【第7章 第1話】入口の審査
朝。
型の舟が本流に出て半日、川霧の切れ間から最終都市の門が現れた。
大きなアーチの内側で、検印機が低く唸る。
掲げられた札は三行。
門規
① 氏名を記すこと
② 固定印を押すこと
③ 遅延は寿命署名で補うこと
(……**三(固定)**に寄る規則が三つ、か)
ノアが端末を開く。
端末《門前広場:混雑(中)/固定印=自動/寿命補填=“参考”条項/公開:限定》
『二準拠の“暫定発火”を交渉しよう。見せて運ぶしかない』
「いまだけ」
セレネがぼくの指に触れる。《命響》が繋がり、胸の圧が半拍ぶん軽くなる。
(手の温度が半拍ぶん、落ち着かせる)
灰の外套の門審官がこちらを見る。
「氏名・固定・寿命補填。この三つが通過の条件だ」
「二で通します。三は踏みません」ぼくは短く答える。
「印名+証+時間。見える形で公開します。——暫定発火の場所をください」
審官は顎を引いた。「三十拍で示せ」
⸻
設営——“最短の型”を置く
桟橋から下ろした木箱を最小限に開く。
公開箱×2(鏡)/読み札(最短)/合図キット/零印札/返し輪の糸。
看板は三行、門規の向かいに並べた。
《暫定発火:門前》
鈴は数える、灯は休む。
名は使わない(印名+証+時間)。
二で通して、三は踏まない(寿命=0○)。
ノアが端末で基盤を結ぶ。
端末《時寿分離:ON(零印○)/二重公開:門側×街側/観測摩耗:0/固定:未実行》
「《結時》——受け口↔門前」
ぼくが継承鍵を半回転し、切らずに結ぶ。
初鈴。合図係の少女が鳴らすと、足元に音跡二拍が現れる。
**零印(○)**が右下で小さく灯った。
審官の眉がわずかに動く。
「寿命欄は空白のまま……0と印(○)。記録は?」
「公開箱で鏡です。改ざん不可」ノア。
⸻
審査①:氏名を求める欄
門の窓に氏名欄が光る。
(名は通路にしない)
「《印付け》——読印」
印名(やることの名前)+声紋印+息印+拍鍵で読みの箱を作り、氏名欄を停止する。
読み手が替われば鍵も替わる。
端末《氏名欄:停止/読印:有効/差異:0》
審官「責任は?」
ミリィ(いつの間にか立会い)「公開で担保。印名+証+時間で誰でも確認できます」
⸻
審査②:固定印の要求
門の自動ハンコがわずかに前へ。
(三を入れたい癖——返し輪で戻す)
「《結時》——返し輪(固定回避)」
固定線に返しを置き、押されても二へ戻る。
端末《固定印:作動→返し輪で戻り/二止め維持》
セレネが読み札を掲げ直す。
固定は使いません。差異はその場で調停。
⸻
審査③:寿命補填の脚注
審官の端末に小さな脚注。
《遅延時は寿命署名より微量補填》
(また換命の婉曲)
「止めて、結んで、返す」
「《封鎖》——寿命線への裏配線」
「《結時》——拍ほぐし/余拍前倒し(小)」
遅れは余拍箱へ吸い、配給側へ返送。必要ぶんだけ支援流→合図点へ。寿命は不使用。
端末《遅延:解消/寿命欄:0(零印○)維持/公開:ON》
審官は顎に手を当てた。「数字で」
ノアが窓に出す。
端末《通過:+5%/遅延→余拍:12→返送予約/支援:小→合図点/寿命欄:全拍0(○)》
⸻
小さな混乱——録り声の口上
検印機の陰から録り声が重なった。
名はいりません。恋名で通ります——
(また恋名!)
「《印付け》——声紋印+息印(二層)」
基準声=合図係。息印(半拍の灯)は録り声に出ない。
「《結時》——声重ね→基準へ集合」
録り声は増幅に変わり、証は基準ひとつだけ。
端末《録り声:無効化→増幅転化/音跡:二拍維持》
セレネが慌てて言い直す。
「恋名じゃなくて印名! 鈴は数える、灯は休む!」
広場にさざ波の笑い。審官の口角が一瞬だけ緩む。
(三にしないから、言い直せる。それでいい)
⸻
“見える”整流——交差と合流
合流側で半拍のズレ。
「《印付け》——波見/横灯」
「《結時》——交差鈴(二連)/拍ほぐし」
横が先、縦は一拍休み。足元の横跡は半拍、音跡は二拍で濃い。
端末《ズレ:可視化→緩衝吸収/時間酔い:回避/苦情:低》
⸻
門の“最後の質問”
審官「切らずに結ぶと言う。刃が来たら?」
黒外套のグラムが一歩だけ前へ。「交差切りは検証済みだ」
ぼくは頷く。
「表+裏+逃げの三重結び、面は網結び。入力は余拍→返送。記録は公開、寿命=0」
ノアが短く重ねる。
端末《入力返送:今日=9→予約/観測摩耗:0/差異:即時調停》
審官は門標のレバーに触れ、静かに告げた。
「暫定発火、許可。三十拍を二で運べ。寿命欄は0のままに」
⸻
三十拍、見せる
初鈴→一鈴一灯→終鈴(二層)。
音跡二拍が門前から都市の中へ細い道を描き、零印(○)が全拍灯る。
固定印の針は返し輪で戻され、氏名欄は読印に置換。
遅延は余拍で受けて返送、支援は合図点へ小さく回る。
端末《刻限:30確定/差異:0/寿命欄:全拍0(○)/固定:未実行(二止め)》
審官は門札を裏返した。
《条件付承認:二準拠》
最低合図セット=初鈴/間灯/終鈴二層/声紋印
氏名→読印/固定→返し輪/寿命補填→余拍
ミリィが立会印を押す。「A:合格。次は広場標準の合意だよ」
⸻
ラブコメ休憩(超短)
安堵の空気の中、セレネがぼくの袖をつまむ。
「いまだけ……門の中で、二拍だけ手、つないで」
「三にしない範囲で、ね」
指を重ねると、《命響》がふっと灯り、息印が半拍だけ路面に浮いた。
ノアがむせこみ、合図係の少女が肩を震わせる。
(いい。誓いはまだ言葉にしない。二で続ける)
⸻
今日の看板(門前・暫定)
・氏名は使わず読印(印名+声紋+息印+拍鍵)
・固定印は返し輪で回避(二止め維持)
・遅延は余拍で返し、支援は小さく合図点へ
・寿命=0(零印○)を二重公開で維持
・最低合図セットを採用(初鈴/間灯/終鈴二層/声紋印)
端末《通過:門規下で+7%/苦情:低/録り声→増幅転化:5件/入力返送:9→完了予約/観測摩耗:0》
審官が最後に一言。
「三で固める街だが、二で見えるなら——続けてみよう」
ぼくは継承鍵を確かめ、舟の甲板に積んだ型へ視線を戻す。
二で通して、三は踏まない。
切らずに結んで、見せて運ぶ。
そして、二拍で並んで。
——最終章は、門の内側から始まる。




