【第7話】選ばれし者の条件
薄明かりの倉庫内。
クロとノアは、静かな時間を共有していた。
「……観測するに値する存在って、どういう意味なんだ?」
クロが口を開くと、ノアは少し驚いたように目を瞬かせた。
「あなた、自分の異常さに気づいていないの?」
「まあ……変だとは思ってるよ。スキルが勝手に目覚めて、寿命を奪ったり反転したり……」
「違う。あなたの“適合度”よ」
ノアは、手のひらをかざした。そこには、うっすらと蒼い光。
「この世界のスキルは、誰もが使えるものじゃない。
多くは才能や素質、寿命資産に比例して覚醒する。でも——」
彼女はクロのリングを指さした。
「あなたは、何も持っていなかった。それなのに、最上級スキル《時蝕》に適合した」
「最上級……?」
「《時蝕》は、“時を蝕む”異能。
通常は寿命を吸収するだけ。でも、あなたのは違う。“転写”と“反転”の両方を持っている。
本来、複数スキルの発現は不可能。それを自然に成したのがあなた」
クロは、自分の手首を見下ろした。
「……そんなすごい力を持ってても、死にかけなんだけどな」
「だから、あなたを観測してるの。
この世界がまだ知らない“可能性”を、あなたが証明してくれるかもしれないって」
ノアの目は、真剣だった。
「……選ばれし者、か」
「違う。選ばれたんじゃない。“選んだ”のよ、あなた自身が」
クロは驚いたように顔を上げた。
「たった10分しかなかった命で、あの時あなたは——生きることを“諦めなかった”。
それが、スキルの発現条件。
誰よりも生きることに執着した者だけが、《時蝕》に適合する」
クロの心臓が、ドクンと鳴った。
思い返す。絶望に沈む中、最後の最後で「生きたい」と叫んだ、あの瞬間。
「だから私、あなたに賭けてみたくなったの」
ノアは、微笑んだ。
「この世界を壊すか救うか。全部、あなた次第よ」
クロはそっと、拳を握った。
「なら——やってやるさ」
その拳は、小さくても確かな意志を握りしめていた。