【第6章 第12話】合流点の約束
朝。
川が二本、ひとつになる合流点。石畳の中央に、ぼくらは最小セットを置いた。
公開箱×2(街側/上流側の鏡張り)、読み札(短)、合図キット(鈴と小灯)。
看板は三行、はっきり。
《試行:合流点》
二で開示/三は踏まない。
名は使わない(印名+証+時間)。
端末《時寿分離:ON(零印○)/二重公開:街×上流/観測摩耗:0》
上流区の調整官と白衣のミリィが立会う。灰のスーツの代理長は書面で参加。
「いまだけ」
セレネが指を重ねる。《命響》が繋がり、胸の圧が半拍ぶん軽くなる。
(緊張の温度が、半拍ぶん静かになる)
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1)最低合図セットを“合わせる”
ぼくは最低合図セットを路面に示した。
•初鈴:列を数え始める合図
•間灯:休む合図(数えない)
•終鈴(二層)+終灯:終わりの合図
•声紋印(+息印/拍鍵):読み手の証/交代の鍵
セレネが口上を短く読む。
鈴は数える、灯は休む。
声は重ねてOK(基準=合図係)。
二で通して、三は踏みません。
端末《上流側:仕様登録/seed-03γ:生成→有効(冗長化)/差異:0》
初鈴。両側の列が同時に進み、音跡二拍が合わせ鏡みたいに残る。
右下の零印○は両窓で灯った。(寿命=0、見える)
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2)“名簿”の持ち込み——印名で受ける
上流の調整官が名簿台を指す。
「責任の所在が要る。氏名を書きたい」
「名は通路にしない」
ぼくは札を押す。
「《印付け》——読印(印名+声紋+息印+拍鍵)」
人名禁止、二で開示。読み手が替われば鍵も替わる。
端末《氏名欄:停止/読印:有効/差異:0》
ミリィが一言添える。「責任は公開で担保。印名+証+時間で誰でも確認できる」
調整官は頷き、名簿台を脇へ下げた。
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3)“三のハンコ”の誘惑——返し輪で戻す
上流窓の片隅で、自動ハンコが完了印=固定を押そうとわずかに動く。
(三を入れたい癖——ここで断つ)
「《結時》——返し輪(固定回避)」
固定の線に小さな返しを置き、押されても二へ戻る。
端末《固定印:作動→返し輪で戻り/二止め維持/公開:ON》
セレネが読み札を掲げ直す。
固定は使いません。
差異はその場で調停します。
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4)合流の“ズレ”——間灯と声重ねで揃える
二筋の列が合流点で半拍だけズレた。
交差鈴(二連)を鳴らす前に、無音の針が合間へ薄く差し込む。
(見えるに変えて、声で支える)
「《印付け》——波見」——揺れた場所にだけ薄い波紋(数えない)。
「《結時》——声重ね(コーラス)/基準=合図係」
合図係の少女が口上を置き、ぼくとセレネ、サジが半拍遅らせて重ねる。
息印が半拍灯り、音跡二拍は濃さを取り戻す。
端末《ズレ:可視化→緩衝路吸収/余拍:小→返送予約/寿命:0(零印○)》
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5)“延滞は寿命で補う”条項——時で返す
上流の紙束に小さな脚注。
《合流遅延が出た場合、寿命署名より微量補填》
(また換命の婉曲)
「止めて、結んで、返す」
「《封鎖》——寿命線への裏配線」
「《結時》——拍ほぐし/余拍前倒し(小)」
遅れは余拍で返送、必要ぶんだけ支援流→合図点/業点へ。寿命は不使用。
端末《遅延:解消/支援:小→業点/寿命欄:0固定》
ミリィが公開箱に記す。
《延滞補填=時で処理/寿命=0》
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6)合流点の“最低標準”を宣言
ぼくは三行の札を掲げる。両側で同文。
二準拠条項(合流版・三行)
1.時で開示(鈴・灯)/寿命は使わない(零印○)。
2.名は使わない(印名+読印で認証)。
3.差異は公開で調停、**固定(三)**は不使用。
上流の調整官が署名し、ミリィが立会印を押す。
端末《採択:仮→本運用へ/雛形:差替キュー投入/外周:告知開始》
初鈴→一鈴一灯→終鈴(二層)。
二つの街の音跡二拍が、同じ濃さで並んだ。
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7)ちょっとした“誓い”の言い間違い
締めの口上で、セレネがぼくの袖をつまむ。
「いまだけ……契り——じゃなくて結び、二で続けよう」
「……うん」
ノアが咳払い。「婚姻届は取り扱ってません。読印は仕事だけ」
広場にさざ波の笑い。
セレネの耳が赤くなる。
(三にしないから、言い直せる。でも、半拍の本音は覚えておく)
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8)終わり方と調停、そして数字
チ、チン。終鈴(二層)、終灯が一瞬。
上流窓の自動補正が**+1へ傾く前に、ぼくは指で押さえる。
「《封鎖・判定》——時=30/寿命=0」
差異はその場でゼロ**に揃い、零印○が両窓に残った。
端末《刻限:満了/採択:二準拠(合流点)/固定:未実行(二止め)/観測摩耗:0》
《通過:通常比+9%/苦情:低/遅延:小→余拍返送/支援:小→合図点・業点》
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今日の看板(合流点)
・最低合図セット:初鈴/間灯/終鈴二層/声紋印
・二準拠条項(三行)を相互採択
・寿命=0(零印○/零縫い)を二重公開で維持
・遅延は余拍で返し、働きへ小さく回す
・固定(三)は返し輪で回避、差異はその場で調停
調整官は帽子を取り、短く礼をした。
「切らずに結ぶ。二で運び、ゼロを見える。……約束を守ろう」
セレネがぼくの手を握る。
「いまだけじゃなく、これからも」
ぼくはうなずく。
継承鍵は公開の手で支えられ、音跡二拍が静かに並ぶ。
——残るは標準の宣言と、旅立ちの舟。
二で通して、三は踏まない。
止めて、結んで、返す。
その“型”で、次の最終章へ。




