。
今日も契約は取れず、上司に詰められ、取引先に謝罪した。
(……なんで、こうなったんだっけな)
異世界に勇者として召喚され、魔王を倒し異世界を救った
人々から祝福され――
なにより
黄金の髪の聖女が、涙を流して俺に感謝してくれた。
あれは“夢”なんかじゃない。
確かにあった、俺の――輝いていた時間だ。
――だが。
異世界から戻れば不運続き。
気がつけば三十路も近い。
疲弊した身体を引きずりながら、今日も営業車を走らせている。
(おっと、赤信号だ)
車を停めた瞬間
バックミラーに猛スピードのトラックが映った。
ブレーキ音。
大きな衝撃が俺を潰していく。
――あ、これ死ぬな。
意識を手放す瞬間に想ったのは…
あの世界に戻りたい…
あの、輝いていた時に…
***
俺は、鏡に映る15年付き合った自分の容姿を見る。
黄金色に輝くストレートの長い髪。
切れ長ながら愛嬌のある目。
桜色の唇。
透き通るような白い肌。
整った顔立ち。
誰もが振り向く容姿。
この容姿に俺は覚えがある。
そりゃ自分自身だからだろと言われそうだが、そういう意味じゃない。
これは
あの日、涙を流して俺に感謝してくれた聖女の顔だ。
勇者だった頃に、俺が惚れていた人…
「ステラフィール様、準備いたしますが宜しいでしょうか?」
(そう。大聖女ステラフィール…)
俺が鏡を見ていると、侍女たちが儀典用法衣とストールを持って立っていた。
ここは俺が救った異世界。
(俺は、死ぬとき最後に願った世界に戻ってきた!)
だが…しかし
――鏡に映っているのが今の俺なんだ。
(何故か、ステラに生まれちゃったんだよ。それは俺の願ったのと違うよ!)
「いよいよ異世界の勇者様を召喚し、魔王への反攻を開始するときが来ました。
どんなに待ち焦がれたことか…」
侍女が両手を合わせ俺に期待に満ちたを向けてくる。
「ステラフィール様が、成功されること国民全てが祈っております」
着替えさせられながら、俺は笑顔で答える。
「期待に添えるよう頑張ります」
俺は一瞬視線を下げるとそう返した。
今の俺は教会で生活している。
実家は有数の侯爵家だ。
聖女の才能が見出されたために、教会に押し込まれてしまった。
毒殺されそうになった王様なんか助けるんじゃなかったと、今では後悔している。
今日は数年に一度の星並びの良い日とされ。
国中から何十人もの名だたる聖女や聖人が集められ。
異世界から勇者を召喚する儀式が執り行われる。
その召喚の中心で儀式を行うのは俺。
勇者の旅にも同行することになっている。
(はっきり言って憂鬱だ…)
「ステラフィール様。ご準備は宜しいでしょうか?」
神官が扉の部屋用ノッカーを鳴らすと、そう尋ねてきた。
侍女が扉を開け、神官を中に迎え入れる。
「みなさま、既にお揃いになられています」
「わかりました。参りましょう」
***
長く荘厳な回廊を進む。
神官、修道女、騎士たちが俺が通るのを待ち構え。
通るタイミングで全員が頭を垂れていく。
(うっわ。格式張ったのは嫌いなのに…)
大扉の前に立ち止まると。騎士が観音開きの大扉を押し開く。
俺は中へと足を踏み入れる。
静謐な儀式の間。
法衣姿の女性と男性が左右に二十人づつ並んでいた。
(集めらた聖女や聖人たちだ)
俺はその間を流れるように歩き。
正面の華美な椅子に腰かけた国王を見上げる。
俺は国王に会釈すると国王も同じく頷いた。
「それでは、”召喚の儀”を始めさせていただきます」室内に響く声で俺は宣言をした。
神へ願う儀式召喚である。
集まった聖女、聖人が神へと祈り願う。
俺はその中でも、実際にこの手を異世界へと伸ばし、力の強いものや素養のあるものを手探りで探し、その相手に触れる役目を担う。
見ることが出来ないので難儀だ。
触れられたものは神の力で勇者に加工され、この世界へと召喚されるのだ。
選ばれたものにとって、非常に迷惑なことだろう。
あーでもない、こーでもないと俺は額に汗を浮かべ勇者を探す。
基準に達しない者は、召喚自体されない。
下手すれば次元の隙間に落ちてしまうこともあるとか。流石にそれは寝覚めが悪い。
よし見つけた、これと、これはキープ。
これも良さそうだけど…このくらいだともっと良さそうなのがいそうだ。
一応三人までは選べるが、さっきも言った通り基準に達していなければ召喚されない。
時間がない、時間は聖女と聖人の力に比例する。俺がこうやっている間に、聖女、聖人が倒れてゆき四十人が三人になっている。
召喚中は聖女、聖人の神聖力がガリガリ削られていく。
俺の神聖力も削られていく。
汗で張り付く黄金の髪が、俺の辛さを物語っていた。
(ぐぅぅぅ…血の気が引くのと同じような感覚で身体に力が入らなくなっていく…)
「大聖女ステラフィール…も、もちません。急いで…」
(あああ、やばいーーー)
時間切れは選んだ人数までとなる。
あと一人、あと一人…
「聖女ステラフィール…」
(もう、これでいいや!)
気を失いかけつつも、最後の力を振り絞り神に願う。
「どうか、この者たちをご召喚ください」
そこまで言って膝をつく…
室内は溢れんばかりの光に包まれた。
光が晴れると…男二人、女一人が立っていた。
召喚した相手の顔はとても懐かしい…
(ああ、やっぱり必然だったか)
お読みいただき有難う御座います。
評価・ブックマーク・感想・レビューなどアクション頂けると励みになります。
よろしくお願いします。
***
今作は読み切りで公開していた小説の連載版になります。
加筆修正、話数分割を行わせていただきました。
頑張ります宜しくお願いします。
旧タイトル「かつての勇者(俺)、今度は聖女として『自分自身』を召喚し、接待することになりました」




