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【第6章 第9話】針の母体

昼。

広場の長机で、ぼくは**零印れいじるし**を公開箱に加えた。


零印=寿命使用:0 を一目で示す小さな輪。

二で運用中は、各拍の右下に○が点く(数えない/改ざん不可)。


端末《零印:有効/全拍=○表示/観測摩耗:0》

ノアが頷く。『数字の0に印の0を重ねる。——“見えるゼロ”は強い』


「いまだけ」

セレネが指を重ねる。《命響リリンク》が繋がり、胸の圧が半拍ぶん軽くなる。


その瞬間、公開箱の隅で同時刻の細い揺れが三ヶ所に走った。

端末《異常:影針=同時多発(拍外)/発信=上流共通ノード》

(……無名の“針”、送り手がまとまってる)



1)どこから来る?——返送タグで“流れ”を追う


切らずに、流れだけ見たい。

ぼくは余拍箱に薄札を差す。


「《印付け》——返送タグ」

返送する余拍に小さな匿名タグをひと粒混ぜ、どの口へ返っていくかだけ公開で可視化(人には結びつけない)。


端末《返送タグ:発火/個人情報:不保持/公開:ON》


タグの矢印が地図に浮かぶ。三本とも川上、旧記録倉庫の裏側へ吸い込まれていく。


ノアが短く言う。『発注層……紙の契約が出る口だ』



2)上流へ——“契約針”の正体


旧記録倉庫の裏扉。

白衣のミリィが立会に入り、灰のスーツの代筆係が紙束を抱えて現れた。

紙の端に、細い契約針——**「期限超過時、寿命署名を“参考値”として記す」**の小文字。


(参考値でも、道になる。——時寿分離を持ち込む)


ぼくは継承鍵を半回転。

「《結時むすびどき》——時寿分離(上流接続)+返し輪」

時の線と寿命の線を別路にし、交差に返し輪。

さらに紙面の端へ零印の枠を置く。


端末《上流:時寿分離/零印:欄外スタンプ→有効/固定:未実行(二止め)》


セレネが短く読む。


読み札(上流版・三行)

鈴・灯=“時”だけ

寿命=書かない/動かさない

動いたら見える→その場で戻す


ミリィが頷く。「公開にして進めましょう」



3)試験A:+1刻の“保証文”(紙)


代筆係が紙の脚注を指で弾く。


《+1刻の保証:寿命署名を参照(記載はしない)》

(参照でも、針になる)


ぼくはその脚注の線だけを噛む。

「《封鎖》——寿命参照の裏配線」

参照線を止めた上で、

「《結時》——刻限・表裏結び(時だけ)」

+1は裏で反発、紙の欄外には零印が残る。


端末《+1刻:反発/寿命欄:空欄+零印/記録:公開箱へ同期》

代筆係が目を丸くする。「書いていないのに、針が……」


ミリィが代筆係に告げる。「“参照”も針になる。今は外すのが正しい」



4)試験B:酔いの補填条項


次の紙。


《列の酔いが出た場合、寿命署名より微量補填を――》

(換命の婉曲)


「止めて、結んで、返す」

ぼくは緩衝の印を紙へ移す。

「《結時》——拍ほぐし(紙側の仕様)」

酔いは余拍で吸い、返送と支援に分ける。寿命は触れない。


端末《酔い補填:余拍へ置換/寿命欄:零印維持/条項:脚注へ“不採用”記録》


セレネが一行添える。


補填は“時”で行う(余拍/ほぐし)。寿命は使いません。



5)試験C:名の欄(認証)


三枚目の紙に**「氏名」**の枠。

代筆係:「責任の所在が……」


(名は通路にしない。印名で足る)

「《印付け》——読印/印名欄」

氏名の枠は使わず、印名(やることの名前)+声紋/息印/拍鍵で認証。

人名禁止、二で開示のまま。


端末《氏名欄:使用停止/印名欄:有効/記録:公開箱に鏡張り》

ミリィが紙に印を押す。


《立会:人名→不使用/印名→使用》


代筆係は肩の力を少し抜いた。「言葉が短いのはいい。読み違えない」



6)母体そのもの——“針束”の処理


書庫の梁の影で、針が束になって揺れた。

——契約雛形そのものに埋め込まれた初期値。

寿命欄=空白、だが欄外に微かな正の癖(0→0.○に傾ける“零嫌い”)。


(なら、零を結んで固定しない形で守る)

「《結時》——零縫い(ゼロステッチ)」

寿命欄の“0”に薄い返し糸をかける。数えないが、勝手に増えない。

0のまま動き出そうとすれば、返し糸で元へ戻る。


端末《零縫い:有効/零嫌い:無効化/固定:未実行(二止め)》


ノアが公開箱に短く載せる。


零の約束:0は見える/触れない/勝手に増えない(零印+零縫い)


束の針は、静かに張力を失って沈んだ。



7)合意:二準拠条項(短)


ぼくは紙の末尾に三行の札を添える。


二準拠条項(短)

1.時で開示(鈴・灯)。寿命は使わない。

2.人名は不使用。印名+読印で認証。

3.差異は公開で調停。**固定(三)**は使わない。


ミリィが署名し、代筆係も頷いて押す。

代理長室からの連絡票が届く。


《旧雛形の差し替え許可(試行地区:下流区)》


端末《雛形:差替キュー投入/針束:無効化→保管/返送タグ:終点=旧記録倉庫裏→解消》


(母体の針、まずは一本止めた)



8)広場での“見える”確認


戻った広場。公開箱には零印が続き、返送タグの矢印は消えている。

端末《寿命欄:0→0→0(全拍)/零印:全拍○/影針:減少/苦情:低》

ノアが短く告げる。『送り手の一口、閉じた』


セレネが看板を足す。


今日のまとめ(母体)

・返送タグで針の送り手を特定(旧記録倉庫)

・時寿分離+零印/零縫いで寿命線=0を“見えるまま守る”

・+1刻の保証文→反発、酔い補填→余拍へ置換

・氏名欄→印名+読印に置換

・二準拠条項で雛形を差し替え(試行)


合図係の少女が胸の鈴を軽く鳴らす。

「ゼロって、怖くないね。印で分かるから」


黒外套のグラムが通りがかり、紙片を指で弾いた。

「切らずに、雛形を縫い替えたか。三を入れずに持たせる——上出来だ」


ミリィが小さく笑う。

「次は、合流点で二準拠を標準にすること。声の看板は短く、ね」


ぼくは継承鍵を握り直す。温度は変わらない。

二で通して、三は踏まない。

止めて、結んで、返す。

——母体をひとつほどいた。次は、合流点の約束を同じ言葉で掲げる。

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