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Glory Catcher  作者: 夜桜満
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第2話 再会

 早乙女からの返信から10分が経とうとした時、校舎の方から本城の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。

 低く、響きやすい声に本城は顔を見ずに、やっとお出ましか。と一言言葉を放ち走ってきたであろう人物の方へ向く。


「悪い! オフを満喫しすぎた」


 男は両手を合わせ、許しを乞うようなポーズを取って本城の顔を見た。

 先程も言ったように本城は待たされるのが嫌いな人だ。どんなに謝られたところで彼は許してはくれない。

 それをちゃんとわかってなのか、早乙女はゴソゴソと少し膨れ上がったポケットに手を突っ込み、何かを本城の目の前に出す。


 早乙女の掌の上には、今月に新発売したプロテインバーバニラ味が5本置かれていた。

 アスリート並みに筋肉などに気を使う本城にとっては喉から手が出るほど欲しいものでもある。


「これで許してくれますかね本城さん」

「しょうがねぇな。許してやるよ」

「さすが! 懐が深い男は違うねーあ、浅すぎの間違いか」

「ぶん殴るぞ」


 地面に置いていたバックを左肩で背負い、本城は早乙女の後を着いていく。


 歴史が古い高校とは思えないほど、校舎もグランドも綺麗だった。

 しかし、野球グランドだけは他の綺麗なグランドとは違い、雑草が生えていたり、ちゃんと手入れがされていないのが近づかなくてもわかった。


 その光景を見て本城は溜息をつく。


「俺も雑草抜いたりしてんだけどさ先輩達がやる気なくて」

「まぁ、万年初戦敗退だったらやる気なくすわな」

「けど、2年の先輩はやる気あるんだけどね……上がさぁ」


 弱小校と言っても龍咲高校は学業面ではそこそこよく、上位ぐらいに入るレベルだ。

 それが原因なのか、3年生達は部活に力を入れるというよりも、勉強重視でストレス発散を目的として部活動をしている人が多い。

 野球部の3年生もそれがほとんどだった。


「才能がないなら、別の強みを作らないといい大学には進学できないからな。3年はそれをわかってんだよ」


 本城には分からない世界だった。

 野球も勉強も人よりもできてしまう彼は、なにかに本気になるという事は少なかった。

 唯一、野球だけに彼は全てを捧げ、天才だからという言い訳をつくことなく、練習を続けた。

 だから、野球よりも優先すべきことがある。という人の言い分が分からなかった。


「俺も1年だし、しっかりやれよなんて言える立場じゃないからさ」

「グランドに立ったら歳の違いなんて関係ねぇよ。上手いやつが物事を決められるんだからさ」


 そう言う本城の顔をまじまじと早乙女は見つめ、

 笑う。

 急に人の顔を見て笑い出した早乙女に対し、本城はじっと睨みつけた。

 その目は、「笑ってんじゃねぇよ」と言わんばかりだった。


「悪い……ただ相変わらずだなぁってよ」

「だからって笑いすぎだ」


 まだ笑い続ける早乙女の尻に、本城は容赦なく蹴りを入れた。

 サッカー部顔負けのその一撃に、早乙女は変な声を上げながら前のめりに倒れかけた。


「……だから笑いすぎだっつってんだろ」



 ✳︎✳︎✳︎


 5分程グランド沿いを歩くと、古いような新しいような建物が二人の目に入ってきた。

 建物の入口の真上には、心清寮と書かれていた。


 本城は、やっと着いた。と溜息を漏らしながら言うと、隣に立っている早乙女に早速どこの部屋なのかを聞いていた。


「まずは部屋じゃなくて、監督の所に行かないと。お前、今日から入部なんだからさ」

「はぁ? 監督いんのかよ今」

「いるに決まってるだろ。それに前の監督辞めたから、それの引き継ぎでオフ中もずっと監督室に篭ってるよ」


 早乙女はそう言いながら、野球グランドのバックネット裏にある白色のプレハブを指さした。

 驚いた表情でプレハブを視界に入れた本城は、そんな事は聞いてない! と言葉を吐く。

 本城の吐いた言葉に早乙女は思い出したかのように答えた。


「あー、俺言ってねぇっけ?言われなかったからさー監督変わったこと」

「はぁ!? 俺は聞いたぞどうせ飴みたいに甘々の監督なんだろって!」

「激辛ラーメンのように辛口な監督だよ。まぁ、俺は好きな監督。だからお前も気に入ると思う」


 本城が教わっていた歴代の監督達は、彼の才能と家系図がわかった瞬間、彼を甘やかし当たり前のようにエースナンバーを背負わせていた。

 時には彼に、練習をサボってもいいと言う監督もいたほどだ。


 だから彼は、指導者に期待などこれっぽっちも抱いていないし、むしろチームにただいてくれるだけでいいとまで思っていた。指導などせずに。


「で? 監督の名前は」


 渋々、本城はプレハブの方に方向転換をして歩き出した。


「鷹村監督、ずっと野球一筋で学校に急に志願してきたんだってよ。監督やらせてくださいって」

「どこ情報だよそれ」

「さぁ、でも実力は高いと思う。3年生達は真面目に練習させるから嫌いらしいけど」


 早乙女の話を聞いていた本城だが、何が引っかかるようなものがあるようで、それが何なのかを考え始めた。

 ぺちゃくちゃと口を閉じることを知らない早乙女に適当に相槌を打っていると、その引っかかるものがなんなのかわかったのか、早乙女の顔を覗き込み口にした。


「鷹村ってどこかで聞いたことないか?」

「鷹村? 鷹村なんてそう珍しい名前でもないから、ほら漫画にも出てくるし。きっとそこで知ったんじゃねぇの?」

「いや、俺の知り合いにいたような気がするんだよ」


 んー。と顎を触りながら本城はまた考え込んでしまった。


「お前が知ってるんなら俺も知ってるよな? けど俺、心当たりなんてねぇよ」

「そうか……どこ出身とか聞いてねえ?」


 いやと言いながら早乙女は首を横に振る。

 本城が溜息を吐くと同時に、プレハブの前に到着した。


 中から聞こえる声に、将也の足が止まる。

 鼓動が一瞬だけ早くなるのを感じながらも、彼は無理やり右手を持ち上げ——ノックした。

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