第2話 帰ってきた天才
冬が過ぎ、春が来た。
選手たちは待ちに待ったシーズン開幕を迎え、やっと本格的な野球ができることに胸を高鳴らせていた。
龍咲高校――。
そこには真面目で野球好きな選手が集まる野球部があった。……いや、全員がそうというわけではない。
成績は万年、地区予選敗退。甲子園なんて夢のまた夢。
それでも十年ほど前までは確かに強豪校と呼ばれ、甲子園に名を連ねた歴史を持つ。だが今やその栄光は色褪せ、記憶を知る者も少ない。
「そこそこの選手が集まる学校」――世間の評価は、そんな生ぬるいものに落ち着いていた。
そんな弱小校に、かつて“天才バッテリー”とまで噂された片割れがいた。
正捕手・早乙女咲也。
しかし、彼が入学したところで学校は注目を浴びることもなく、むしろ年を追うごとに影は薄くなっていった。
そして――。
また一人、“天才”がこの弱小校に足を踏み入れようとしていた。
「はぁ……空港から片道二時間半。ずっと座りっぱなしで腰が痛てぇしよ。咲也の奴、校門で待ってるって言ってたのに……」
グチグチと文句を垂れ流す青年。
彼こそが、行方をくらました“消えたエース”、本城将也だった。
肩にかけたスポーツバッグを地面に落とすと、慣れた手つきでスマートフォンを取り出す。
「咲也」と書かれたトーク画面に、苛立ちを込めて「早く来い」とだけ打ち込んだ。
待たされるのが嫌いな性格だった。
手持ち無沙汰になった将也はバッグを開き、ピッチャー用のグローブとボールを取り出す。
校門のコンクリート壁にボールを投げつけると、鈍い音を響かせながら勢いよく跳ね返ってきた。軽々とキャッチしては、再び壁に叩きつける。
何度か繰り返しているうちに、ポケットのスマートフォンが震えた。
「タイミング悪ぃな」と文句を言いながら画面を確認すると、そこにはたった一言。
――「わり、寝ぼった」
短すぎる返信に、将也の苛立ちは爆発寸前だった。スマホを投げ捨てそうになるが、ぐっと堪えて代わりにボールを思い切り壁へとぶつけた。
「おい、そこのガキ。それは壁当てしていい壁じゃねーよ」
背後から声が飛んできた。
「……ガキ扱いすんなや」
跳ね返ってきたボールをグラブに収めながら振り返ると、ランニング姿の男が立っていた。
前髪が目にかかって顔立ちはよく見えないが、年齢は将也とそう変わらなそうだ。
「あ、悪ぃ。普通校門の壁に向かって壁当てする奴なんていねぇから、てっきりバカなガキかと思った」
「あ? ガキが185cmあるかよ」
「へぇ、背ぇ高いな。……まぁ壊す前にやめとけ。弁償させられるぞー」
男は軽く肩をすくめると、耳に差していたワイヤレスイヤホンを直し、そのままランニングを再開した。
将也はしばらく口を開きかけていたが、言い返すのも馬鹿らしくなったのか、結局閉じた。
じっと背中を見送る。――だが、もう二度と会うことはないだろう。そう心の中で決めつけた。
ボロボロになった硬球をバッグに放り込み、深く息をつく。
この場所に立つのは、華やかな球場のマウンドでも、世界大会の決勝戦でもない。
ただの弱小校の校門前だ。
それでも、彼は待っていた。
かつて共に世界を驚かせた相棒――早乙女咲也を。
春の風に校門の桜が揺れる。
その花びらを仰ぎ見ながら、本城将也の影はゆっくりと龍咲高校へと伸びていった。
この最弱から有名へ成り上がる系好きなんですよね!
本城と早乙女の場合はそもそも天才なので、一種のドーピングみたいなものだと思ってます。
ちなみに本城、早乙女の他にあと一人ここに幼馴染があるのでその子も可愛がってください!
さて、ここまで読んでくださりありがとうございます!
ここでは私の独り言を語って行こうと思います!
設定であったり、裏話など。。。
もし面白いと思ったら感想や⭐︎お待ちしております!




