【第6章 第13話】型の舟
朝。
川べりの桟橋に、小さな舟を一艘。
甲板には型を詰めた木箱が並ぶ——公開箱/読み札束/合図キット(鈴と小灯)/種(seed)×2/拍線ロープ/間灯・夜目灯/零印札/返し輪の糸。
船首には、淡い輪が一つ。**零印(○)**だ。
ノアが端末を開く。
端末《街の状態:安定/通過:平常+9%/苦情:低/差異:即時調停/寿命欄:全拍0(零印○)》
『二準拠は回り、時寿分離は保たれてる。——旅用の設定に切り替えるね』
「いまだけ」
セレネが指を重ねる。《命響》が繋がり、胸の圧が半拍ぶん軽くなる。
(彼女の手の温度で、心拍が半拍ぶん整う)
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1)舟の“型詰め”——最小で運ぶ
ぼくは木箱のふたを開け、順に確認する。
•公開箱(旅仕様):二重公開に対応、差異その場調停の窓つき
•読み札(束):看板三行の短版/夜版/交差版/時寿分離・零印
•合図キット:初鈴/一鈴一灯/終鈴(二層)/夜目灯
•種(seed-旅α/旅β):二で開示/固定なしの冗長化用
•拍線ロープ・返し輪の糸:網結び/返し輪をその場で結べる
•混印箱/順番窓:束ね札/優先札の無効化用
端末《旅仕様:格納完了/固定:未実行(二止め)/観測摩耗:0》
セレネが看板を短く掲げる。
《型の舟(旅仕様)》
二で開示/三は踏まない。
名は使わない(印名+証+時間)。
寿命=0(零印○)。
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2)“預け鍵(仮)”——公開で持つ
継承鍵を胸の前に掲げ、ぼくは公開箱の上へ写し鍵を一つ置く。
「《結時》——預け鍵(仮)」
鍵の機能は二で開示の範囲だけ公開箱へ預け、三(固定)にはしない。本鍵はぼくが持ち、記録は見える。
端末《預け鍵:有効(旅刻のみ)/公開:ON/固定:未実行》
ミリィが立会い印を押す。
「公開で持つ鍵。いいわ、A:合格」
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3)“出張の読み札”——最短で伝える
出航前に、**読み札(最短)**を最後に整える。
最短の約束(三行)
鈴は数える、灯は休む。
名はいらない(印名+証+時間)。
二で通して、三は踏まない(寿命=0○)。
合図係の少女が胸の鈴を鳴らし、一鈴の跡が二拍きれいに残る。
サジが微笑んで言う。
「届いた証は日給になる。働きで回る街を、もう一つ増やしてこい」
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4)見送りと、少しだけラブコメ
積み込みが終わり、ロープを解く。
セレネが船縁から身を乗り出し、ぼくの袖をつまむ。
「いまだけ……舟の名前、決めてない」
ノアが真顔で口を挟む。『恋名は不可。印名で』
セレネ:「じゃあ——『並んで歩く・二拍』」
ぼく:「……長いけど、いい」
合図係の少女が肩を震わせ、広場に小さな笑いが走る。
セレネが頬を赤くして言い直す。
「いまだけじゃなくて、ずっと、二拍で並んで」
ぼくはうなずき、彼女の手を握る。
(三にしないから、言葉は言い直せる。でも——本音は、もう聞こえた)
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5)出航セレモニー——二で開き、ゼロで守る
ノアが端末を掲げる。
端末《出航:準備完了/時寿分離:ON/零印:船首○/種:旅α起動》
ぼくは短く宣言する。
「《公開》——旅仕様・型の舟」
「《結時》——受け口↔桟橋(旅)」
初鈴。桟橋から桟へ、音跡二拍の細い道が水面に伸び、夜目灯が一瞬だけやさしく点る。
**終鈴(二層)**で列を閉じ、零印○が静かに灯ったまま、舟は流れへ滑り出した。
端末《刻限:30確定(見送り)/差異:ゼロ/寿命:全拍0(○)》
ミリィが手を振る。「B:合格。言葉は短く、公開は強く」
黒外套のグラムは橋の影で片手を挙げただけだが、その口端はわずかに上がっていた。
(刃は、縫い目を確かめるため。……彼も、そう思い始めている)
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6)今日の看板(出航版)と数字
今日のまとめ(型の舟)
・旅仕様の型(公開箱/読み札/合図キット/seed/返し輪)を最小構成で搭載
・預け鍵(仮)で公開の手に一部機能を託す(二/固定なし)
・二準拠条項(三行)と最低合図セットを標準として持ち出し
・時寿分離+零印(○)で寿命=0を維持
・差異はその場で調停、入力は余拍→返送
端末《通過:平常+9%/苦情:低/公開アクセス:増/旅seed:正常/観測摩耗:0》
セレネが最後に口上を置く。
名はいりません。印名で通ります。
鈴は数える、灯は休む。
二で通して、三は踏みません。
ぼくは継承鍵を確かめ、彼女の手をもう一度、二拍だけ強く握る。
舟は拍線の上を、静かに下流へ。
船首の零印○が小さく光り、街の終灯が一瞬だけ応える。
——第6章、完。
次章、最終章。
二で通して、三は踏まない。
切らずに結んで、見せて運ぶ。
そして、二拍で並んで。




